新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

「もしドラ」を読んだ

2021年08月01日 | 日記

岩崎夏海「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」
 この本を読み終えて、「いいなあ」と思った。まさに青春小説。青春小説でありながら経営学者ドラッカーの理論を踏まえている。ドラッカーをまったく知らなくても楽しめた。
 主人公みなみは多摩地区でも有数の進学校、都立程久保高校の2年生。入院中の友人、夕紀を助けるために野球部のマネージャーになったみなみは、漠然と「この野球部を甲子園へ出場させる」と心に決める。そのためにはどうすればよいか。マネージャーとは何をする人のことか、マネジメントとはなにか、を調べ、ドラッカーの「マネジメント」を入手する。
 程高野球部は、部員こそ20人いるが、ふだんの練習への出席率は悪く、監督も部員も1年生マネージャー文乃も互いに気兼ねしながらだらだらと日々を過ごしている。試合ではかならず投げるピッチャー慶一郎は、ピッチャーとしての能力はあるが練習をサボりがちで、練習に出てきても少数の仲間とおしゃべりしてばかりだった。監督、加地は経験豊富で野球に詳しいが、慶一郎や他の部員に気兼ねしてあまりきついことをいわない。1年生マネージャー文乃はなにを訊いても「あ、はい」としかいわない。みなみは「みんなを甲子園に出場させる」と希望を伝えるが、反応は鈍かった。
 ドラッカーの「マネジメント」を読み、マーケティングの大切さを知ったみなみは、まず部員の意見を聞くことからはじめる。それには入院中の夕紀を部員たちに見舞わせ、病室で夕紀から意見を聞きとる方法をとる。「マネジメント」をなんども読んだみなみは、人をじょうずに動かす必要性を理解する。みなみのやる気を感じた部員が次々に提案してくれた。走塁の技術を高めるために陸上部の指導を得よう、体力をつけるために家庭科部に頼んで食事メニューを作ってもらおう。家庭科部とはやがて週1回の試食会へと発展する。野球部の本気度を知った他の部も黙ってはいなかった。吹奏楽部は応援歌を作詞作曲してくれたし、チアリーディング部は練習試合に応援に来てくれた。さらに学校の外へも働きかけを強め、近所の強豪、私立大学野球部に練習風景を見学させてもらい、練習試合までしてもらう。毎週土曜には近所の子どもたちを相手に野球教室を開く。すると対外試合に子どもたちが応援に来て盛んに声援を送ってくれるようになった。
 みなみは行き詰まったとき、「マネジメント」にはどう書いてあるかを思い浮かべるのだった。監督、加地は野球の原点に立ち戻り、「ピッチャーにはボール球を投げさせない」「バッターにバントをさせない」をモットーにした。するとムダな労力を使わずに試合に勝てるようになってくる。1年後の夏、夏の高校野球大会予選がおこなわれ、万年ヘボチームだった程高野球部はみごとに勝ち進んだ。入院中の夕紀は1年経っても退院できない。その後のクライマックスは実際に読む人のために控えておこう。
「他人を動かす」「やる気にさせる」「社会へ働きかける」などは、野球部だけでなくいろいろな場面で応用できる基本原理でもある。示唆に富む小説だった。

 7月27日夜、月下美人が開いた。例年、10月に咲くが、ことしは早かった。