鼠喰いのひとりごと

DL系フリーゲームや本や映画などの感想を徒然に

ロボットと過ごした五人の話

2016-06-11 21:45:02 | フリーゲーム(ノベル)
「ロボットと過ごした五人の話」 SFノベル・人はそこに己自身を見る
制作者:蔵野杖人様(RED HOSTILITY作品公式サイト

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「Margot」の人の新作です。
海外翻訳モノの、ハヤカワSF文庫っぽい雰囲気の作品でした。
独特のレイアウトや、テキストの表示方法がハイセンス。絵もキレイ。
ストーリーは甘味を抑えた、大人のビターテイスト。

舞台は未来社会。26歳の青年・アレックスは、ある日突然
自分の祖父と名乗る人間の死と、その財産の相続とを知らされる。
それは、その日暮らしの生活を送っていたアレックスにとって、
降ってわいたような幸運だった。
ただし、その財産を得るためには条件があり、
一定期間、祖父の家に住まなければならないという。
そして、深い山奥に建てられたその家を訪ねたアレックスは、
祖父の遺したヒューマノイド・パトリシアと出会う。

導入部だけ見ると、人間&ヒューマノイドの恋愛がらみの話かなーと思うでしょう?
中身はどうして、本格的なSFでした。

自分が愛用しているパソコン、名前を付けたりする人、いますよね。
自分の愛車に、まるで人間でもあるかのように対応したり、
お気に入りのぬいぐるみに人格があるかのように話しかけたり。
最近じゃ、ソフトウェアでも、ある程度こちらの意図を汲んで
返事をしてくれるものも出てきたりして…随分と感情移入がたやすくなりました。

対象が喋らなくても、人間の形をしてなくても、こんな状態なのだから、
ましてや相手がヒトガタであれば…ねえ?

プログラムに従って行動するロボットたち。
そこに「情」や「愛」を見出すのは、常に人間の側なのです。

作中で差し出される問いは、解答にあった「鏡」を持つ3人の主要人物への分岐です。
大体のプレイヤーさんはアレックス・エンドになるのではないでしょーか。
ほか二つのエンドは、どちらかというと、メインシナリオの補完の印象が強いかな。

メインシナリオは、ヒューマノイドの絡む3つの物語が、交互に出てくる構成になりますが、
アレックスの物語だけが、やけに薄味?淡泊?に感じました。
まあ、ほかの2つの物語が、濃すぎるせいかもしれませんが…
ヒューマノイドに振り回されまくりな他2話に比べ、アレックスだけは最後まで、
パトリシアと一定の距離を置いている印象で、なんとなく物足りない…?

弁護士に逆らって遺した経緯や、パトリシアの現実的な言葉に冷める描写もあるのだから、
アレックスにも、内心、いろいろ思うところはあったのではと思うんですが…
ある意味一番、人間っぽくないキャラのようにも思えました。

(…実は、エンドコンプするまで、もしかしてこの人も…?ってかなり疑ってました。
 だってベック爺さんが、孫の話なんか今まで聞いたこともないとか言うからー;
 しかも意味ありげに境界の話なんかするからー;;)

フレデリカとベル、エディとジャネットの各話は、かなりアレな愛憎劇でした。
今後にもいろいろ問題がありそうな終わり方をしていますが、
私の感覚では「本人が納得の上幸せならばいいんじゃない?」と思います。
「鏡」を通してしか見られないのは、別に相手が無機物に限ったことではないと思うし。

人は自分の自我を通してしか、ものを見ることはできないから。
人はみんな、自分の主観の世界しか、生涯知ることはないから。
周囲にあるもの、目に映るものすべては、鏡越しの虚像なのかもしれません。


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