降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★共同ピーポが鳴り響く=「北海タイムス物語」を読む (93)

2016年05月02日 | 新聞

(4月30日付の続きです。写真は本文と関係ありません )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第93回。
(小説の時代設定や登場人物のほか、新聞編集でつかう「倍数」「CTS」などの用語は随時繰り返して説明します)

【 小説新潮2015年12月号=連載③ 370ページから 】
松田さんや秋馬さんも大きな机に制作局の人と向かい合って立ち、指示しながらハサミで何かを切っていた。
二面の再校大刷り、校閲の分が足りない❶ぞ!」
一面の道庁の記事、急いで❷くれ!」
あちこちから大声が上がっている。
天井のスピーカーはピコピコという電子音とともに原稿うんぬんという報せ❸のようなことをしゃべり続けている。
「おい。これ、ハサミで切れ」
権藤さんから分厚い紙に印字された見出しとハサミを渡された。
「ほら早く。急げ。清水さん、左から八行開けてここからここまで二段四行塞いで、表罫で三段ヤマ」
「はいよ」
清水さんと呼ばれた制作の人が権藤さんの言葉に答えては、置いていく。


❶二面の再校……足りない
小説の中、2面の整理担当者(面担=めんたん)は秋馬くん。
13:30に大組みを始め、すでに組み上げて初稿直しを反映させたようだ。
早いぞ。
再校は校閲や整理直しを処理したもので、再チェック後このまま降版できる。
いいぞ。
「足りない」は、再校分の大刷りコピー紙が無い、の意味。
校閲さんのOKが出ないと降版できないから、早く渡そうね。
小説を読むかぎり、当時(1990年)の北タイ紙には庶務サンと呼ばれた学生バイトくんはいないようだ。

❷一面の道庁の記事、急いでくれ
「急いでくれ」——おそらく制作局の大組み者(大貼り担当者)が、1面担当の校閲さんに向かって
「チェックを急いでくれ」
と言ったのではないか。
新入社員の面担・松田くんならデスマス体になると思うので。

❸天井のスピーカー……原稿うんぬんという報せ
夕刊の降版時間が迫る13:55ごろ。
「天井のスピーカー」は共同通信配信ニュースで、
〈 ピーポ~ピーポ~ピーポ~、共同通信から編集参考です。藤森宮内庁長官は午前11時……ピ~ピーポ!〉
という感じかな。
当時の北タイ紙は共同加盟社で5階の編集局、4階の制作局にそれぞれスピーカーを設置していたことが読み取れる。

————というわけで、続く。