栃木県足利市の住宅街にある牧場を巡り、土ぼこりや鳴き声などに悩む周辺住民らが牧場運営に反対する982人分の署名を集め、県に陳情した。県はこれまでも運営事業者に行政指導しており、今後も必要に応じ対応する。事業者も、解決には移転や飼育頭数の縮小が必要との認識を示しているが、移転先の確保が難航しているといい、事態打開の見通しは立っていない。

 牧場は同市大橋町2の「グランド ポニー クラブ」。人材派遣や介護施設などを手掛ける市内企業が運営事業者で、2016年3月、動物愛護管理法に基づく第一種動物取扱業者としての登録を受けた。ポニー5頭から始め、市によると、最大時には馬30頭、烏骨鶏などニワトリ100羽を飼育していたという。約3アールの敷地に厩舎(きゅうしゃ)の他、学童クラブを併設。現在は乗馬練習や児童とのふれあい体験用に馬12頭、ニワトリ30羽を飼っている。

 所在地は、オフィスなどと共存する良好な住環境の保護が求められる第2種住居地域。住宅のほか、高齢者施設や医療機関、保育所などがある。南隣に住む竹内利夫さん(79)によると、飼育頭数が増えるに従い、動物の排せつ物の匂いや馬場からの土ぼこり、ニワトリの鳴き声などにより住環境が悪化したという。

 市への苦情も増え、情報提供を受けた県動物愛護指導センターは18、20の両年度に各2回、立ち入り検査を実施。排せつ物の処理や馬場への水まきなどの改善措置を口頭で指導した。勧告や命令など強い対応が必要な法令違反はなかった。市などによる調整で、一部の馬が県外の牧場へ移り、一時は飼育頭数が減ったが、移転先で腹痛を伴う病気「せん痛」を起こし死亡する例が相次いだため、戻ってきたという。

 このため、地元の大橋町1・2自治会(飯野隆雄会長)は今年3月、生活環境の回復のため、大橋町、相生町、大町、伊勢町など旧相生小学区の住民を対象に牧場運営反対の署名活動を展開。982人の賛同を得て、14日に県生活衛生課に提出した。

 飯野会長は「根本的な解決策は移転だが、県には生活環境回復のため細かな対応を期待する」、自治会副会長を務める竹内さんも「暑い時にも窓を開けられない。早く普通の生活を取り戻したい」と話した。県は今年4月にも状況確認しており、季節要因などを踏まえて今後も事実確認を続ける方針。

 一方、運営事業者の担当役員は「法令は守り、騒音や臭いのレベルを記録しているが、署名者数を聞くと多くの方にご心配をかけていると感じる」と署名についての受け止めを語り、今後については「福祉目的の最小限の頭数を残し、市内の郊外への移転も含め検討している。なかなか協力が得られず難しい状況だ」と説明している。【太田穣】