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★表ケイで3ヤマ!=「北海タイムス物語」を読む (94)

2016年05月04日 | 新聞

( 5月2日付の続きです。写真はイメージです )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第94回。
(小説の時代設定や登場人物のほか、新聞編集でつかう「倍数」「CTS」などの用語は随時繰り返して説明します)

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=北大中退後、北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ報道部記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


【 小説新潮2015年12月号=連載③ 370ページから 】
「おい。これ、ハサミで切れ」
権藤さんから分厚い紙に印字された見出しとハサミを渡された。
「ほら早く。急げ。清水さん、左から八行開けて❶ここから二段四行塞いで、表罫で三段ヤマ❷」
「はいよ」
清水さんと呼ばれた制作の人❸が権藤さんの言葉に答えては、置いていく。
「この記事、こっちに流してここで二つ折り。ヤマ」
「はいよ」
「この記事、右下一段空けて❶四つに畳んで裏罫で押さえて」
「はいよ」
「よし、野々村。この見出しも切れ。早く!」


❶左から八行開けて/右下一段空けて
「いよいよ大組みシーンだなぁ。面白くなってきたなぁ、この小説!」
と読みすすんできた校閲部の赤鉛筆がピタッと止まる箇所。
「八行開けて
「一段空けて
新聞社校閲部の〈統一したいなぁ〉センサーが鳴るところ。迷う。

新聞社のルールブック「記者ハンドブック/新聞用字用語集 13版」(株式会社共同通信社発行)では、
・空(からになる)
空き缶・瓶、体が空く、間隔・時間を空ける、席が空く、手空き、中身を空ける
・開(ひらく)
空いた口がふさがらない、開かずの門、ふたを開ける、幕が開く、店を開ける
[注]抽象的な表現では平仮名書き。具体的に物体に穴をあける場合は「開」を使う。

——とある。
うーむ、うーむ、うーむ。
迷ったときは平仮名だね、と校閲部の知人(僕はこのままでいいと思うけど)。

❷表罫で三段ヤマ
表ケイ(おもてけい)は、記事をさえぎる細いケイ。
三段(さんだん)は、47倍(15倍+中段1倍+15倍+中段1倍+15倍)。
ヤマは、ケイの上下それぞれに1.5~2倍のアキがある状態のこと。
上下にアキがなくピッタリのケイ引きは仕切りケイ(しきりけい)。

*倍(ばい)
倍は新聞編集でつかう単位。
1行15字組み時代の1文字の天地サイズで、現在でも会社人事や異動欄でつかわれている。
・1倍=88ミルス。
1980年代以降のコンピューター編集(新聞CTS)では 11ミルスを1U(ユー=ユニットの略)としたから、
・1倍=88ミルス=8U。


*段(だん)
この北海タイムスは当時15段制だったので、小説内の「段」は1段=15倍のこと。。
現在、15段制の新聞は日経と毎日(一部)だけ。


❸清水さんと呼ばれた制作の人
小説の時代設定は、1990年。
当時の北海タイムスは切り貼りCTS(電算写植)に移行していたが、清水さんのような活版組み版時代の大組み者が残っていらっしゃったようだ。
だから、権藤くんの「表罫で三段ヤマ」の指示で分かるのだ。

————というわけで、続く。