降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「北海タイムス物語」を読む ㉖

2015年12月31日 | 新聞

( 12月30日付の続きです。写真は本文と関係ありません。
京都市中京区三条通のランドマーク「1928ビル」は元・毎日新聞京都支局。1928年に武田五一氏設計により大阪毎日新聞社会館として建てられ、その後1998年まで京都支局として使用されていた。バルコニーなどに、大阪毎日の社章・星形マークが残っている。
支局の移転に伴い売却され改修、現在はカフェやギャラリーなどが入る商業ビルになった。京都市登録有形文化財に登録されている )

——ということは、さておき。
小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第26回。

( 小説新潮2015年11月号 289~290ページから )
「そうだよな。俺たち書くために入ったんだよな」
他の誰かが小声で言った。まったくそのとおりだった。
僕たちがやろうと思っているのは黒塗りのハイヤーに乗って事件取材に行く社会部の記者であり、スーツを着て要人たちと渡り合う政治部の記者❶だった。
整理とか校閲になったら続けるの無理❷……」
僕が言うと、横から腕をはたかれた。いつから隣にいたのか桐島さんだった。
「ちょっとあなたたち、いい加減にしなさいよ。あなた野々村君ていったかしら?」

( 中略。僕註=「桐島さん」は北海タイムス社長秘書、「野々村」は小説主人公で平成2年新入社員 )
「そう。いま言ったこと。整理や校閲は嫌って言ったわよね」
「はあ……」
そっちに座る人も、あそこに座る人も整理部のデスク❸よ。そもそも萬田さんだって整理部長よ。
あっちの人たちは校閲部。
みんなあなたたちを歓迎しようと思って来てるのよ。そのあなたが整理や校閲なんて嫌って言ったらどんな思いすると思う?」
「でも僕はもともと政治問題やりたくて記者になったわけだし、言わないとまわされちゃう可能性がある❹し……」
「なるほどね、政治問題ね。たいしたもんだわ」と桐島さんが皮肉っぽい笑みを浮かべて「そのためには人の気持ちは考えないのね」と言った。



❶僕たちがやろうと思って……政治部の記者
うーむ。
小説の主人公・野々村くん、よく言えば素直で草食系な青年だけど、悪く言えば幼い!子どもっぽい!テレビドラマの見過ぎ!デスクとしては扱いにくい!
思わず「!」(アマダレ)連発になっちゃったけど、作者・増田さんは、こんな野々村くんの成長物語にしたいのだろう。

❷整理とか校閲になったら続けるの無理
整理部、校閲部を敵にまわしたら怖いよ。
君の書いた原稿、小さく扱うし、確認の電話バンバンかけちゃうよぉ(笑)。

❸そっちに座る人も……整理部のデスク
北海タイムス平成2年度(1990年)入社式のあとに、居酒屋で行われている歓迎会。
時刻はだいたい午後7時30分過ぎ。
タイムス紙の降版ダイヤは不明だけど、朝刊編集中のはずだから、複数の整理部デスクが居酒屋に来ているのは……
①仕事を終えた夕刊デスクが参集
②仕事中だけど、朝刊デスクがちょっと顔を出して、すぐ社に戻る
③休刊日出勤
なのかもしれない。

❹言わないとまわされちゃう可能性がある
政治問題をやりたいのかぁ……そうかぁ、野々村くんは。
同席している萬田編集局次長兼整理部長や木佐木社会部長のほか、整理部デスクら面々の前での〝所信表明〟を、彼らはどう思っただろう。
小説とはいえ、心配になっちゃう。
親と上司と配属先は、選べないのだよ。

———というわけで、2016年に続く。

★「北海タイムス物語」を読む ㉕

2015年12月30日 | 新聞

( きのう12月29日付の続きです。写真は本文と関係ありません )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第25回。

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=(北大中退後)北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。



( 小説新潮2015年11月号 289ページから )
「え、毎年一人は整理部なんですか……」
びっくりして僕が聞くと萬田さんがにんまりと笑った。
冗談じゃない!——。
「僕、整理なんて絶対いやですから。あんなとこ絶対行かない
❶ですから」
「ばかやろう、おめえなんか整理に呼ばねえよ。ソ連船に拿捕されてゴルバチョフ❷のとこに行っちまえ。ばかめ。俺は松田や猪之村のことは愛しているが、おまえのことは愛してないからな」
「もし整理に配属されたら俺は絶対に会社辞めますからね」
河邑が声を荒らげた。
他の新入社員たちが後ろから小突き「まずいぞ。そんなこと言ったら」と注意した。しかし河邑は酔眼で「俺は書くために新聞社入ったんだ。整理なんて❹やるためじゃない。ここで言っておかないとほんとにまわされちまうぞ」と引かない。
「そうだよな。俺たち書くために入ったんだよな」
他の誰かが小声で言った。まったくそのとおりだった。



❶毎年一人は……あんなとこ絶対行かない
「萬田さん」は、北海タイムス編集局次長兼任整理部長。
発言者は、小説主人公の野々村くん。
「整理なんて」「あんなとこ」とは、新聞社整理部にとって聞き捨てならない言葉。
だけど、野々村くんはこの発言で整理部配属当確だね(→入社式後の見学だけで、なぜ「あんなとこ」となるのか不明。外回りをしたいから内勤はイヤということなのだろうか)。
*毎年、新人数人が整理部配属になるが、半年もドタバタすればけっこう
「レイアウト天職!!」
「見出しつけ大好き!」
とハマって、出稿部行きを拒否る人がいるのも事実なのだ。住めば都だよ。


❷ゴルバチョフ
ミハイル・ゴルバチョフ(1931年~)。モスクワ大学卒。冷戦の終結、ペレストロイカによる共産圏の民主化などでノーベル平和賞受賞。
小説に設定されている平成2年(1990)年は、ソビエト連邦初代大統領。

❸声を荒らげた
校閲部にとって、この「荒らげた」を見ると待ってましたぁ~的な表記(かな)。
赤鉛筆で小ゲラ記事をなぞりながら素読み中「オッ、出た!」。
すぐ赤字チェックしたいところだけど、この記述の表記で正しいです。
新聞用字用語集「記者ハンドブック」では
あららげる=荒らげる[「荒げる=あらげる」は使わない]

❹整理なんて
新入社員から、2度目の「整理なんて」発言……イヤがられる新聞社整理部(笑)。
野々村、河邑くんに続き、
「俺たち書くために入ったんだ」
全員に言われては、歓迎会に同席した北海タイムス整理部はムッ(たぶん)。
どっこい、親と上司と配属先は選べないのでございます。
*新聞社整理部=編成部、編集センターとも。新聞紙面のレイアウトや見出しをつける部署。
記者組み版で(スポーツ新聞社以外の)整理部は絶滅危惧職場かも……。


———というわけで、続く。

★「北海タイムス物語」を読む ㉔

2015年12月29日 | 新聞

( きのう12月28日付の続きです。写真は本文と直接関係ありません )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第24回。

( 小説新潮2015年11月号 289ページから )
俺は社会部以外には絶対いかない❶ですからね」
河邑太郎が憤然として両腕を組んだ。
木佐木社会部長が笑った。
「大丈夫だ。うちの場合、二週間は研修で全員を本部と中央署で❷サツ廻りさせる。そのあと適性に合わせてサツにそのまま置いたり、支局とか経済部とか道庁クラブとかに振り分ける。
整理部は覚えることが多いし責任も重い❸から新人には難しいんだよ。
いろいろ外で経験させてから整理やったほうがいいんだ」
「いや、違う。俺はまったく逆の考えだ。
整理を覚えてから外に出したほうが伸びるんだ。ニュースの価値判断ができないやつは書いても伸びない。俺は欲しいやつを獲るよ」
萬田さんが言うと、木佐木さんが舌打ちした。
「だからさ、そういうことやるから俺たち困っちゃうんだよ。萬さんが局次長になってからこの二年、毎年一人ずつ整理に引っ張っちまうから取材の方が困ってんだよ」
「え、毎年一人は整理部なんですか……」
びっくりして僕が聞くと萬田さんがにんまりと笑った。



❶俺は社会部以外には絶対いかない
発言者が分かりにくいが、
「俺は」=新入社員・河邑太郎
「僕は」=主人公・野々村巡洋
河邑くんはズケズケものを言うキャラクター設定で、ここ(北海タイムス平成2年度新入社員歓迎会「狸小路の居酒屋金不二」会場)でも社会部以外拒否宣言しているが、果たして……。
相変わらず社会部が新聞社の花形部署になっているようだけど、それはどーかなぁ。

❷研修で全員を本部と中央署で
「本部」は道警、「中央署」は札幌中央署。
2週間の研修期間で適性(→押しが強いヤツなら◯◯部とか)を見るようだ。
新聞社によっては1週間、有力専売店で新聞配達をしてもらい現場を体験させる社もある。
「配達している学生スタッフと一緒に風呂に入ったとか、けっこう楽しかったっすよ」
と知人は言っていた。

❸整理部は覚えることが多いし責任も重い
この発言から、木佐木社会部長は整理部配属がなかったのではないだろうか。
体験ではなく、伝聞のような感じ。外勤だった人に多い発言。
覚えることが少なくて責任も軽い部署は、どこの新聞社にも(どんな仕事にも)無いと思うけど。あったら転部願を出したい。

———というわけで、続く。

★「北海タイムス物語」を読む ㉓

2015年12月28日 | 新聞
( 12月24日付の続きです )

小説新潮=写真=に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第23回。

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=(北大中退後)北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


( 小説新潮2015年11月号 288ページから )
「東大?」
萬田局次長が吹き出した❶。そして「おまえ、ひでえな!」と隣の松田さんの背中を思い切り叩いた。
そして「みんな聞いてくれ!」と言って松田さんの首をヘッドロックのようにして抱え「こいつと猪之村が東大出身だって騙ってる❷らしいぞ!」と松田さんの頭を二度三度と小突いた。
「違うんですか……」
僕が聞くと、みんなが爆笑した。
「違うに決まってるだろ。よく見てみろ。東大っていう顔か、こんな馬鹿たちが。二人とも泥くさい北大だ。はっはははは」
「嘘なんですか……」


( 中略。僕注=松田、猪之村は小説主人公の野々村と同期入社だが、2人はそれぞれ北海タイムスの校閲部と写真部に先行入社していた )

「おまえねえ、そんなふうに騙されてたら❷記者なんか勤まらないぞ。こいつらは北大中退して働いてんだよ」
頭が混乱してきた。
「中退なのに、入社できるんですか……」
萬田局次長が嬉しそうに笑った。
「こいつらは特別だよ。入社試験がぜんぶ終わってから『記者になりたい』『カメラマンになりたい』って無理矢理ねじこんできたんだ。追い返しても帰らねえから特別に試験受けさせてしかたなく追加合格にしてやったんだよ。はっはっはははは」
「無理矢理で入れるんですか……」
二十一社も受けた僕が馬鹿みたいじゃないか。



❶吹き出した
新聞用字用語集「記者ハンドブック」では
噴く[噴出]
悪感情が噴き出る、汗が噴き出る、火山弾が噴き上がる、エンジンが火を噴く、おかしくて噴き出す……

とあるけど、著作物なのでかまいません(←エラそうだな)。
判断つきにくい場合は、ひらがなにヒラいちゃいましょう、が校閲部の合言葉(かな)。

❷騙ってる・騙されてたら
またまた新聞用字用語集「記者ハンドブック」では
かたる(△騙る)
→かたる[だます]有名人の名をかたる

だます(△騙す)
→だます。子供だまし、だまし討ち、だましだまし

共にひらがな表記にしましょうねとあるけど、著作物なのでかまいませんよ(←ホントにエラそうだな)。

❸「中退なのに、入社できるんですか……」
結論を先に言えば、大学中退だろうが、除籍だろうが、「入社でき」る。
いわゆるコネ入社、縁故入社——昔はバンバンあったけど、近年は中途入社が多くなってきたので、人知れず行われているみたい(笑)。
確かに、主人公・野々村くんのつぶやく通り
「二十一社も受けた僕が馬鹿みたい」
なんだけど、そこはまぁムニャムニャ。
僕の見聞——。
昔、校閲部に突然20代前半の小太り青年が入ってきたので、ヒソヒソ
僕(今度来たやつ、なんだ? なんで今ごろ入ってくるんだ?)
校(うーん……大きな声では言えないけどさぁ、ほら、亡くなった社会部長の息子らしいよ。上の代表からねじ込まれたらしいね)
僕(新卒でも、即戦力でもないってこと?)
校(…………おっと、仕事しなきゃ。あぁ、忙しい忙しい)
けっこうあります&ありました。
*ちなみに、作者・増田さんも「北大中退」……。

———というわけで、続く。

★江口寿史さん新連載に挑む…かも❷止

2015年12月27日 | 新聞


( きのう12月26日付の続きです。「止」はコレデ終ワリのマークです )

明治大学米沢嘉博記念図書館(東京・千代田区)1階展示コーナーで開催中の
「江口寿史展 KING OF POP」Side B
展に行った(来年2月7日まで)。
会場内、江口ブースに限り撮影可という太っ腹がいいね!

【 驚いたこと❷ 】天才でも悩んだ時期があったのかぁ……
ド派手な2色刷り「BOXERケン」=写真
「1980年代前半、ライバルと意識した作家たちがレースから退場し独走状態となった江口」寿史さん(59)にとって、突然現れた「伝染るんです。」(1989年ビッグコミックスピリッツ、吉田戦車さん52歳)で危機感を覚えたという。
だから、吉田連載の直前に掲載されたようだ……天才でも、そんな時期があったのかぁ。

【 驚いたこと❸ 】1コマ1コマがアートなのだ
江口さんのブッ飛びギャグはもちろん凄いのだけど、ナマ原稿や過去の作品群を見て、あらためてその巧みな画が
「1コマ1コマがポップアート!」
を感じた。
だから、画集が欲しくなって神保町「書泉」に行ったのだ。

【 驚いたこと!❹ 】来年2016年こそ新連載か?
いしかわじゅんさん(64)は、江口さんを
「漫画を描かない漫画家」
と言っていた。言い得て妙。
江口さん、2016年は8年来あたためてきた自伝漫画構想があり、藤子不二雄さんの「まんが道」のような青春物語を描きたい——という。
「マカロニほうれん荘」(1977~79)の鴨川つばめさんらも登場というから、期待大(←とはいえ、途中放棄や中断がアレだから、描きためてから連載のほうがいいと思う、笑)。

★江口寿史さんは天才だと編集者は言った❶

2015年12月26日 | 新聞


僕が、少年ジャンプに持ち込みで漫画を見ていただいたとき、同誌編集者が言っていた話——。
当時(←昭和の頃ね)、集英社は小学館ビルの隣でポツンと建っていたペンシルビル。
ジャンプは右肩上がりで部数を伸ばし、イケイケドンドンの黄金期だった。
編集部のH谷さんが刷りたての翌週誌を、僕に渡して
「江口くんは天才だな。彼の『すすめ ‼︎ パイレーツ』トビラを見ただけでゾクゾクしないか」
と言っていたのを思い出した。

というわけで(?)明治大学米沢嘉博記念図書館(東京・千代田区)1階展示コーナーで開催中の
「江口寿史展 KING OF POP」Side B
展に行った(来年2月7日まで)。
狭い会場にはファンが13人もいて、ちょっと息苦しいけど、展示に見入ると楽しい楽しい楽しい楽しい。江口展に限り撮影可の太っ腹だし。
*江口寿史(えぐち・ひさし)さん
1956年生まれ。「すすめ‼︎パイレーツ」「ストップ‼︎ひばりくん」ほか著作多数。
1992年、第38回文藝春秋漫画賞受賞。
関係ないけど、吉祥寺(東京都武蔵野市)中道通りのカレー屋で何回か見かけた(笑)


【 同展で驚いたこと❶ 】江口さん、原作付きも描いたんだね
江口さんといえばギャグ系と思っていたけど、あの巧みな画で原作付き野球コミックがあったのは知らなかった(→あ、有名な話ですか?)。
POPEYE増刊「Comic P!」に掲載された、少年野球もの「HOMERUN CATCHER」(1998年。原作・高田嘉さん)=写真
でも、連載1回で中断したから江口さんらしいといえばらしい。期待していた読者も、原作者も、編集部もビックリしただろうね。
連載3回で放棄した「ラッキーストライク」(1996年、週刊ヤングジャンプ)もあったから、そこは天才なら許されるのだ。
でも〝未完の大作〟は何本あるのだろう。

——というわけで、江口寿史展❷に続く。

★「北海タイムス物語」を読む ㉒

2015年12月24日 | 新聞

( きのう12月23日付の続きです )

小説新潮=写真=に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第22回。

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=(北大中退後)北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


( 小説新潮2015年11月号 287~288ページから )
さっき社会部長❶が「明日から本格的な取材研修になるから新人八人の名簿をこれで作ってくれ」と言っていたものだ。
青いサインペンでラフに仕切られ、そこに新入社員たちが住所と電話番号などを書いている。ひっくり返すと裏は枡目のある原稿用紙だった。
欄外に《 北海タイムス原稿用紙 》と印刷してある。この原稿用紙を使って明日から記事を書くことになるのだ——
まわりに悟られないように字詰めを数えると、なるほど新聞と同じ十三字詰め❷になっていた。鼓動が早まる❸のを抑えながらテーブルの上の料理の皿をずらして紙を置き、必要事項を書いていった。
《 野々村巡洋
(ののむらじゅんよう)
二十三歳
神奈川県出身
早稲田大学教育学部教育学科心理学専修
札幌市中央区北五条西五丁目
センチュリーロイヤルホテル札幌
712号室 》
ここまで書いて、手を止めた。
電話番号はフロントの代表電話だから❹注意書きを入れたほうがいいかなと他の人のところを見ると松田さんの猪之村さんの電話が《 呼び出し 》となっていた。
そして、なぜか二人の出身校は《 北海道大学 》と汚い字で書かれていた。
なにかの間違いではと思ったが、猪之村さんの住所は《 恵迪(けいてき)寮 》になっている。たしか冬に赤フンで雪の上に飛び降りることで有名な北大の蛮カラ寮ではないのか。



❶社会部長
小説内では、木佐木誠(きさき・まこと)。北海タイムス編集局次長兼整理部長の萬田恭介(45)との出世レースに負けた、という設定になっている。
しかし、萬田さんの「編集局次長」兼任「整理部長」というのは、かなり珍しいのではないだろーか。

❷字詰めを数えると、なるほど新聞と同じ十三字詰め
小説の設定は平成2(1990)年。
当時の北海タイムスの1段(1行)は13字組みと分かる。
1980年代以降、日経新聞東京本社、朝日新聞東京本社の2社から始まったCTS(コンピューター組み版編集)で、新聞各紙の基本文字サイズが数年ごとに拡大されていた。
整理部の僕は、字数が割り切れず、なんとなく不吉な1段「13」字はあまり好きじゃなかった( ←あ、関係ないか、笑 )。

❸鼓動が早まる
新聞用字用語集「記者ハンドブック」では
はやい・はやまる・はやめる
早[主に時間関係]足早に立ち去る、いち早く、遅かれ早かれ、会期が早まる……
速[主に速度関係]頭の回転が速い、車の速さ、呼吸が速い、速い動作……
とある。
でも、校閲部は迷うときはひらがなにしちゃいます。

❹電話番号はフロントの代表電話だから
「センチュリーロイヤルホテル」はJR札幌駅に隣接する、実在のホテル。1973年開業。
野々村くんは高層シティホテルに宿泊していたようだ。
僕は札幌に行ったときに周辺を歩いたが、デパートやコンビニ、地下鉄駅があってアクセス至便なところ。当時は1泊いくらぐらいだったのかしらん。

———というわけで、続く。

★「北海タイムス物語」を読む ㉑

2015年12月23日 | 新聞

( きのう12月22日付の続きです。写真は本文と関係ありません )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第21回。


( 小説新潮2015年11月号 287ページから )
「おい、これ。早く書け。あとはおまえだけだ」
後ろから声をかけられた。
振り返ると河邑太郎が立っていて、ザラ紙❶をぐいと押しつけて自分の席へ戻っていった。
さっき社会部長が「明日から本格的な取材研修になるから新人八人の名簿をこれで作ってくれ」と言っていたものだ。
青いサインペンで❷ラフに仕切られ、そこに新入社員たちが住所と電話番号などを書いている。ひっくり返すと裏は枡目のある原稿用紙❸だった。
欄外に《 北海タイムス原稿用紙 》と印刷❹してある。この原稿用紙を使って明日から記事を書くことになるのだ——まわりに悟られないように字詰めを数えると、なるほど新聞と同じ十三字詰めになっていた。鼓動が早まるのを抑えながらテーブルの上の料理の皿をずらして紙を置き、必要事項を書いていった。
《 野々村巡洋(ののむらじゅんよう)
二十三歳
神奈川県出身
早稲田大学教育学部教育学科心理学専修
札幌市中央区北五条西五丁目
センチュリーロイヤルホテル札幌
712号室 》
ここまで書いて、手を止めた。



❶ザラ紙
小説の設定は1990(平成2)年。
ほとんどの新聞社ではCTS(コンピューター組み版編集)に切り替わっていたから、「ザラ紙」は活版時代のものか、パートCTS入力用(*)かもしれない。
小説を読んだ限りではザラ紙のサイズが不明だけど、たぶんB5判ぐらいではないだろーか。
B5より小さいサイズのザラ紙用紙を用意していた新聞社もあった。
*パートCTS=記者がパソコンで書いた記事をそのまま送稿するのではなく、手書き原稿を漢テレ(入力センター)で打ち直してからコンピューターに入れること。

❷青いサインペンで
社会部長は、外出時にもザラ紙原稿用紙と(出稿部を示す)青サインペンは持ち歩いているようだ。
このサインペン——出稿部と整理部記者が気をつけないといけないのは、キャップをちゃんと閉めてからシャツのポケットにさすこと(←子どもみたいだね)。
整理部はドタバタしているから、赤サインペンのキャップを閉めずにシャツポケットに入れてしまい、胸もとを真っ赤な血だらけ状態にしてしまったことが何回あったでしょう!(あのインク、落ちないんですよね)

❸ひっくり返すと裏は枡目のある原稿用紙
新聞用字用語集「記者ハンドブック」では
ます(△枡、△枡)→升、升酒、升席、升目
表記統一しましょうとあるけど、著作物なのでかまいません(←毎度毎度エラそうだな)。

ということはさておき、
北海タイムスの原稿用紙の「枡目」は何色だったのかは不明。
ファクス送稿に対応していたはずだから、だいたい薄いブルーかグレーだったのでは。赤、黒、銀色・金色を使っていた新聞社はなかったはず(淡いピンクの原稿用紙は見た )。

❹欄外に《 北海タイムス原稿用紙 》と印刷
ザラ紙原稿用紙のサイズがB5判だったとすると、左下に小さく印刷されていた。
ただ、野々村くんは
「この原稿用紙を使って明日から記事を書くことになるんだ」
と高揚感を持っているので、北海タイムス紙は手書き入稿だったことが分かる。

———というわけで、続く。

★「北海タイムス物語」を読む ⑳

2015年12月22日 | 新聞

( きのう12月21日付の続きです。写真は本文と関係ありません )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語社会人編ともいえる同小説に注目した——の第20回。


「おまえは組合の委員長経験者だから❶そんなことを言うんだろ」
コップ酒を持つ町村さんの手は震えていた。
「そういうことじゃない。俺はもう管理職で町村さんと同じように組合員じゃないんだ。
町村さんはいま労務担当重役も兼任してるからまた少し立場が違うかもしれない。でも町村さんだってもともと新聞記者じゃないか。
いいですか、俺たちは組合員とか管理職とか関係なく、みんなジャーナリストなんだ。テロルを許すやつなんていない。
会社を倒産に❷追い込もうなんて考えるはずがない。違いますか」
「だけど萬田、今回ばかりは——」
「待ってください町村さん。こいつら新人にはまだ荷が重い話だ。今日は歓迎会だし、この話はもうやめましょう。
明日、町村さんと一緒に俺も膝詰めで組合の連中と話します❸から。ねえ」
黙って萬田編集局次長の顔を見ていた町村総務局長が、コップの日本酒に眼を落とした。そしてしばらくコップを揺らし、肯いた。
新入社員たちは青い顔で趨勢❹を見守っていた。
萬田さんがじろりと僕を見た。そして意味ありげに眼鏡を小指で上げ、じっと僕の眼を見ている。
あまりの眼力に軽く会釈したが、それでも眼をそらさない。僕が砂のバケツを置いたとでも思っているのだろうか。
僕は今日来たばかりなんだぞ。



❶組合の委員長経験者
なぜか、組合委員長や書記長などに就いた人は、出世が早いようだ。
整理部先輩に聞いたら、
「大きな声では言えないけど、社のエラいさんたちと会う機会があるから名前を覚えられるし、いろいろコッチの仕事ぶりが分かるんじゃね( ⤴︎語尾上げ)」
だった。
さもありなん。

❷会社を倒産に
小説の設定は1990(平成2)年。いよいよバブル崩壊。
この後、同紙は急速に経営が悪化、98年には消滅する(慢性的な赤字経営だったから、そろそろ一部経営陣は察知していたかもしれないけど……)。

❸明日、町村さんと……話しますから
町村総務局長とともに萬田編集局次長が、組合側と「砂バケツ」事件を含めて労使問題を話し合う、ということ。
しかし「砂バケツ」というのは、新聞社にとって尋常ならざる事態である。ナニがあったのだろう。

❹趨勢
新聞用字用語集「記者ハンドブック」では
すうせい(△趨勢)→大勢、動向、成り行き
に書き換えられたらどうでしょうか?とあるけど、著作物なのでかまいません(←エラそーだな)。

———というわけで、続く。

★「北海タイムス物語」を読む ⑲

2015年12月21日 | 新聞

( 12月19日付の続きです。写真は本文と関係ありません )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語社会人編ともいえる同小説に注目した——の第⑲回。
*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=(北大中退後)北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


( 小説新潮2015年11月号285ページから )
道警キャップの佐藤次郎記者が袖をまくりながら僕たちを見た。
輪転機ってのが地下にあるんだ。新聞を刷るでっかい印刷機❶な。それこそ建物でいえば三階建てくらいある巨大なものだ。だからうちも地上八階だけど地下に四階あるから本来なら十二階建ての建物なんだ。
どの社でもそうだけど、新聞社の建物っていうのは氷山みたいになってて、表から見えない地下の輪転機を入れたらめちゃくちゃでかい。その輪転機に砂を撒いたら新聞が刷れなくなっちまうんだよ。
潤滑油のグリースがべっとりの歯車がいっぱいあって、そこに砂がつくと、歯車が砂を嚙んでぶっ壊れちまう。印刷面のインクにも砂がついて機械がぜんぶ吹っ飛んじゃうんだ」
町村総務局長が肯いた❷。
「そう。だから砂を撒かれたら、それ一発で倒産だ。全国紙なら本社がいくつかあるから一つの輪転機がやられても、他の地方の本社の輪転機を使って刷り❸、遅れてもいいから人海戦術のトラック輸送で昼頃にはすべての朝刊を届ける作戦も奏功するかもしれない。
輪転機の砂をすべて落とすのに一週間かかると言われている❹けど、そうやって他本社の輪転機を使って一週間をしのぎ、そのあいだに直せばな。
うちも札幌本社のほかに旭川本社でも刷ってるけど、あっちの輪転機は小さくて札幌に比べたらおもちゃみたいなもんだから、とてもすべてをまかなえない。
だから札幌で砂を撒かれた段階で倒産決定だ」
「それだけで倒産ですか?」
新人が聞くと、町村総務局長の顔がみるみる赤くなった。



❶輪転機ってのが……印刷機
新聞社が印刷工場を備えていたころ、輪転機を入れた地下工場は巨大な空間だった。
小説は平成2年(1990年)に設定されているから、最新鋭オフセット輪転に切り替わっていたはず。
「建物三階くらい」とあるから、高さが必要な縦型オフセット高速輪転機なのだろう。

❷肯いた
新聞用字用語集「記者ハンドブック」では、
うなずく( △頷く )→うなずく
ひらがな表記にしましょうとあるけど、著作物なのでかまいません(←エラそうだな)。

❸全国紙なら本社が……輪転機を使って刷り
現在は印刷センターを分散し、サテライト印刷にしているけど、不測の事態の場合、やはり輸送・配送がお手上げだと思う。

❹輪転機の砂をすべて落とすのに一週間かかると言われている
この「砂をすべて落とすのに一週間」という具体的な数字が出てきたのにはビックリした。
町村総務局長は機械メーカーか、どこかの新聞社から聞いたのだろうか。

———というわけで、続く。