新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

村上世彰氏

2019年12月10日 | 日記

 小学校3年生のとき父から100万円を小遣いとしてもらい、それを使って投資を始めた。投資は順調に進み、高卒時には大金持ちになっていた。村上ファンドを立ち上げ「ものいう株主」として一躍有名になったが、インサイダー取引で逮捕された。たまにメディアで見かける程度だが、颯爽と登場した若手投資家もいまでは白髪になっているが、その風貌からは相変わらず精力的に活動しているようすがうかがえる。シンガポールに生活の拠点を移し、日本の学校でお金の授業をしながら、子どもたちにお金についての啓蒙活動をしている。村上氏については、この程度の知識しかもっていなかった。
 このたび上梓された村上氏の著書「生涯投資家」を読み、この人についての見方が百八十度変わった。株主と会社経営者との関係、株主総会はなんのためにあるか、コーポレート・ガバナンスが日本の会社に欠如していることなどを知らされた。
 株というのは配当を期待して会社に投資することだと思っていたが、それだけではない。会社の経営を精査し、望ましい方向へ向かわせることが株主に求められている。そのために株主総会を開くことが義務づけられている。シャンシャンのお手盛りで総会を終わらせる会社があとを絶たないのは、会社の経営者側にも株主側にもコーポレート・ガバナンスが欠如しているからだ。国でいえば、政府がしようとしている政策をチェックするのが国会であるはずが、それが十分に機能せず、政府の思惑どおりに政策が推し進められているのに似ている。政府が会社経営者、国会議員が株主にあたると考えれば分かりやすい。株主は配当金やその会社から得られる特典を目当てに投資するのでなく、その会社の財務諸表をチェックし、会社の経営方針を明確化させることによって株価を適正なものにしていく努力をしなければならない。
 村上氏はコーポレート・ガバナンスに早くから目覚め、遅れている日本の会社を健全な方向へ導こうと活動してきたのだった。「ものいう株主」という揶揄が入り交じった表現で世間から注目を浴びるようになった背景には、一歩先んじていたアメリカの会社文化を知悉していた村上氏の識見があった。文春文庫「生涯投資家」の解説でジャーナリスト、池上彰氏が奇しくもこう書いている。「“金の亡者”であるかのような印象が世間に広まってしまった村上氏ですが、本書を読むと、まるで少年のような正義感を持った人物である姿が見えてきます。投資を通じて世の中のお金の流れを円滑にし、経済を発展させたいと強く願っているのです。」いま村上氏が子どもたちにお金の授業をして回っているのも、うなずける。

写真はわが家の近くにあるいま盛りの紅葉