DREAM/ING 111

私の中の「ま、いいか」なブラック&ホワイトホール

京極夏彦・邪魅の雫 2★社会と世間と個人における善悪

2006-10-09 | 
京極夏彦ファン強化月間企画・NO.2です。

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京極堂、帝銀事件の蘊蓄を青木と淳子(京極堂・妹)に語る。

(P344-345)
「物事の相と云うのは遍くバラついているものだからな。中々綺麗に添い遂げるものではないさ。追い剥ぎで手に入れた万年筆で書かれた小説でも良く出来ていれば評価はするべきだろうが、評価されたところで追い剥ぎの罪は消えないだろう。それぞれの相は分離して捉えるしかあるまいよ」
〈中略〉
「まぁ科学も未来も明るいも暗いもないよ。そんな比喩には何の意味もない」
「それって其所に何が見えるかは、見る者次第だと云うこと?善悪はそれを用いる者の心次第と云うこと?」
「それこそ詭弁だよ。犯罪、人道、科学、それらの相は別だと云っている。それぞれの相が世界や社会や世間と別の関わり方をしている。だから科学に善悪を持ち込むことは間違いだ。まして、明るい暗いなどという漠然とした判断基準は個人的なもの、精々世間が共有する幻想じゃないか。例えば敗戦色濃厚な国の人々にとって、原子爆弾は明るい未来明るい科学と云うことになるだろ?〈中略〉国が滅びかけていて、自分も家族も殺されそうだと云うその時に、形成逆転の可能性を与えてくれる切り札になり得る兵器が出来たとしたら。それをして明るい未来と夢想すること自体を間違っているとは云えないだろう。法律違反でも条約違反でもないなら、糾弾も出来ないだろうね。しかし、所詮原子爆弾は大量殺戮兵器なんだ。そんなものは人道的には認められない、あるべきでない、作るべきでないと云う考えは至極尤な正論だろう。核兵器を必要とする社会はやはり間違っているんだよ。でもーだ。だからと云って、核分裂を物理的な力に転用すると云う発明自体は貶められるものじゃないだろうし、理論そのものは誰にも否定できまい。」


(P360-361)
「さっきも云ったがな、物事には様々な相があるんだよ。それぞれの相で生じた不具合は、それぞれの相でしか解消し得ないものだ。犯罪は社会なくしては起き得ないし、社会なくしては裁き得ないだろう」
「犯罪は社会が作るーとか云うの?」
「そうじゃないよ。例えばお前が家の物を勝手に持って帰ったとする。こりゃぁ身内では困った奴だで済む話だが、世間じゃあ泥棒だ。泥棒だが。まぁ手癖の悪い妹さんで大変ねぇ、程度のことだろう。でも法に照らせば罪になる。社会的には犯罪だ。〈中略〉社会という相の中でもな、例えば戦争犯罪は家庭裁判所では扱えないだろ。怒りや悲しみは数値化出来ない。善悪の基準も一定したものじゃない。邪悪なんて概念は、法律でも人情でも明文化は出来ないからね。社会に於ても世間に於ても規定することは難しいだろ」
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なる@的解釈:
●社会と世間は違う。個人もまた然り。
●物事には様々な相がある。れぞれの相で生じた不具合は、それぞれの相でしか解消し得ない。1つの基準で裁いたり判断するのは無理がある。(しかし人も世間も見えてる相しか見ない。見えていても自分基準で裁きたがる。)
●怒りや悲しみは数値化出来ない。(比較も測定もできない。)
●邪悪という概念は、法律でも人情でも明文化は出来ない。(社会的に犯罪でなくても極悪な出来事はある)





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4 コメント

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函が好き (einnonti-H)
2006-10-10 16:12:20
京極氏の作品では「函」が好きです。

少しポーの様な感じとラブクラフト的な所が。



個人的には「骸骨」は面白かったのです。

何せ故郷を舞台にしていましたから。

かなり詳細な場所まで記していましたがフィールド

ワークをかなり行ったものと思えます。

それは全ての風景は今でも「実在」していますから。



氏の講釈の長さは読者の好みを分けますが、

氏の計算高い所が「頁」にあると思います。

常に分厚い頁数ですが読みやすい。

それは頁と頁の境をうまくつないでいるからかと

思います。

かなり計算して頁割りをしている感があります。



実は以前から言われているのですが、

「H、小説の京極堂みたいだネ」

と。実は小説の京極堂嫌いなのです。

同属嫌悪ってやつでして・・・

返信する
einnonti-H様 (なるもにあ)
2006-10-11 06:24:26
わぁい!こっち方面でもお話させていただけるなんて

嬉しいです!!!

(リアル仲間ではかなりへヴィに話し込む話題の1つです♪)



私も京極堂の洗礼をうけた「姑獲鳥の夏」は別格として、

作品の完成度とテイスト的にまったく同意見でございますー。

一種のSFでもあり、イメージが鮮烈で・・・それが儚く美しい。

タブーな内容をどこまでも形式にこだわりながら

“みっしり”と固めたグレードは、素晴らしいと思います。

(あー・・・京極ラブ;な奴ゆえ、語りだすと止まらないー;;)



>何せ故郷を舞台にしていましたから。

おー!!!

それはまた違った見方ができそうですね。

フィールドワーク、ものすごーーーくやってそう。

夏彦氏のアプローチは博学誌に近いものを感じます。

(海外だと一部メルヴィルやピンチョン風味)



>かなり計算して頁割りをしている感があります。

そこから入って題材を集めるのでは、と思います。

でないとあの緻密な構成ってありえなさそう。

今回も見事なまでにバラバラの雫が

どう集まってくるのか興味がつきません。



>「H、小説の京極堂みたいだネ」

きゃー、きゃー<オイオイ

私は夏彦氏もラブですが、京極堂大好きです!!!

あの語り、クールな視点、狙いを定めたらはずさない論旨展開、

そして事象を巧みに言葉に封じて憑き物を落とす・・・

最高ですぅ!

言葉使いの作法はたしかにH様同じにおいを感じますー。

やばいっ、H様ラブに・・・<オイオイオイ
返信する
うーん (じっぱとざっぱ)
2006-10-11 22:05:20
復帰したら、京極夏彦を読んでみようと思ったのでした。

いや、その前に、ディックも残ってるし。



あれも、これも…



返信する
じっぱとざっぱ様 (なるもにあ)
2006-10-12 07:56:39
じっぱとざっぱ様・・・って前にも思いましたが

いー感じですね。2人ギャングっぽくって(ギャング、て

や、コンビっぽくって。



てか・・・

やたっ!ファンゲットですぅー



いや、京極作品は絶対お薦めですよ!

哲学から社会学から数学から、もうめったやたら

詰め込まれていて、

それがけっこううまくかみ砕かれているうえ、

推理ものとしてのグレード含めて、伏線のはりかたや

人物の描き方、

読み物レベルもはっきりいってかなり高いと思います。

私は初期の数冊は一気に読みました。

(さるお芝居見学仲間の女子大生のお薦めだったのですが、

ツボだったなぁ・・・)。



PKディックは夏向きなとこがあるから(個人的に)

これからの季節、京極氏をぜひー(なる@宣伝活動中



この作家は本当に多角的視点を実践していて

1つの事柄を製図レベルまで展開してみせてくれるので

思考的に大好きなのですー。

文体の軽快さ、構成への異常なほどのこだわり含めた嗜好性も好き!(ファンモード発動中)



※京極堂ものの最近の2作は、さすがにちょっと鈍ってきたかなー、と思ったのですが、長いお休みをとっての今回作品は今のところ極めてグレードが高いです(嬉しい!)。テイストが正統派な社会派推理モノっぽいせいかも。

あ、すっごく語っちまったい!;



またきてくださいねー
返信する

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