「樹の海」 2004年
監督:瀧本智行
出演:萩原聖人、井川遥、池内博之、津田寛治、塩見三省 他
公式ページ
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青木が原樹海の話…といえば、暗く湿った木々の間に張られたロープ、そして、てんてんと転がる
自殺者たちの遺品、といったおどろおどろしいイメージが浮かぶかもしれません。
しかし、この映画はなんと感動系なのですね~
いや、勿論、私の紹介する作品ですから、死体は出ますよ。首吊りして、蛆湧いたりってのが。
でもね…なんていうかなぁ…そう、扱いがね、とても真面目。
生きること、死ぬことを、とても真面目にとらえている。
だから、あんまり怖くは感じないんだな。
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富士の裾野に広がる、青木が原樹海。
そこは自殺の名所とされ、多くの人間が毎年そこで命を絶っていく。
今も、また、様々な事情を抱えた人々が、その森を彷徨っていた。
樹海に関わる4つの物語が、交錯しつつ、語られていく。
5億円の横領事件を起こした男。朝倉。
彼は、関わっていた暴力団組織の手で口封じのために殺され、富士の樹海に捨てられた。
奇跡的に息をふきかえしたものの、帰る場所も無い。
ただ、森をあてどなく彷徨う彼の前に、やがて、首吊り自殺を試みようとする、一人の男が現れた。
「止めないでください!!」
縄に手をかけ叫ぶ男の異様な姿に、朝倉は一度は逃げ出したものの、道に迷った挙句、
同じ場所に戻ってきてしまう。
そこには…先ほどの男の死体がぶら下がっていた。
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悪徳金融業者の若い男、タツヤ。
膨大な借金を抱えて逃げた顧客の北村今日子から、
「死ぬつもりで樹海に来たが、足をくじいてしまった」という電話が入る。
自分でもわからぬ感情に突き動かされて、携帯電話を手に、今日子を求めて樹海に入るタツヤ。
電話で話しつつ、今日子を探すうち、彼の中にあった様々な想いが呼び覚まされていく。
森に迷っているのは、誰か。
探しているのは、今日子なのか、それともタツヤ自身か。
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平凡なサラリーマン生活を送る、山田。
彼のもとに、探偵を名乗る男三枝が、突然会いに来る。
一枚の写真を見せ、山田と一緒に映っている女性に心当たりは無いか、と尋ねる三枝。
だが、酒の席で、行きずりに撮られたらしい写真に、山田には全く記憶が無い。
その女性は、富士の樹海で自殺したのだという。彼女が幸福だったころの手紙や写真を携えて。
「彼女が間違いなく生きていた、という事実を集めて遺族に渡したい」
そう言う三枝の真摯さにうたれて、山田は懸命に記憶を辿る。
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駅の売店で働く女性。映子。
彼女は過去にストーカー行為を働いたことがあり、そのために職をやめ、地元を離れて暮らしていた。
過去をひきずり、新しい恋愛さえ求められない彼女だったが、ある日、かつてのストーカー相手が売店に現れる。
気付くだろうか、と不安と期待に慄きながら、応対をする映子。
だが、相手はまったく、映子のことを覚えてはいなかった。
自分だけを置き去りにして流れる時間に絶望を覚えた映子は、樹海行きのバスに乗り込む。
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ホラーってのは、結局のところ娯楽です。
だから皆、手を変え品を変え、なんとか怖がらせようと策を練る。
死体はアイテム、幽霊は象徴。そこに人権は無いんですよね。
「それ」がもと一人の人間で、笑ったり泣いたりしていた、ということを語り始めたら、
とてもじゃないけど後味悪くて、恐怖を愉しめないですから。
そういう意味で、これは決してホラーではありません。
なんか、見たあと切なくなっちゃったよ…(ホロリ)
全体として、テーマがテーマだけに「重い」と感じるひとも多そう。
後、登場人物が自分の人生をモノローグで喋ってる部分が多いので、ダルい人はダルいかも。
酔っ払いの愚痴聞いてる気分に近いっす(笑)
ただ、本当に真面目に、「死」を見せることで逆に「生」を際立たせる物語でしたので、
「もう死にたいー」と思ってる時に見ると、いろいろ感じるところが違うかもしれません。
樹海の映像が良かったですね。ナチュラルで。
大概、恐怖特番で樹海が出ても、夜だったり、昼でも褪せた緑色で綺麗じゃないんだけど、
この作品では、深くて綺麗な森でしたよ。