新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

教科書が書かないこと

2019年01月07日 | 日記

 2005年6月14日、スタンフォード大学の卒業式にスティーヴ・ジョブズが招かれ、スピーチした。「Stay Hungry, Stay Foolish」と学生たちに呼びかける有名な演説として歴史に残っている。1月はこのスピーチを使って授業する。
 教科書に採りあげられている部分はスピーチ原稿全体の3分の2程度だろうか。長すぎるから削られただけでなく、なんらかの別の理由で削られた部分がある。それを掘り起こすことも、われわれ授業する教員側の力量に任される。
 ジョブズはまず大学の卒業式に招かれたことに感謝を述べる。そして自分の大学との関わりについて話し出す。入学して6か月で退学した。それから1年半ほど、いわゆる「もぐり学生」をつづけた。なぜ大学を辞めたか。みずからの出生と関わりがあり、出生の秘話を明かす。
 教科書ではこの部分をカットし、大学でもぐり学生としてさまざまな授業を聴講した話へとつなげている。教科書でカットされた部分を書いていく。
 ジョブズの産みの母は未婚の大学院生だった。子どもを産むにあたり、育ててくれる夫婦を捜した。産みの母として育ての親を選ぶにあたり、どうしても譲れない条件があった。彼らが大学卒であることだ。よい夫婦が見つかった。弁護士夫妻だ。ところがジョブズが生まれた瞬間、夫妻は女の子がほしかったと言いだした。弁護士夫妻は身を引いた。産みの母は長いウェイティングリストを見ながら夜中に電話した。「思いがけず男の子が産まれたのですが、ほしいですか」「もちろんです」と応じた夫妻がいた。ところがその夫妻は、夫が中卒、妻が高卒という低学歴だった。産みの母は息子の引き渡しを一度は拒否した。2,3か月が経過し、ついに産みの母が折れた。かならず息子を大学へやることを条件に引き渡しに応じた。17年間、労働者階級の両親はせっせと貯金し、約束どおりジョブズを大学へやった。
 ジョブズは大学へ進学したものの半年後には退学し、育ての両親がためた学費を無駄にしてしまった。その後、もぐり学生としてさまざまな授業を聴講する。
 さて、教科書からカットされたこの話を授業にどう折り込んでいこうか。なぜこの部分が検定教科書からカットされたかは容易に想像できるだろう。じつは、このような話になると生徒たちは目をランランと輝かせる。楽しみだ。こちらとしては検定教科書制度の弊害を逆利用できるのだから、痛快だ。