(5月25日付の続きです)
小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第107回。
【小説の時代設定と、主な登場人物】
バブルど真ん中! 1990(平成2)年4月中旬@北海タイムス札幌本社ビル。
▽僕=北海タイムス新入社員・野々村巡洋(ののむら・じゅんよう)。東京出身23歳、早大卒
▽松田駿太(まつだ・しゅんた)=野々村と同期の北大中退24歳。柔道部出身。
小説作者・増田さんの投影キャラと思われる
▽河邑太郎(かわむら・たろう)=野々村と同期入社、東京出身23歳、早大二文露文科卒。道警担当
【 以下、小説新潮2016年1月号=連載④ 456ページから 】
「じゃあ四時半くらいまでには戻って❶おいでよ」
片手を上げ、松田さんも出ていった。
ここにいるのは、もう限界だ。うつむきながら編集局を出、エレベーターで一階まで降りた。
とにかく会社から離れたい。
乾燥した街を、逃げるように北へ歩いた。この街に行く当てはない。今朝会社に来たときより冷たい風が吹き、道ゆく人たちは襟元を抑えている❷。
(中略)
マスターがコーヒーをふたつ運んでくると、河邑が口をつぐんだ。そしてマスターが戻っていく背中を見ながら声をひそめた。
「手取り十三万から十四万くらいだってよ」
「ほんとかよ」
「ああ。悲惨な額だ」
「でもボーナスがあるだろ」
「ボーナスなんて、あってないようなもんらしい。いくらだと思う」
河邑が言った。
❶四時半くらいまでには戻って
1990年当時の北海タイムス整理部の夕刊勤務は——(小説の記述から推定)
▽10:00~15:00=夕刊編集
▽15:00~16:30=食事
▽16:30~23:00=朝刊編集(遠隔地向け早版地方版か、追い込みもの・フィーチャー面編集?)
こ、これ、激務ではないか。
午前10時出社➡︎夕刊(改版なし1版止め)をサッサと片づけ➡︎食事➡︎それっ、もう一丁と朝刊編集➡︎地下鉄など公共機関で帰宅?
……今なら、ブラック(と言われるかも)。
でも新入社員の時からこのローテに慣れてしまえば、ソレほどでもないのかもしれない。
❷襟元を抑えている
赤鉛筆で線を引きながら読みすすんできた校閲部の要確認センサーが鳴るところ(かな)。
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集 第13版」(株式会社共同通信社発行)では、
おさえる
=押さえる(主に物理的におさえる、手などで覆う)暴れる人を押さえ込む、傷口を押さえる、首根っこを押さえ付ける、目頭を押さえる、現場を押さえる、勘所を押さえる……
=抑える(抑圧、弾圧)反政府デモを抑え込む、不平不満を抑え付ける……
——むむ~、どっちかしらん? と迷ったら
「とにかく平仮名っすね!」
と校閲部の知人が言っていた。
————というわけで、続く。