降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★500万円かかる!=「北海タイムス物語」を読む (103)

2016年05月19日 | 新聞

(5月18日付の続きです。写真はイメージです)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第103回。

【小説の時代設定と登場人物】
崩御の翌1990(平成2)年4月中旬の、北海タイムス札幌本社ビル。
〈僕〉は、北海タイムス新入社員の野々村巡洋くん(23)。東京出身、早大卒。
〈権藤さん〉は、同紙整理部記者。この日は夕刊の社会面担当(面担=めんたん)。

【 以下、小説新潮2015年12月号=連載③ 372ページから 】
「ばかやろう! そんなことしてる暇ねえ! もう十分遅れてるんだ!」
「やるしかない! 急げ!
この四段見出し九行どりにして、この罫を全角カスミに変えて! 違う違う! これだ! 早く! それでここを三つ折り! この二段写真を一行浮かせて❶!」
制作の人たち、すでに降版した整理の人たちがその机を囲み、必死に手伝っている❷。
「急げ! 共同輸送に間に合わねえぞ! タクシーになったら五百万円吹っ飛ぶ❸ぞ!」
年配の制作の人が叫んだ。
その人だかりに向かって、僕は「すいません! すいません!」と頭を下げ続けた。
「どけ!」
誰かに突き飛ばされた。
「邪魔だ!」
別の誰かに突き飛ばされた。視界がぼやけていた。すべて白くかすんで見えた。
殺気立つ人混みをかきわけ、僕は制作局を出て整理部とは反対にある奥の階段へ向かった。



❶二段写真を一行浮かせて
たとえば2段18行(36倍)のスペースでおさめていた写真を、19行(38倍)で入れること。
当然、見た目スカスカ感がでるけど、一般紙なら許容範囲か。
*18行36倍
倍は新聞編集でつかう単位=きのう5月18日付みてね。
この小説当時、北海タイムス紙は1行13字組みをしていた(小説内では「T字」と呼んでいる。たぶん、タイムスかサーティーンのT)。
この13字フォントのサイズは天地9.2U、左右11Uで、行間5Uを合わせるとピタリ
2倍=176ミルス=16U
になるという、整理記者にとっては計算しやすいフォントなのだ。


❷制作の人たち……必死に手伝っている
当時のタイムス紙の印画紙切り貼りシステムを考えると、小説を読んでいた整理部の人なら震え上がるシーン。
制作や整理ら複数の手が記事印画紙や写真を剥がして(裏に仮止め接着剤つき)、さらに数行に切って再び台紙に貼り込みをしている——ひえっ~~!
降版時間を10分以上オーバーし〈必死に手伝っている〉のはいいのだけど、これ、かなり、組み違い事故を起こす危険がある。
こういう場合、整理面担の権藤くんが一人で作業したほうがいいよぉ……と小説に叫んでも仕方ないけど(笑)。
てか、ナマ原稿をもっていった入力部は、どーしたのだろう、20行程度なら数分でゲラ化できるはず。

❸タクシーになったら五百万円吹っ飛ぶ
「五百万円」に再び震え上がっちゃう。
当時のタイムス紙は自社便を持っていなかったようだ。
僕も降版遅れで共同輸送便に間に合わず、特別輸送便を出したことがあったけど、費用は数十万円だった(→翌朝、整理部長から聞いた。整理部長は制作工程管理委員会からこっぴどくヤラれたという)。
やはり、北海道は広大だからタクシーで販売店に配送するしかなかったのだろうか……うーむ。うーむ。

————というわけで、続く。