鼠喰いのひとりごと

DL系フリーゲームや本や映画などの感想を徒然に

リアル鬼ごっこ

2005-09-06 18:09:38 | 本(小説)

「リアル鬼ごっこ」
山田悠介 
幻冬舎文庫 2005年

****

2001年に出版され、ベストセラーになった作品の文庫化です。
最近、新しい映画は見てないし、本は「「超怖い話」くらいしか読んでませんでしたから、
あまりの話題のウスさに、本棚ひっくり返してみましたよ~

これ、もともと自費出版で出した本なのですよね。
そのせいってわけでも無いのでしょうが、第一印象「ネット小説と似た匂いがする…」。
ストーリーの勢いも、最後まで読ませる技量もおおーっ!とは思いますが、
いかんせん、出来不出来にムラを感じました。
なんていうの? 味は美味しいんだけど、仕上がりにダマのあるスポンジケーキ?
文章的にすごく拙い部分と、すごく書き込んである部分の差が…すごいね。
ただ、そのアンバランスさ、いびつさがまた新鮮だったり、人目を引く魅力になっているのも確か。

===

時代は30世紀。とある王国にて。
「佐藤」姓を名乗る国王…通称、馬鹿王…は考えた。
『この国には、佐藤姓が多すぎる。佐藤を名乗るのは、自分ひとりで沢山だ』
そして、国をあげた一大虐殺ゲーム、『リアル鬼ごっこ』はその幕をあけた。
7日間、毎日たった一時間。
その一時間に、全国に500万人いる佐藤さんは動物のように狩られ、秘密の施設において殺されてゆくのだ。

ある大学の陸上部に籍を置く佐藤翼は、全国大会で優勝するほどの実力の持ち主。
次の大会に向けて練習を重ねる彼の耳に「リアル鬼ごっこ」の噂が入ったのは、大会前日…
それは、リアル鬼ごっこ開催の前日でもあった。

幼い頃、生き別れた妹を助けるため、奔走する翼。
様々な佐藤さんたち、そして親友との出会いと別れ。
果たして、彼は7日間を生き延びられるのか。


===

王の弟なのに、何故王子?というツッコミはしないほうが良いのでしょうか(笑)
また、いくら科学が進んでるといっても「佐藤探知機ゴーグル」はものすごい発明です。
近くにいるだけで反応するなんて、何で識別してるんですか(汗)
もう、きっと生まれたときから身体に何かインプラントされてるんですね…きっと(汗)
(うん、さすが30世紀!!)
しかも、これ、じいは3日で百万個用意したのか…有能すぎない?
(わはは、さすが30世紀!)

こういう、いかにもファンタジーな要因を取り入れていながら!
しかも、舞台を30世紀と、一気に千年も進ませていながら!
みんなの日常生活が、全く現在と変わらない様子なのが、ものすごくアンバランス…
しかも、学生生活、親の暴力、妹との生き別れ…など、主人公の心理描写や環境が、
やけにリアルで克明であるために、その周囲の拙さ、杜撰さが余計に目立つような。
中心部分だけが写実で描かれて、あとは適当な抽象画って感じですよ(汗)

しかし、それがあるために、本来は深刻で残酷なはずの物語が、
一枚薄いフィルターを噛ませたみたいに現実感の無い軽い仕上がりになっているのですよね。
…これは、これは…故意にやってるの? どうなの? と作者さんに聞いてみたい。
ものすごく、評価に苦しむーーーー。
これをわざとやってるんなら、すごく天才的だと思う。
ていうか本当のところどうなのかな? これ?

山田さんの最近の作品…というか、これ以外の作品は読んでいないのですが、
機会があったら一度、最新の作品と読み比べてみたい気持ちになりますね。

さてこの物語、実は初めて読んだとき、いくつかの既出の物語と印象が重なる部分がありました。
ひとつは、バトル・ロワイアル。
そしてもうひとつは「青の炎」です。
この本を出版する前の年に、バトルロワイアルの映画がが上映されていますね。
また、「青の炎」のハードカバーの出版が1999年です。

作者さんが、これらの物語を知っているかどうかはともかく、
このころは、ちょうど青少年の犯罪が凶悪化しているのが憂慮されている真っ只中で、
奇しくも、少年法の改正が2000年にあったばかり。
社会ニュースも、また17歳が、とか、また少年が、といったニュースを常に放送しており、
時代はまさしく「少年凶悪犯罪」ブームでした。
私が知らないだけで、上記の2作以外にも、こういうムードの物語や書籍がたくさん出ていたかもしれません。
今作品は、こういった社会現象を背景にして、生まれた物語とも言えるのでは。