(4月29日付の続きです。写真はイメージです )
小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第92回。
(小説の時代設定や登場人物のほか、新聞編集でつかう「倍数」「CTS」などの用語は随時繰り返して説明します)
【 小説新潮2015年12月号=連載③ 370ページから 】
四階の制作局に入ると、人でごった返していた。
奥の入力機でキーボードを打っている人、大きな紙や小さな紙を持って走る人、そして先に降りた整理部の人たち。
テレビで観た❶証券取引所や魚市場の競りのような騒ぎだった。
松田さんや秋馬さんも大きな机に制作局の人と向かい合って立ち、指示しながらハサミで何かを切っていた❷。
机の上には大きな段ボールがあり、それが新聞のもとで、記事や写真を貼り付けている❸ようだった。
「二面の再校大刷り、校閲の分が足りないぞ!」
「一面の道庁の記事、急いでくれ!」
あちこちから大声が上がっている。
❶観た
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集 13版」(株式会社共同通信社)では、
みる=(観る、看る、視る)
➡︎見る〈一般用語〉足元を見る、憂き目を見る、映画・テレビを見る、大目に見る、景気の動向を見る、隙を見る……
(副詞・あるいは副詞的用法の書き方)見るからに、見る見るうちに……
——「観る」は漢字表にない字なので平仮名表記にしましょう、といっているけど、著作物なのでこのまま行ってください(って、校閲部は言うよね)。
❷大きな机に制作局の人と……何かを切っていた
1990年当時の北海タイムスの組み版は切り貼りCTSだったので、大きな机、ハサミ(あるいはカッター)が必需だった。
「大きな机」は新聞1ページをつくる大組み台みたいなもので、たぶん上部がやや持ち上がって傾斜していたのではないだろうか。
広告段側に制作局員、反対側に整理部員が立ち、組み指示をしていたのだろう。
「ハサミで何かを切っていた」は、記事の棒ゲラ(小ゲラ)か写真印画紙、見出し出力紙などだろう。
*CTS(シー・ティー・エス)=コンピューター組み版・編集
1978年に日本経済新聞東京本社(初期システム名=アネックス)が、
続いて1980年に朝日新聞東京本社(同=ネルソン)が新社屋完成とともにスタートした。
2社とも1960年代から電算化研究に着手し、米IBMがソフト開発を担った。
主要新聞社の初期CTS完了は1993年といわれている。
*切り貼りCTS(きりばりシー・ティー・エス)
①北海タイムス紙のような規模の小さな新聞社が採用した電算写植組み版
②規模の大きな新聞社が鉛活字組み版からフルページ全面CTSに移行するまでの、過渡期に採用した暫定的組み版
の2つがあった。
どちらも、組み上げた紙面を撮影→ネガ刷版にするので制作時間は同じようにかかる。
❸机の上には大きな段ボール……貼り付けている
僕ははじめ「大きな段ボール」が分からなかった。
「新聞のもと」とあるので、記事印画紙などを貼り込む、やや厚めの台紙のことだと思う。
同台紙の欄外上部には
「北海タイムス」「1990(平成2)年4月◯日(◯曜日)夕刊」「◯面」
が別出しされて、既に貼り込んであったはず。
————というわけで、続く。