降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★『トリダシ』の新聞社を読む( 14 )

2015年07月31日 | 新聞

(きのう7月30日付の続きです。写真はイメージです)
スポーツ新聞の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の最新小説『トリダシ』(文藝春秋、本体1,750円)。
同小説は、
「四の五の言ってねぇで、とりあえずニュース出せ!」
を口癖にしている、東西スポーツ・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=44歳)野球部デスクが主人公の連作集。
第2話「コーチ人事」から、編集局や整理部に関係する描写に注目してみた(下記、太字は同書本文から引用しました)


(江田島は)ジェッツ1年目はヘッドに三塚がいたことで、取材に苦労することはなかった。
一年目を終えた時に東西スポーツの独自ネタを数えた。
本数ではジェッツと同じ東都新聞を親会社に持つスポーツ東都に負けていたが、内容で比較すればトントン❶だった。少なくともスポーツ東都の記者は、江田島たち東西スポーツを恐れていた。
もっとも彼らが恐怖を抱いている存在が、鳥飼であることは分かっていた。

(中略)
二年続けて優勝できなかったジェッツに、今度はヘッドではなく監督交代の問題が起きた。
東西スポーツにスクープが載った。
元大阪ジャガーズの監督、桐生氏がジェッツ監督に就任
鳥飼が取ってきたネタだった。
これまで生え抜きしか監督にしなかったジェッツが、ライバル球団の大物に、監督を要請した。
江田島も事前に鳥飼が摑んでいる情報を聞き、他紙に気付かれないように東都新聞本社の幹部宅に夜回りをかけさせられた。

(後略。73~74ページから)


❶本数では……比較すればトントン
独自ネタ勝負で、東西スポーツ(置き換えると、サンスポ?)はスポーツ東都(置き換えると、スポーツ報知?)と互角であった——ということ。
球団系列紙よりネタを取ったぜ、という意味合いなのだけど、終始&全面
「サンスポvs報知」
対決に少し違和感を感じた(もちろん、フィクションなんだけど、サンスポの敵は報知という設定なのだ)。
スポジャパ(置き換えると、スポニチ?)日日(置き換えると、ニッカン?)も凄くね⤴︎⤴︎(語尾上げ)
……たぶん、第2作で対決でしょう。

❷元大阪ジャガーズ……就任
フロント1面の大見出しなら、
桐生氏(→なんとなく、星野仙一さん想起)
ジェッツ監督(→なんとなく、巨人想起)
写真をドカンと貼って、前文15行(2倍G)と本記60行、監督データ、メモ15行2本あれば埋まると思う。

★『トリダシ』の新聞社を読む( 13 )

2015年07月30日 | 新聞

(7月25日付の続きです)
スポーツ新聞社の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の最新小説『トリダシ』(文藝春秋、本体1,750円)=写真

◆本城雅人(ほんじょう・まさと)さん
1965年、神奈川県生まれ。
明治学院大経済学部卒業後、産經新聞社に入社。産經新聞・事件担当を経て、サンケイスポーツ紙でプロ野球ヤクルト番→巨人番→競馬記者など20年スポーツ記者生活。
米留学でスポーツマネジメントを学び帰国後、野球報道デスク、競馬雑誌編集長を歴任。
退職後は文筆業に専念、2009年『ノーバディノウズ』が第16回松本清張賞候補になり、選考委員の称賛により刊行された。
2010年、同作で「サムライジャパン野球文学賞」大賞受賞。
『スカウト・デイズ』(PHP文芸文庫)、『ビーンボール/スポーツ代理人・善場圭一の事件簿』『球界消滅』(文春文庫)、『嗤うエース』(幻冬舎文庫)、『贅沢のススメ』(講談社)など多数。
同小説は、
「四の五の言ってねぇで、とりあえずニュース出せ!」
を口癖にしている、東西スポーツ・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=44歳)野球部デスクが主人公の連作集。
第2話「コーチ人事」から、編集局や整理部に関係する描写に注目してみた(下記、太字は同書本文から引用しました)


江田島はデスク席に立てかけてあるクリアファイル❶を取り出した。そこには三人のデスクの当番表が挟まれている。
「当」が当番デスク、「S」はサブデスク、「早」は早版、「休」は休み❷……やはりこの日は石丸のところに「当」と書かれている。
ここ数年、江田島にもっとも目をかけてくれているデスクが石丸❸だった。さすがにきょう、三塚のネタを書けるだけの材料を持っていなかった。明日、明後日は皆川という一番若いデスクで、その翌日からは鳥飼が二日間連続になっている。書くとしたら明後日が期限のようなものだ。
「なにコソコソしてんだ」
背後から声がして、体が跳ね上がった。

(69ページから)


❶デスク席に立てかけてあるクリアファイル
一般紙、スポーツ紙問わず、どこの新聞社編集局も同じ(笑)。
整理部の場合は、面担(紙面担当)を記載したローテ表を〝整理部連絡帳〟(←なんだか小学生みたい)に添付して各自がコピーしている。
ローテ表を出しても、休みはいつなのか何面を担当なのか忘れてしまうアッパラパーなヤツ……ではなく、たまに失念する部員がいるので、
製作局と共有する翌日付紙面割ボードに、重ねて
「◯面担当=安倍晋三」(仮称)
を記載する。
*お断り=ローテ表などは新聞社によって異なります。
*紙面割ボード=面担のほか、広告段数も記入してある。
翌勤務日の紙面を確認した部員が、
「ひゃあ~、明日はノーズロかよぉ~!ひぇ~!」(ノーズロ=広告ゼロ段。広告なし)
と悲鳴を耳にするけど、ローテ・デスクは気にしません(笑)。

❷「当」が当番デスク……「休」は休み
以前も書いたとおり、新聞社によって多少異なるけど、だいたい下記の感じ。
▽当番デスク=出稿部メーンデスク。プロ・デスクとも。
フロントから最終面までの記事出稿メニューをチェックし、紙面構成を考える(翌日付の)編集長。
▽サブデスク=出稿部のサブデスクで、スポーツ紙の場合、メーンデスクが1~4、5面(プロ野球など)あたりが守備範囲で、
アマチュアスポーツなどをサブが担当する場合が多い。
▽早版デスク=ギャンブル出稿デスク、ゴルフ出稿デスクらのことかな。
早版だから帰れると思ったら大間違いで(笑)、だいたいナンダカンダで午前0時ごろまでは在社しているよーだ。

❸ここ数年……石丸
この小説の舞台となっているサンスポ……じゃなくて「東西スポーツ」の常識人的&真っ当なデスクに設定されている。
一方、「鳥飼」のモデルは1人ではなく、2人の実在したサンスポデスクの合体イメージという。

★紙面整理いつでもどこでも⁈

2015年07月28日 | 新聞

(きのう7月27日付の続きです)
東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開かれていたJANPS 2015(新聞製作技術展)に行った(24日閉幕)。
新聞社の整理部に関係するのは「集配信・CTS」コーナー。
スタートしてから約35年、CTS(コンピューター組み版・編集)に関する技術は出尽くした感があったが、
「方正」(ほうせい)が訴求していたモバイル・システムは面白かった=写真

方正は日刊スポーツ印刷社(東京都中央区)が採用しているCTSシステムで、日刊スポーツをメーンに、サブ系統で日刊ゲンダイほか専門紙をつくっている、という。
文字サイズや判サイズ、グリッド・ベースが全く異なる日刊新聞を毎日数紙編集・発行しているのだから、かなり小回りがきく、機動性が高いCTSシステムのよーだ。

モバイル・システム。
整理マンが、iPhone6プラスやタブレットで、紙面割り付け・レイアウトをすることができそう(かな?)
タバコ部屋で、
別フロアの喫茶店で、
愛人宅で、
チョロ休した自宅で、
出稿メニューが取り込めるところなら、
大組みができそう(かな?)
………………うーむ。

*日刊印刷CTS
日刊スポーツ印刷社は他紙に先駆け、1980年代にはいちはやくCTSに移行していたが、
初期は日本ユニシスが開発したシステムだったような記憶がある。
中国系の方正に変えたのにはビックリした。

★産経グループは活況だった。

2015年07月27日 | 新聞

東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開かれた新聞製作技術展(主催・日本新聞協会)に行った(24日閉幕)。
新聞社の整理部(編集センター)に直接、関係するのは「集配信・CTS」ゾーンと、入り口を入ってすぐの「新聞社」ゾーン。
産經新聞グループ出展コーナーが、かなり力が入っていた気がした。
夏休みの子供たちで賑わい、大型ディスプレーで紙面を楽しそうにレイアウトしていたから=写真
将来的に産經グループ紙購読につなげる長期戦略成功(…たぶん)であり、
この子たちが後世の整理部を支えてくれるのではないだろーか(…きっと。でも、新聞社の整理部は絶滅危惧職だからねぇ、スポーツ紙整理を除いて)。

「集配信・CTS」ゾーン。
コンピューター組み版(CTS)技術は出尽くした感あり。
新聞社の整理部とは直接的に関係ないけど、
紙面ビューアーなどスマホとの連携、記事管理システム、サテライト印刷・発送システム管理などを出展各社が訴求していた。

〝話題の〟東芝も出展していた。
新聞社のCTSでは老舗。ソフト、プリンター、ディスプレーなどの端末が恐らく日本中の新聞社で使われているはず。
僕「大きなブースですね。組み版システムを見せてください」
スタッフ「さあ、どうぞ、どうぞ。
弊社の端末などは日本中の新聞社さまで採用されておりまして…………
あ、あ、申し遅れましたが、このたびは弊社の不正会計問題でお騒がせいたしておりますが、全社あげて信頼回復に努めております。
どうぞ、ご理解のほどいただきたく……」
頭をさげる現場のスタッフが、なんだか気の毒になって居たたまれなくなってしまった……。

…………長くなったので「新聞製作技術展」編続く。

★グローバル紙は意外にオーソドックス。

2015年07月26日 | 新聞

グローバルなビジネス・メディアとなった日経新聞。
だけど、紙面構成は意外とオーソドックスで旧態依然なのだ。

▽ケイがオーソドックス
ほとんどの一般紙から消えたカザリケイを見ることができる。
紙面(写真は7月22日付東京本社版夕刊)には、
▽全角三柱ケイ(右上「小惑星に名前を」記事)
▽全角カスミケイ(左上「都知事に協力要請」記事)
▽二分二柱アミケイ(中央「世界最大の花咲く」記事)
などの登録ケイのほか、
▽電車ケイ(左下「ブルトレ引退切符」記事)➡︎このケイはイメージ処理かな
などが健在だった。
(ケイの呼び方は新聞社でかなり異なります)
そして、ヤマケイも、仕切りケイも、日経紙面では健在なのだ。

*全角(ぜんかく)=左右幅が88ミルスのケイ。
基本活字が小さかった活版組み版時代、大組みでは2行どりで入れた。
*二分(にぶん)=左右幅が全角の半分44ミルス。1行どりで使用。
活版組み版時代、ケイ幅自体は44だけど、ケイを支えるアシの部分は66~88サイズがあった。

▽レイアウトがオーソドックス
他紙は矩形レイアウトが多くなったけど、
畳んで流す(例=左カタに「都知事」を畳んで、「海水浴場」記事を流す)
ヘソにボックスor写真(例=紙面中央あたりに黒っぽいハコ・写真を配置するとアクセントになる)
など、安定の(?)保守本流的な組み方が健在なのだが、
流し組みが多いので切り抜きがけっこう大変。

(関係ないけど、英紙フィナンシャル・タイムズ紙おなじみのサーモンピンク用紙をつかって、国内で別新聞をつくってくれないかなぁ……。
あの用紙、割と好きなので)

★『トリダシ』の新聞社を読む( 12 )

2015年07月25日 | 新聞

(きのう7月24日付の続きです。写真は、イメージです)
スポーツ新聞社の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の最新小説『トリダシ』(文藝春秋、本体1,750円)。

◆本城雅人(ほんじょう・まさと)さん
1965年、神奈川県生まれ。
明治学院大経済学部卒業後、産經新聞社に入社。事件担当を経て、サンケイスポーツ紙でプロ野球ヤクルト番→巨人番→競馬記者など20年スポーツ記者生活。
米留学でスポーツマネジメントを学び帰国後、野球報道デスク、競馬雑誌編集長を歴任。
退職後は文筆業に専念、2009年『ノーバディノウズ』が第16回松本清張賞候補になり、選考委員の称賛により刊行された。
2010年、同書で「サムライジャパン野球文学賞」大賞受賞。
『スカウト・デイズ』(PHP文芸文庫)、『ビーンボール/スポーツ代理人・善場圭一の事件簿』『球界消滅』(文春文庫)、『嗤うエース』(幻冬舎文庫)、『贅沢のススメ』(講談社)など多数。

同小説は、
「四の五の言ってねぇで、とりあえずニュース出せ!」
を口癖にしている、東西スポーツ・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=44歳)野球部デスクが主人公の連作集。
第2話「コーチ人事」から、編集局や整理部に関係する描写に注目してみた(下記、太字は同書本文から引用しました)


「ヘッドコーチの候補は分かっているのか」
横浜ベイズが〇対六で完敗した試合の雑感を、五分ほどで書き終えた❶江田島は、すぐに球場の外に出て、ジェッツ担当サブキャップの乾に探りの電話を入れた。

(中略)
二年後輩の乾は〈最初は二人に絞られたと思っていたんですが、そのうちの一人は、フロントがオーナーに伝える前に新聞に出てしまったんで消滅してしまいました〉と答えた。
「それってスポーツジャパンが書いた日日の評論家か❷」
〈そうです。京極オーナーは人事が先に漏れるのを嫌がる❸んで。でもそのせいで球団のガードが厳しくなって取材も大変です〉

(57~58ページから)


❶試合の雑観を、五分ほどで書き終えた
第2話は、シーズン終盤10月初旬に設定している。
横浜ベイスタジアムで行われた横浜ベイズ対中部ドルフィンズの試合雑感を15~20行ほど数本、5分で書いて送稿した、ということ。
偶数面(2、4面)あたりに掲載されそうな感じ。

❷スポーツジャパンが書いた日日の評論家か
この『トリダシ』で登場頻度が高いスポーツ紙は、
①東西スポーツ(小説の舞台となっているスポーツ新聞➡︎たぶん、サンスポかな?)
②スポーツ東都(ジェッツという球団を持つ東都新聞系列紙➡︎たぶん、スポーツ報知かな?)
③スポーツジャパン(上記2紙に、ちょっとだけ絡む➡︎たぶん、スポニチかな?)
3紙だけで、「日日」(たぶん、日刊スポーツかな?)ほか首都圏発行2紙は出てこない。
パート2で登場だろーか?

❸京極オーナーは人事が先に漏れるのを嫌がる
京極氏は、東都新聞グループのトップに設定されている。
なんとなく、風貌もゴーマンさもアノ人に似ているけど、たぶん僕の気のせい。

★『トリダシ』の新聞社を読む( 11 )

2015年07月24日 | 新聞

(7月22日付の続きです。写真は、イメージです)
スポーツ新聞社の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の最新小説『トリダシ』(文藝春秋6日発売、本体1,750円)。
同小説は、
「四の五の言わねぇで、とりあえずニュース出せ!」
を口癖にしている、東西スポーツ・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=44歳)野球部デスクが主人公の連作集。
第1話「スクープ」から、編集局描写に注目してみた(下記、太字は同書本文から引用しました)


翌朝、いつものコンビニで東西新聞を購入❶した香織の目に衝撃的な記事が飛び込んできた。
東西新聞が社会面で倉見について報じていた。
「警視庁が倉見健次郎と暴力団との交際を調査」
スポーツジャパンとスポーツ東都は一面❷で掲載していた。
二面の肩に三十行ほどの記事にまとめた❸東西スポーツだって同じことだ。引退を報じた記事の最後には、香織の署名が入っている。

(41ページから)


❶いつものコンビニで東西新聞を購入
朝5時30分の都内のコンビニで、僚紙の東西新聞をレジでお金を払い、〝購入〟後に社会面を開いたことが読み取れる。
良かったぁ~、110円払って購入してからで、笑(➡︎購入金額 110円は推定です)。
新聞社出身の、ある作家の警察ミステリー小説を読んでいたら、
「早朝のコンビニで新聞を見開いた……」
とあり(省略なんだろーけど)せめて購入後に新聞を見てくださいな、とツッコミを入れてしまった(笑)。
ここ数年、駅スタンドやコンビニでの〝新聞立ち読み〟を多く見かける(⬅︎たった100いくらですよ!)。
東京駅のキオスクでは、煙突状の夕刊紙を一部一部抜き取って広げながら目を通して、元のところに戻していたオジサンに、古手のキオスクおばさんがたまらず
「お客さん!新聞の立ち読みやめてください!」
と怒鳴っていた。
モラルハザードもここまで来たか、という感じ。

❷スポーツジャパンとスポーツ東都は一面
この『トリダシ』で、最後まで直接対決しているのは、
▽東西スポーツ(たぶん、サンケイスポーツ)
▽スポーツ東都(おそらく、スポーツ報知)
の2紙。
スポジャパ(なんとなくスポニチ)、日日(たぶんニッカン)はほとんど登場していないのが意味深(パート2で登場かもね)。

❸二面の肩に三十行ほどの記事にまとめた
「二面の肩」だから、中面右面2面の右カタではないだろうか(左カタは3面との見開き構成だから)。
30行もあれば、4段13行幅・太G白ヌキベタ黒ワラジ型地紋
「倉見(小マドで「元投手」)マル暴交際」改行
「警視庁が調査(アキまたはギザギザ)」
で、かなりインパクトはある(だけど、2面扱いでいいのだろーか……)。

★『トリダシ』の新聞社を読む( 10 )

2015年07月22日 | 新聞

(きのう7月21日付の続きです。写真は、イメージです)
スポーツ新聞社の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の最新小説『トリダシ』(文藝春秋6日発売、本体1,750円)。
同小説は、
〝とりあえずニュース出せ!〟
を口癖にしている、東西スポーツ・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=44歳)野球部デスクが主人公の連作集。
第1話「スクープ」から、編集局描写に注目してみた(下記、太字は同書本文から引用しました)。


休日なのに会社に出た昨夜は、午後十時に帰宅❶し、それからパソコンと格闘しながら深夜の二時に原稿を送った。
つけた仮見出しは「倉見健次郎、衝撃の引退表明」
前文と本文だけでも十二字 × 八十行❸に及んだ。
本文には三度の取材で聞いた倉見の決意、そこに至るまでの心の葛藤をじっくり書き込んだ。
この手のスクープ記事の第二原稿は、本文に入り切らなかったコメントを、一問一答形式で掲載するのが常套だが、二度目に自宅を訪ねた時、香織は「里佳さんから見た倉見さん、そしてご夫婦のことを、里佳さんの言葉で書かせてくれませんか」と頼んだ。

(24ページから)


❶休日なのに会社に出た昨夜は、午後十時に帰宅
新聞社編集では、よくある休日出勤。
「家が無いのか?」
と思えるほど毎晩毎晩、局のどこかの空いている席で、紙コップコーヒーを置いてパソコンを打っている出稿部記者がいたが、考えられるのは下記のケース。
⑴ 家族がいる自宅はうるさくて落ち着けないケース➡︎あるあるある。
⑵ バイト原稿執筆➡︎あるあるある。このケースが有力(笑)。
気が咎めるのか、社の配車タクシーでは帰宅せず、電車で消えるよーだ。
⑶ 企画特集、記事広(記事広告)の原稿書き➡︎あるあるある。
業務内なので、大手を振って社のタクシーで帰宅。
⑷ 仕事の処理が遅いため、休日に追い込みをかけないと他の記者に遅れちゃう➡︎あるあるある…………

整理部(編集センター)も企画特集ものなどを抱えちゃうと休日出社することがある。
騒々しい方が仕事がはこぶのと、自宅に倍尺や割り付け用紙は無いからねぇ。
*倍尺(ばいじゃく)=新聞編集でつかう特注スケール。7月15日付参照してね。

❷仮見出しは「倉見健次郎、衝撃の引退表明」
仮見出しは、本記・内容を仕分けする際に必要なので、◎(にじゅうまる)をつけて区別する(←新聞社によって異なります)。

❸前文と本文だけでも十二字 × 八十行
現在(2015年7月)サンスポは11字組み。
この場合の「十二字」は、12段編成の1段12字どりではなく、15段編成の1段(15倍)12字のこと(だろう)。
前文のケツには「前文止メ」を入れて、アキ3行→本記を書き出すと分かりやすいですよね。

★『トリダシ』の新聞社を読む❾

2015年07月21日 | 新聞

(きのう7月20日付の続きです。写真は、イメージです)
スポーツ新聞社の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の最新小説『トリダシ』(文藝春秋6日発売、本体1,750円)。
同小説は、
〝とりあえずニュース出せ!〟
を口癖にしている、東西スポーツ・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=44歳)野球部デスクが主人公の連作集。
鳥飼は球団人事など数々の大スクープをものにし、他紙からは〝影のGM〟とも恐れられた異能の記者だったが、言動や取材法をめぐり、社内外から煙たがれていた。
第1話「スクープ」から、編集局描写に注目してみた(下記、太字は同書本文から引用しました)。
◆本城雅人(ほんじょう・まさと)1965年神奈川県生まれ。
明治学院大経済学部卒業後、産經新聞社に入社。事件担当を経て、サンケイスポーツ紙でプロ野球ヤクルト番→巨人番→競馬記者など20年スポーツ記者生活。
米留学でスポーツマネジメントを学び帰国後、野球報道デスク、競馬雑誌編集長を歴任。
退職後は文筆業に専念、2009年『ノーバディノウズ』が第16回松本清張賞候補になり、選考委員の称賛により刊行された。
2010年、同書で「サムライジャパン野球文学賞」大賞受賞。
『スカウト・デイズ』(PHP文芸文庫)、『ビーンボール/スポーツ代理人・善場圭一の事件簿』『球界消滅』(文春文庫)、『嗤うエース』(幻冬舎文庫)、『贅沢のススメ』(講談社)など多数。


早版の締め切りを終えて❶席を立っていた鳥飼が喫煙室から戻ってきた。
香織は周りの同僚記者に注目されないように立ち上がり、鳥飼の歩いてくる方向に向かった。
短く刈り上げた髪は白く染まり、ゲラを読む時はいつもリーディンググラス❸をかける。普段の鳥飼は、風采が上がらない中年そのものなのだが、一度怒りに火が付くと、窪んだ目の奥で瞳孔が開き、威圧感が出る。
近づくとタバコの匂いが漂ってきた。
鳥飼の大きな耳が、真横を通り過ぎた瞬間、香織は囁いた。
「……準備は出来ています。明後日の紙面でいけます❹」

(19ページから)


❶早版の締め切りを終えて
東西スポーツ出稿部の早版締め切り時間は、午後8時半ぐらいか(整理部の早版降版は同9時半ぐらい➡︎それにしても早版とはいえ、早過ぎないかなぁ)。
ナイターをやっているシーズン中なら、こんな余裕かましている場合じゃないけど、シーズンオフ、ストーブだからねぇ。

❷喫煙室から戻ってきた
いわゆるタバコ部屋。
東西スポーツ編集局がある同フロア(東西新聞社ビル3階)にあるよーだから、恵まれているかも(笑)。別フロアだと大変。
タバコ部屋では、いろいろなコソコソ情報が聞けることもあるが、先客に女のコ1人だけの時に入るのはツラいよねぇ。

❸ゲラを読む時は……グラス
44歳の鳥飼デスク、早くもリーディンググラス。基本活字サイズが大きくなったとはいえ、やはり見えにくい&読みづらいよねぇ。
「ゲラ」とあるので出稿モニターではなく、ホスト入力後プリンターから呼び出した小ゲラか。

❹明後日の紙面でいけます
この場合の「明後日」は組み込み日(付け日=づけびと呼ぶ社も)なのか、勤務日なのか。
「紙面」と言っているので、組み込み日だろう(例えば、話しているのが21日なら22日付新聞をつくっているので、23日付紙面でいけます➡︎明日22日送稿します、ということ)。

★『トリダシ』の新聞社を読む❽

2015年07月20日 | 新聞

(7月15日付の続きです)
スポーツ新聞社の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の最新小説『トリダシ』(文藝春秋6日発売、本体1,750円)=写真
同小説は、
〝とりあえずニュース出せ!〟
を口癖にしている、東西スポーツ・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=44歳)野球部デスクが主人公の連作集。
鳥飼は球団人事など数々の大スクープをものにし、他紙からは〝影のGM〟とも恐れられた異能の記者だったが、言動や取材法をめぐり、社内外から煙たがれていた。
第1話「スクープ」から、編集局描写に注目してみた(下記、太字は同書本文から引用しました)。


工藤は不思議そうな顔で香織を見た。
本紙出身の工藤❶の前では、誰もそう呼ばないのだろう。
とりあえずニュース出せだからトリダシなのだと説明すると、「それって、鳥さんの口癖だものな」と工藤は笑った。

(中略)
苦笑いを浮かべた工藤は、当時の鳥飼の様子を話し始めた。
「鳥さんって四十になってから本紙に来ただろ? 最初はスポーツ紙の記者になにができるって相手にもされなかったんだ。
鳥さんも別に気にしていなかったけど、酒の席で社会部長から『所詮はスポーツ新聞だろ』って言われた時、鳥さん、切れちゃって。
『あんたたちより取材している』ってムキになって言い返した
❷んだよ」
「そんなこと言ったんですか」
「最後は売り言葉に買い言葉で『スポーツ紙は売店で買わせてなんぼのものだ。黙ってても家に届く一般紙と一緒にすんな』❸と言ったんだよ。読者に読ませるのではなく買わせるといったところに、俺は興味を惹かれてさ。それで、一度やってみたいと異動願いを出したんだよ」

(42~43ページから)


❶本紙出身の工藤
一般紙とスポーツ紙を同時に発行している新聞社の場合、製作局や他部は「一般紙=本紙」とよぶことがある。
一般紙が上位に感じられるけど、たぶん気のせい……小説では「東西新聞」が親会社に設定されているので、この表現なのでしょう。

❷『所詮はスポーツ紙……言い返した
取材と出稿行数は、確かにスポーツ紙記者の方がはるかに多いのではないだろーか(と感じる)。
例えば、プロ野球シーズン中。
スポーツ紙記者は本記60行、雑感15行3本、記者の目40行、コメント数本、データ10行ぐらいは書かないとならないこともある(←最悪ね。試合経過は共同がつかえる)。
さらに、早版向けにゲーム前の雑感も数本アップしないとならないし、いろいろ球団の動きもチェックしないとならないしねぇ……。

❸『スポーツ紙は……一般紙と一緒にすんな』
フロント1面の「右上」で勝負!のスポーツ紙。
駅売店やコンビニで1部でも多く買っていただくため、整理部の腕の見せどころ!
——とはいえ、読者は定期購読紙が決まっていることが多い(→例えば、ふだんサンスポを買っている人は、デイリーを買っても読みにくいのではないだろーか)。
よほどの大スクープ掲載以外、読者の食指はどーなんだろう……。