*過剰な、アイは破滅へ向う?相鏡的な他者との出会いがアイ!であれば、避けようがない?
*この映画は、一夏を山岳の牧草地でバイトで過ごすことになった、2人の牧童(青年と言うべきだろうが)の間で発生した、ゲイ行為が、下山して通常の生活に戻ってからも、永続的に関係を求めたい、という耐え難いパッションに襲われ続けて、関係を復活するドラマである、
本年度のアカデミー賞で監督賞、脚色賞、作曲賞を受賞した『ブロークバック・マウンテン』を監督したアン・リー。カウボーイ同士の許されぬ同性愛を繊細に描いた本作は、ヴェネチア国際映画祭での金獅子賞受賞を皮切りに多方面から高い評価を得ている。アカデミー賞の発表を間近に控えていたアン・リー監督が来日をした際に本作について語ってもらった。
■ゲイの観客の反応
Q:この作品を観たゲイの観客からの感想は聞かれましたか?
ええ、たくさん聞きました。ほとんどの方は楽しんでくれたと思います。ストーリを自分たちの物語のように共感してくれたんじゃないでしょうか。ゲイがテーマの映画というのは、ゲイを病気としたりゲイに対する非難をともないますが、この作品は珍しくロマンチックなラブストーリーで、“ゲイ”を尊重しているんです。観客の中にはもっとゲイらしい要素を映画のなかに観たいと思っている人がいたようですが、彼らはこの作品が人気であることや、主人公がゲイ独特の喋り方やスタイルもなく、一見ストレートであることにがっかりしているのかもしれないですね。これはわたしにすれば、なにも特別なことではありませんし、彼らがゲイだからゲイらしく振る舞う必要はないのです。でもほとんどの観客には気に入ってもらえたと思っています。映画館でも、たくさん泣いている人がいましたし。
Q:もっとゲイの恋愛映画を作ってくれというオファーはありませんでしたか?
そうですね、そんなにこのジャンルが定着する必要性があるのかわかりませんが、あくまでもポピュラーな映画をつくっているので。でもゲイの恋愛映画を作ることに対しての反対意見も聞きません。
■テーマは普遍的なもの
Q:“ゲイ”を扱った映画ということでタブー視する人もいるようですが……
これはゲイ映画です。その意見に対して反対はしません。ゲイ映画であるべきですし。しかし、この映画のテーマは普遍的なものなんです。この作品が、ただのゲイ映画だとも思っていません。ゲイ映画という言葉は面白くて、ゲイ映画というとゲイについての映画、アウトサイダーを描いた映画、アート映画のように思われますが、この映画はそうではなくて、中間の位置にあるんです。でも、ゲイの恋愛映画ではあります。最終的にたどり着くのは愛なんです。愛というものは謎に満ちていて、愛に触れたり、全体を理解するということはできませんね。愛をさまざまな角度から見ると、それぞれ違った一面が見える。しかし、それも愛の一つの側面でしかない。この映画が見せようとしているのはまさにそれなんです。
Q:キャスティングはどのように行いましたか?
まず、若い男優を選ぶようにしました。彼らには、実年齢よりも、もっと年を重ねていく役を演じてもらう必要があったので。もし、そうしていなかったらまた違っていたでしょうね。若さゆえの純粋さがこの映画にどのように反応するか見てみたかったんです。20代前半の優秀な役者達の中から、ウェエスタンヒーローのようなイメージにピッタリのヒースが適役だと思ったのです。彼は西部の男が持つ強さと繊細さを表現できる逸材で、小説の持つエネルギーを表現することができたと思っています。硬派で、芯の強さを持った役者です。ジェイクはむしろ、ハリウッド映画でよく見られるロマンティックな役で、頭が良くて、そして苦悩する役でもあります。彼がロマンティックな役割をもち、ヒースが西部的な役なんです。
Q:ジェイク演じるジャックの心の変化もとても繊細に描かれていましたね
ジェイクの役は常にロマンティックで、あまり暴力的ではないのですが、ロマンスに関する感情は勇気を持って表します。彼はロマンティックなラブストーリーとなると、勇気があって、楽観主義者、「僕たちなら、なんでもできる!」という考えになります。だから彼にもそういった演出をつけました。ジャックの持つそんなイメージが、ジェイクにはあったので彼を選んだのですが、撮影を進めるうちに彼は難しい役どころに挑戦していくタイプの俳優だと分かりました。ヒースの役は、とても神経質で複雑で、感情の変化が激しいので、演技は大変だったと思います。彼の役は過去の経験をトラウマとして抱えているので、まるでわたしが以前監督した『ハルク』を演じているようでしたね。ジャンルは違いますけど、イニスは『ハルク』にとても似ていると思いますよ。
Q:プレッシャーは感じませんでしたか?
低予算で作った映画なので、まったく感じませんでした。男性同士のセックスといっても心理的な部分を強調したかったんです。私の映画製作はゲイ映画製作とは違うので、どうするのか分かりませんし、役者達も演技でやっているので、とても心理的なものなんです。でもカメラワークには、大切なシーンが壊してしまう恐れもあるし、また心理的な境界線も崩してしまう可能性があるので、とても力を入れましたね。