降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★不穏…砂バケツ事件=「北海タイムス物語」を読む (104)

2016年05月22日 | 新聞/小説

(5月19日付の続きです。写真は、イメージです)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第104回。

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=北大中退後、北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ報道部記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。



【小説の時代設定と、主な登場人物】
1990(平成2)年4月中旬@北海タイムス札幌本社ビル。
▽僕=北海タイムス新入社員・野々村巡洋(じゅんよう)。東京出身23歳、早大卒
▽秋馬(あきば)=同紙整理部員で、野々村の3年先輩。この日は2面の面担(めんたん=紙面編集担当者)だった
▽松田=野々村と同期の北大中退24歳。柔道部出身。小説作者・増田さんの投影キャラと思われる。

【 以下、小説新潮2016年1月号=連載④ 455ページから 】
松田さんと秋馬さんに連れられて編集局へ戻ると、整理部の人たちが四、五人、立ったまま談笑していた。
夕刊作業はすべて終わったようだった。
漏れ聞こえる会話の端々に「砂」という言葉が入っているのはバケツの砂事件❶のことだろう。
時計を見ると二時半を回ったところ❷だった。
もじゃもじゃ頭のデスクがこちらに気づいた。
「おお、野々村。どこにいたんだ、みんな心配してたぞ❸」
なぜか左手にキャッチャーミットをはめている❸。
「奥の階段のとこに座ってたんです、こいつ」
秋馬さんが僕の尻を叩いた。



❶バケツの砂事件
印刷工場を抱えていたころの新聞社にとっては、輪転機テロを想起させる不穏な「バケツの砂」——。
北海タイムス(以下、北タイ)新入社員入社式前日に、札幌本社ビル1階女子トイレ個室に砂が目いっぱい詰まったブリキ製バケツが置いてあった事件のこと。
同バケツには
〈闘争用。この砂を撒け〉
と赤いサインペンで記された紙が貼られていたので、整理部・校閲部犯人説が流れていた。
*赤いサインペン
新聞社によって異なるが、部ごとにつかうインク色が設定されている。
▽赤色なおし=整理部、校閲部
▽青or黒色なおし=出稿部
どこの部がゲラ修正をしたのか分かるようにしたのだけど、厳密ではない。
手近にあるペンで、分かりやすい字で手を入れてくださいね。


❷時計を見ると二時半を回ったところ
1990年当時の北タイ紙の夕刊は、改版なしの1版止め。
他紙と比べると夕刊降版時間が少し遅いようだけど、「刷り出し」を待っているのだろうか。
*刷り出し(すりだし)
地下の印刷局で、インク調整用に刷った新聞。
原則、社外持ち出し禁止(持ち禁=もちきん)、ガラ刷りと呼ぶ人もいる。
オフセット印刷なので、編集局に持ち込まれたときは多少湿っている。


❸心配してたぞ/はめている
小説作者の増田さんは、会話文と地の文の書き方をきちんと分けているようだ。
▽「してたぞ」➡︎地の文なら「していたぞ」
▽「はめている」➡︎会話文なら「はめてる」
会話の場合「母音が連続すると、後ろの母音は消滅しやすい」
shiteitazo ➡︎ shite( i )tazo
と大野晋さんの本で読んだ記憶があるので、ソレなのかしらん。

————というわけで、続く。