昨年、書棚に詰め込まれていた古い書籍、辞書等を大胆に整理処分したことが有ったが、その際に、多分、長男か次男かが学生時代に使っていたものに違いない、文英堂の「小倉百人一首」(解説本・参考書)が目に止まった。パラパラと ページを捲ってみたところ、なかなか詳しく、分かりやすく、子供の頃、正月になると、必ず家族でやっていた「百人一首かるた取り」を思い出して懐かしくなり、「今更、向学心?」なーんてものではなく、ブログネタに?、頭の体操に?等と思い込んでしまい、処分せず、以後座右の書にしてしまっている。「小倉百人一首」は、奈良時代から鎌倉時代初期までの百人の歌人の歌を、藤原定家の美意識により選び抜かれた秀歌であるが、時代が変わっても、日本人の心情が呼び起こされるような気がする。
今年も残すところ1ケ月、師走に入り、初冬から本格的な冬を迎える。「小倉百人一首」で、季節を詠んだ歌の中では 「冬」を詠んだ歌は非常に少なく、一般的には、6首のみとされているようだ。「雪」や「霜」、「白」等という文字が含まれている歌が多く、「冬」の印象的な風景が詠まれているという。今回、「冬」を詠んだ歌を取り上げてみることにした。
千鳥(ネットから拝借画像)
百人一首で、「冬」を詠んだ歌、その5
淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に
幾夜寝ざめぬ 須磨の関守
出典
金葉集(巻四)
歌番号
78
作者
源兼昌(みなもとのかねまさ)
歌意
淡路島から通ってくる千鳥のあわれな鳴き声に
幾夜、目を覚ましてしまったことか。
須磨の関守は。
注釈・補足
「淡路島」=兵庫県に有る島、歌枕。
「かよふ」=淡路島と須磨の間を行き来するの意だが
この歌では「淡路島から通ってくる、渡ってくる」と解釈する。
「千鳥」=冬季に海や川の辺りで見かけられる鳥。
俳句では 冬の季語とされている。
「寝ざめぬ」=「寝ざめ」は 眠りの途中で目を覚ますの意。
「ぬ」は完了の助動詞。
「須磨の関守」=須磨の関の番人。体言止め。
「須磨」=現在の神戸市須磨区に有り、
古くは関所が有った。
都から遠く離れた流浪の地の印象が強い歌枕。
第4句、第5句は 倒置法。
金葉集の詞書には 「関路千鳥といへることをよめる」とある。
関守は、時を告げる鶏の声で寝覚めるものというのに、
千鳥の鳴き声で目覚める等という設定で、
須磨というわびしい土地柄を表現している。
また、関守に仮託した作者の孤独な旅寝の愁いを深めるものになっている。
源兼昌
宇多天皇の皇子敦実親王六代の孫、美濃介俊輔の次男、
宇多源氏の流れを引く人物
堀河、鳥羽、崇徳、三天皇に歌人として認められた。
参照・引用
小町谷彦著 解説本「小倉百人一首」(文英堂)
(蛇足)
千鳥(チドリ)
コチドリ、ハジロコチドリ、タゲリ、ケリ、等の チドリ目鳥類の総称。
海岸、干潟、河川、湿原、草原等 様々な環境に生息する鳥類で、全世界に分布している。冬に見かけることが多い鳥類で 俳句では 「千鳥」は 冬の季語になっている。
日本では 古く万葉集でも 千鳥を詠み込んだ歌がある。
「千鳥」という響きからは 童謡、鹿島鳴秋作詞、弘田龍太郎作曲「浜千鳥」、北原白秋作詞、近衛秀喜作曲「ちんちん千鳥」等が 連想されてしまう類であるが。