(ブログ読者の投稿です)
柿とタケノコ
「隣の庭から伸びてきた枝の柿の実は、勝手に取って食べてよいか?」「隣の庭から伸びてきたタケノコは、勝手に掘って食べてよいか?」 こんなクイズをご存知でしょうか。正解は、柿はだめ、タケノコはOK。
なぜこういう答になるかというと、民法第233条という法律がこう決めているからです。
第233条 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。 2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。 |
柿の実は枝の一部ですから、こちらで勝手に切ることはできない。タケノコは根の一部ですから、切り取ることができる、ということになるわけです。
明治になって民法を作るとき、なぜこんな規定を置いたのか、実はよくわかりません。枝は向こうの家からも見ることができる。あ、あいつ、ウチの枝を勝手に切ってるぞ、とトラブルになる。一方、根は塀があって見えませんから、勝手に掘っても見えないだろうと、そんなことではなかったかと言われています。しかし、枝は切ってもまた伸びてくる。根は下手に切ると樹木の勢いが弱ってしまう。本当は、根は勝手に切るべきではなく、枝は越境しているのが明らかなのだからこちらで切ってもいい、とすべきだったのではないか、という人もいますが、明治以来ずっとこういう規定で来てしまいました。
隣家と交渉するのも、裁判で争うのも面倒だから、「市で何とかして!」
しかし、隣の家に「あなたの枝が出ているから切ってください」と交渉しに行くことがおっくうだという人が少なくない時代になってしまいました。相手が応じてくれない場合は、最終的に裁判を起こすことになりますが、隣どうしで末永く顔を合わせて暮らすのに、裁判などできないとも言われます。そこで苦情は、市役所すぐきく課に向うことになります。市で何とかして!、と。
民・民の問題に行政が介入すべきではないが…
しかしこれは、いわゆる民・民の問題です。本当は行政が介入すべきではないし、まして税金を使って枝を剪定するようなことではありません。しかし、市議会議員も「何とかしろ」と騒いでいる…。
道路に伸びた枝の剪定の「ついでに」隣の庭に伸びた枝も切ってしまう、という「裏ワザを発明」
多くの場合、枝は隣の庭に伸びるだけでなく、前の道路側にも伸びているはずです。そこで市役所の担当者は、前面道路に伸びた枝が歩行者の通行を妨げるから、という理由で剪定を行い、ついでに隣の庭に伸びた枝も切ってしまうという「ワザ」を考えます。あくまでも歩行者の安全のためですから、これなら税金を使って剪定しても問題はないだろうと、苦しい「発明」をしてきたわけです。しかし中にはその事情を知っていて、自分で植木屋を呼んで費用をかけなくても、放っておけば市役所がタダでやってくれるよ、など図々しいことを言う人もいないわけではありません。
(道路にはみ出した枝を切るついでにB地に出た枝も切って苦情解決、というワザ)
民法改正で、こんな裏ワザを使わなくても良くなった
今回、民法第233条が改正されることになりました(4月1日から施行)。原則は変わらないのですが、次の3つの場合には例外として、越境された側の土地所有者が越境した枝を自ら切り取ることができると規定されたのです。
①催告しても竹木の所有者が切除しないとき
②竹木の所有者または所有者の所在を知ることができないとき
③急迫の事情があるとき
また、越境する竹木が数人の共有に属するときは、切除を求められた共有者は、それぞれが単独で枝を切り取ることができます。
これで市役所に、変なこじつけを考えさせる必要もぐっと減ってくることでしょう。
本人の代わりにやってやる「事務管理」という規定
なお、もう一つ、覚えておいた方がいい条文があります。民法第697条に「事務管理」という規定があります。
第697条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。 2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。 |
例えば、隣の家が1ヶ月、アメリカに行って留守にしているとします。台風が来て2階のガラスが割れてしまい、雨風が吹き込んでいます。こちらの庭に落ちてくるかも知れません。こういう場合、こちらがガラス屋を呼んで、修理させることができるのです。もしアメリカまで連絡が取れたとして、「そのまま、風が吹き込むままにしておいてください」という人はおそらくいないでしょう。常識として「直してもらえれば助かります」という意思だろうと「推知」されるわけですから、隣地に勝手に立ち入って修理することができるのです。もちろん修理することができるのであって、修理しなければならないわけではありません。知らん顔していてもかまわないのですが、義務なく隣人のために修理をしてやることもできるのです。そしてこの場合、アメリカから帰国した隣人に、こちらが払った修理代を請求することになります。「勝手に修理したのだから、私は知らない」「勝手にこちらに立ち入って、不法侵入だ」などという非常識な言い草は通らないようになっているのです。
近年、ゴミ屋敷だの荒廃空き家の問題が増えてきましたが、事務管理の規定によって処理することは可能でしょう。問題は、あとでその費用をゴミ屋敷や空き家の所有者から回収できるかどうかですが、ここが難しいところですね。そもそもゴミ屋敷や荒廃空き家を放置しているような、常識の怪しい人ですから、交渉はなかなか難しいことになるでしょう。それだけの資力があるのかどうかもわかりません。しかし、費用はこちらで負担してもいいからケガ人が出る前に最低限の対策をしたい、というような場合には、事務管理を使って解決を図る方法はあるのです。
社会が変わっても、話し合いの精神だけは忘れないように
明治時代、民法を作った人は、枝が隣家に伸びてしまったら、剪定に立ち入らせてもらって、柿の実をおすそ分けするような近所づきあいを想定していたのでしょう。それから100年以上たち、社会は大きく変わってきましたが、話し合いの精神だけは忘れないようにしたいものです。
コメントをお寄せください。
<パソコンの場合>
このブログの右下「コメント」をクリック⇒「コメントを投稿する」をクリック⇒名前(ニックネームでも可)、タイトル、コメントを入力し、下に表示された4桁の数字を下の枠に入力⇒「コメントを投稿する」をクリック
<スマホの場合>
このブログの下の方「コメントする」を押す⇒名前(ニックネームでも可)、コメントを入力⇒「私はロボットではありません」の左の四角を押す⇒表示された項目に該当する画像を選択し、右下の「確認」を押す⇒「投稿する」を押す