ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

日本フェザー級TM 渡邉一久vs小林生人

2006年05月20日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
わずか1ラウンドで王座決定戦を制した渡邉の、初防衛戦。
勢いという点に限って言えば、今最も乗っている選手の一人と
言っていいだろう。

何しろその試合ぶりは、派手で騒々しい。抜群の身体能力を利して
縦横無尽に動き回りながら相手を挑発したかと思えば、唐突に
ビッグパンチを振り回して襲い掛かる。かつてのスーパースター、
ナジーム・ハメド(元世界フェザー級王者)を彷彿とさせるキャラクターだ。

今回はチャンピオンとして初の試合ということもあり、入場シーンも
ド派手だった。暗転した場内に、ファンによるライターの明かりが
点々と灯る中、何と渡邉は2階席から登場。軽快な音楽に体をくねらせ、
客席の中を練り歩き、たっぷり時間をかけてのリングインとなった。

演出自体に金をかけるのではなく、ファンの力添えを得ることで
一体感を生み出すやり方には好感が持てた。独り善がりの演出で、
かえって寒々しい空気を作り出す選手を数多く見ているだけに・・・。


一方の小林だが、試合前は渡邉を「やりたくない選手ナンバーワン」と
表現していた。それは、友人(現在の日本スーパー・フェザー級王者で、
渡邉のジムの先輩にも当たる小堀佑介)を介して何度も食事をした仲で
あることが理由だった。しかし、先にリングに上がった小林には、
戸惑いの表情など一切なく、別人のように闘志を剥き出しにした厳しい
目つきをしていた。

ここまで13戦全勝、ランキング1位。小林の方も、掛け値なしのホープ
なのである。両陣営の凄まじい応援合戦の中、試合開始のゴングが鳴った。


小林の試合は見たことがあるはずなのだが、なぜか記憶にはない。
がっちりした構えから判断するに、崩れにくい堅実なスタイルを持った
選手のようだ。一方の渡邉は対照的に、トリッキーな動きを駆使して
リング上を踊るように動く。その過剰とさえ感じられる派手な動きに、
少し気負いがあるのだろうか、とも思った。しかしパンチにはスピードが
あり、軽くではあるがジャブがヒット。小林もよく攻め込み、ほぼ互角の
内容と見えたが、手数とアクションの見栄えの良さで、ここは王者の
ラウンドだっただろうか。

続く2ラウンド終盤には、小林の攻勢があった。防御勘にも自信を持つ
渡邉がノーガードで不用意に接近したところに小林の右がヒットして
王者がぐらつく。そこへ連打を仕掛ける小林。この攻勢の印象で
小林のラウンドと見た。ただし振り返ってみると、ここが小林にとって
最大の見せ場であったことになる。

その後は、渡邉が大振りのパンチを振り回しながら小林をロープに追い込む
場面が目立った。大振りだけにヒット率は低いのだが、スピードがあるため
小林はカウンターを取り切れない。大振りだけではなく、シャープなジャブや
コンパクトな連打も見せ、派手なアクションとは裏腹に、なかなか冷静に
戦っているという印象を受けた。また、ヒット率が低いとはいえ、大振りの
パンチは当たった時の威力も凄まじく、6ラウンドには小林をグロッキーに
陥れるシーンも見られた。

対する小林は、目まぐるしく動く渡邉にパンチをまとめ切れず、そのために
狙い過ぎてしまうせいか手数が少ない。力を出し切れていない、出させて
もらえないという状態に見えた。極端に運動量の多いスタイルの渡邉は、
後半に必ず失速する。この試合でも8ラウンド辺りにその兆候が見られたが、
ずっとトリッキーな渡邉の動きにペースをかき乱されてきた小林の方にも
疲れがあり、予想されたチャンスをものにすることが出来なかった。

それでも小林はしぶとく食い下がり、試合は判定にまでもつれ込んだが、
渡邉の勝利は明白だった。3-0の判定勝ちで、渡邉が初防衛に成功した。


一見傍若無人な、身体能力に依存するだけのワイルドなボクシングスタイルで
あるかのように見える渡邉だが、堅実な小林のスタイルを打ち崩すには
この変則的な戦法が功を奏すると読んでの試合振りだったように思えた。
入場の時にも感じたが、ただの独善的な選手ではなく、場の空気というものを
察する能力にも長けたクレバーなボクサーなのだ。


そんな渡邉は、かねてから粟生隆寛との対戦を希望している。粟生は現在の
日本における最大のホープであり、実現すれば話題性たっぷりのビッグマッチと
なるだろう。ノーガードから切れのあるパンチを放つ点を初め、この両者には
見た目の共通点が多い。一発のパンチ力では渡邉が上のような気はするが、
技術の厚みでは粟生の方に分があるのではないだろうか。いずれにせよ、
これは非常に楽しみなカードだ。