ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

日本Sフライ級TM 菊井徹平vs有永政幸

2006年08月14日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
ちょっと大袈裟だが、凄い物を見たという気分だ。菊井がこんなに
いいボクサーだとは思わなかった。

この日は、菊井にとっては初防衛戦。元東洋太平洋王者にして元日本
王者、世界ランクでも菊井より上位に位置する有永は、かなりの強敵と
見られていた。それがここまで一方的な展開になろうとは・・・。


1ラウンド開始のゴングが鳴ったその直後、菊井が右ストレートで
有永をぐらつかせる。慎重なテクニシャンとして知られる菊井の
まさかの速攻に、有永はすっかりペースを奪われてしまったようだ。

その後も、菊井は自信たっぷりに攻めに出る。かつては消極的な
ボクサーと評されていた菊井の、この変化はどういうわけだろう。
本当の理由は本人にしか分からないが、河野公平との再戦は、その
きっかけの一つではないだろうか。


河野に敗れて一時は日本ランク落ちを経験した菊井が、接近戦にも
進境を見せてリベンジを果たした一戦。元々アウトボクシングには
定評があったが、常に前に出てくる河野のプレッシャーに負けずに
打ち合いにも応じることで得た勝利だった。

そして今年4月、圧倒的不利を予想されていた、世界ランカー相澤国之との
日本王座決定戦。相澤の不調にも助けられ、番狂わせとも言える判定勝ちで
王座を獲得、同時に世界ランクも手にした。この試合も大きな自信に
なったことだろう。


2ラウンド以降も、歯車の狂った有永は空転し続ける。菊井の自在な動きに
翻弄されているせいもあるだろう。決して派手に足を使うわけではないが、
常に小刻みなステップを踏み、一か所に留まらない。地味ながら、効率的で
無駄な動作のないステップワークだ。

そして本来の持ち味であるジャブの巧さ。同じくジャブを最大の武器とする、
ゲスト解説の徳山昌守(WBC世界スーパー・フライ級王者)が思わず
「素晴らしい」と連呼するほどのジャブだ。真っ直ぐ伸び、威力もある。

ジャブが当たれば他のパンチも当たる。対照的に有永は、焦りから大きな
パンチを狙い、空振りを繰り返して更に手数が減るという悪循環。

菊井の的確なパンチを浴び、回を追うごとに有永の顔が腫れてくる。
それでも諦めず前に出る有永。これまでにも、序盤の劣勢を跳ね返し
逆転勝ちを収めた経験がある。後半に入ると、初回から飛ばしてきた
菊井にも若干の疲れが見える。圧倒的優位だからこそ、気の緩みが生じる
こともある。それを知っているからこそ、有永は攻め続けるのだろう。

しかし、菊井は決して崩れなかった。9ラウンド、左フックで有永を
ふらつかせた後に猛然と襲い掛かり、ダウン寸前にまで追い込んだ。
菊井はここまで20勝して4KO。もう少しパンチ力があれば、ここで
試合は終わっていたに違いない。

10ラウンドも前半はKOを狙って攻めた菊井だが、後半はセコンドの
指示通り、余裕を持ってリングをサークリングして試合終了のゴングを
聞いた。判定は3-0、ジャッジ3氏のうち2人がフルマーク(1ポイントも
失わないこと)を付けるほどの完璧な勝利だった。


ついこの間まで冴えない中堅ボクサーに過ぎなかった男が、世界にさえ
手が届きそうな位置まで来た。世界に挑むためにはあと少しの逞しさが
必要だろうが、今回の勝利を自信にして、また一つ強くなるはずだ。


4 コメント

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菊井は (minbox)
2006-08-15 02:56:40
星野敬太郎と同じジムでしたよね・・・ あそこのジムの方はいいボクサーが多い! 地味だけど良いんだよ 防御にしろ攻撃にしろ効果的で・・・ 
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Unknown (たかお)
2006-08-15 17:35:02
minboxさん初めまして。



花形ジムはとてもいい雰囲気らしいですね。

菊井も木村章司も、攻撃性が出てきました。

今後に期待したいと思います。



昔、星野が世界王者になったばかりの頃

だったと思いますが、自身のHPで、イチオシの

ボクサーとして菊井の名前を挙げていました。

しかし菊井はなかなか芽が出ず・・・星野の

見立ても信用できないなあ、なんて思って

いました。見る目がないのはこちらでしたね(笑)。
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こんばんわ (SUKIPIO)
2006-08-15 18:30:37
以前の世界戦でも、ラウンドが鳴ったと同時に、ヒットしなかったのですが、ストレートを放ち、解説者が言った事では相手のリズムが狂ってしまい、結果KO勝ちした試合を見ましたが、この記事を見ましても、開始早々のパンチはやはり威力があるのでしょうね。

又、花形ジムは、あの元世界フライ級チャンピオンの花形進選手のジムなんでしょうか。

彼の若い時代のライバルは、少し先を越されましたが、大場政夫選手でした。

大場選手の2敗の判定負けの内1敗は彼に負けたものでしたが、その後には逆に大場選手が勝っています。

たまには、生の試合を見に行けば良いのですが時間が無いのと、億劫さで見ていないのが現状です。その為に何時も古い話で申し訳ないですね。

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Unknown (たかお)
2006-08-15 18:52:35
SUKIPIOさん、こんにちは。



花形進さんは引退後、焼き鳥屋などの職を経て、

偶然以前のジムメイトに再会したのがきっかけで

花形ジムを開くことが出来たそうですね。



僕は大場との世界戦しか見たことがないのですが、

何だか不器用な印象でした。地道にボクシングを

続けたことが世界王座獲得に繋がった花形さん、

会長としての現在のモットーも、「選手にボクシングを

続けさせること。諦めずに続けてればいいことあるんだよ」

だそうです。



その結果、一時は引退状態にあった星野はジムに戻り、

見事「元世界王者のジムが生んだ初めての世界王者」と

なりました。↓は、その頃の花形さんの記事です。



http://nittagym.com/column/back/vol10/vol10.html
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