ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

ジョーンズの「最後の挑戦」

2002年09月13日 | その他
ボクシング界には、パウンド・フォー・パウンドという発想がある。
これは体重が同じと仮定した場合、現役選手の中で誰が一番強いのかと
いうランキングだ。もちろん現実には有り得ない話だが、しばしば
ファンや評論家の議論の的となり、専門誌上では毎年のようにそのランク
付けが発表されている。

そのパウンド・フォー・パウンドの上位に、ロイ・ジョーンズ・ジュニアの
名を見るようになって久しい。驚くべきことに、かれこれ10年近くも
トップ10をキープしているのだ。その間、彼はミドル級からライト・ヘビー
級までの3階級を制している。

一人のボクサーが10年間もトップ10の評価を得るというのは、確かに
凄いことだ。しかも彼は未だに、その実力の底を見せていないのだ。
少なくともライト・ヘビー級において、我々はジョーンズが苦戦している
のを見たことがない。しかしそれは、彼の強さもさることながら、
対戦相手との実力差も関係しているのではないだろうか。

ジョーンズの防衛戦の相手はそれなりの実力者で、決して弱くはない。
しかしジョーンズの強さに見合った選手かと言うと、それは疑問だ。
つまり、彼は自分を苦しめるような相手との対戦を意図的に避けている
のではないか、ということだ。

ジョーンズがライト・ヘビー級の統一王者(WBC・WBA・IBF)に
なってからというもの、常に話題に上っては消えていった計画。それは、
もう一人のライト・ヘビー級、WBO王者ダリウス・ミハエルゾウスキー
との対戦や、クルーザー級・ヘビー級への進出である。

ミハエルゾウスキーはこれまで21度の防衛に成功、しかも未だに無敗。
ジョーンズにとって、唯一ライバルと呼ぶにふさわしい相手である。
また、体格差はあるもののクルーザー級に上げての4階級制覇も、
ジョーンズの能力を考えれば決して不可能なことではない。

しかし噂にこそなるものの、そういった話が実現しそうな気配はない。
もはやジョーンズは、自分の選手生命がそう長くないことを鑑みて、
キャリアに傷をつけることを恐れているのではないだろうかとさえ思える。
それは非常に残念なことだ。3階級を制し、現役最高の評価を得ながら、
何か煮え切らない印象を与えたまま引退してしまうのだろうか。

そんな印象そのままに、ここ数年は明らかに実力差のある相手を
翻弄しながら、安全運転を続けて判定や終盤でのTKO勝ちが多かった
ジョーンズだが、最近の2度の防衛戦では、少し印象が違う。
いずれも中盤までに試合を終わらせているのだ。これはジョーンズが
自分のキャリアの最後を飾るビッグマッチを意識して、モチベーションが
上がってきていることを表しているのではないだろうか?

最後のビッグマッチ。それはミハエルゾウスキーとの統一戦なのか、
クルーザー級、あるいはヘビー級への挑戦なのか。実際、どこまで本気かは
分からないが、WBAヘビー級王者ジョン・ルイスとの対戦を希望している
とも聞く。ミドル級から上がってきた男が、ヘビー級の王座に挑戦する。
実現すれば、これは掛け値なしに歴史的な大一番だ。

これまで、ミドル級王者を経てヘビー級を制したのはたった一人、ボブ・
フィッツシモンズだけだ。しかもそれは100年以上前の記録である。
実力以前に、体格差の問題がある。当然、100年前より今の方が
選手の健康問題への配慮も大きいわけで、実現の可能性はかなり低いと
言わざるを得ない。

だからこそ、それはまさに夢のカードなのである。あるいはもし勝って
しまったら・・・。ジョーンズは間違いなくその名を永遠に歴史に刻む
ことになるだろう。考えるだけでドキドキしてしまう。最後の最後、
ジョーンズにはそんな夢を見せて欲しいものだ。