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★伊織さん最後の長編を再再読。

2016年05月24日 | 新聞/小説


9年前の2007年5月17日、作家・藤原伊織さんが亡くなった。享年59。
だから『名残り火/てのひらの闇2』(文春文庫=写真)を再再再読した。
男として矜持を持つサラリーマンたちのハードボイルド、藤原エンターテインメントの最後の長編。
巻末の、逢坂剛さん(72)解説「いおりんの名残り火」がいい。


「いおりんの、直木賞受賞の二次会パーティでは、二人で業界漫才を演じた。
事前に打ち合わせをしたわけではなく、祝辞の順番が回ってきたわたしがいおりんを呼び上げ、即席でやったのだ。
二人とも酔っていたから、何を話したかもう覚えていないが、大受けに受けたことだけは確かだ。」

(同文庫 447~448ページから)


伊織さんは、それほどアルコールには強くなかった。
電通築地本社時代、近くの店で酔いつぶれてしまった伊織さんを、
「何回も広報室まで連れて帰ったんだよぉ~、細いのに重いんだよぉ~」
と聞いたから、飲むことがお好きだったのだろう。
直木賞受賞2次会後のバーで、選考委員だった阿刀田高さんに向かって、ぐでんぐでんになった伊織さんが、
「……なぁ、おっさん」
と言い、周囲の編集者や作家たちが引きつったともいう。
伊織さんが一番お元気だったころか。

電通広報室(当時)勤務時代の1995年、『テロリストのパラソル』で江戸川乱歩賞と直木賞(1996年)を受賞。
そのころ「電通報」の記事を書いていらっしゃったから、伊織さん作品リストには〝未収録〟があるのかもしれない。
(電通報だからフロント1面のマス倫懇やマーケティング記事。同紙コラムものも担当されていた、と聞いた)
ご存命なら、今ごろは乱歩賞や直木賞の選考委員をされていた、と思う。
*藤原伊織さん未完小説がある
野性時代2006年3月号から5月号まで連載された「異邦の声」。
超能力を持つ今村麻耶と、30歳保育士・高瀬八郎のSFサスペンス的な設定で、なんとなく『蚊トンボ白髭の冒険』(2002年講談社刊)に似ている。


そして、9年前の青山葬儀所――。
伊織さんを乗せた車に深々とお辞儀をされて、最後まで見送っていらっしゃったのは小池真理子、藤田宜永さん夫妻だった。
疲れきったような藤田さんのサングラスの下に光るものが流れていたことが忘れられない。