降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★とにかくノーズロ=『平成紀』を読む(20)

2016年09月30日 | 新聞/小説

(9月29日付の続きです)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第20回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。
青山さんの等身大キャラ、35歳
▽常石功(つねいし・いさお)=別の通信社の政治部記者
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ。岩手県花巻生まれ
▽赤錆(あかさび)さん=崩御に関して政府が動くマニュアルを司る実務責任者と評される高官
▽中曽根康弘(なかそね・やすひろ、1918〜)=第73代総理大臣。この小説では第3次内閣(1986年7月〜87年11月)


【幻冬舎文庫『平成紀』105〜106ページから】
赤錆はグラスをあっという間に空けながら「あなたは結局、ことし何回ほど来たかなぁ」と楠に聞いた。
テーブルの横に立つ、懐かしい白いエプロン姿の夫人が指を折り「えぇとね、たぶん八十回は超えてる」と代わって答えた。
楠は「迷惑」という言葉が頭に浮かんで首をすくめたが、夫人はいつものようにありのままの柔らかな表情でいる。
「せっかく来てくれても、私は何も言いませんでしたからねぇ。あなたは会社で困ったことになってませんか」
楠は微笑を返した。
楠の情報メモによって、元寇デスクの手元の「Xデイ・Yデイ・マニュアル」と題したファイル❶は大部
(たいぶ)のものになっていた。
楠の質問に、赤錆はいつも「個人的推測ですがね、推測であってもオフレコですがね」と断りながら、ほぼ全てに答えてくれた。
その答えを積み上げていく作業のなかに膨大なマニュアルが全容を現しつつある。
質問の項目は「元寇メモ」❷に従っている。
だが一つ一つ、いまの憲法と明治憲法を比較し、さらに維新以前の時代にはどうであったかまでを比べたうえで自分の意見をつくり、それをぶつけていた。
質問ではなく、意見を述べるというスタイルは崩していない。実際は、巧妙な質問である。



❶「Xデイ・Yデイ・マニュアル」と題したファイル
Xデイは新聞表記なら「Xデー」と記すが、文庫巻末の
「作者の日本語に対する愛情と信念に基づき、同じ言葉でも漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字を場面によって自在に使い分けます。あえて統一しません。一般の校正基準とは異なります。(青山繁晴 拝)」
の〝お断り〟を踏まえてのことか。

【同時期@新聞社では】
Xデー対応で編集局出稿部・整理部・校閲部、広告局、制作局との会議が何回も行われた。
とりあえず決まったのは、
「広告ゼロ!ノーズロ!」
「全15段オール記事!」
「整理部がんばれ!」
建てページ数などは、
「共同通信や他社と打ち合わせ、後日!」
ということだった。
*ノーズロ
紙面に広告が無いこと。
下にナニも穿いていない、という意味か。
段広告が無くてもツキダシ、キジナカ、マメ広告は入ることがあるので、広告出稿表を確認しましょうね。


❷質問の項目は「元寇メモ」
当然、新聞社自社でも出稿したが、共同通信からの皇室用語、大喪日程、皇室の各種行事メモ、年表、グラフィックス、写真などは、かなり詳細なデータだった。
(差し替えが何回もあったけどねwww)

❸質問ではなく、意見を述べるというスタイルは崩していない。実際は、巧妙な質問である
「◯◯◯◯についてお尋ねします。
私は◯◯◯◯と考えますが、どうなんでしょう?」
これ、とても大事ですよね。
日々の生活にも活かせますよね。

というわけで、続く。
———————————————————————————
▼1988=昭和63年参考データ
▽2月10日=「ドラゴンクエストⅢ」発売。初日で100万本完売
▽3月17日=東京ドーム落成
▽7月6日=リクルート江副浩正会長、未公開コスモス株譲渡で辞任
▽9月19日=天皇が吐血・下血し容体急変
▽9月24日=ソウル五輪でベン・ジョンソンの金メダル剥奪。
鈴木大地さんが100m背泳ぎで金メダル
▽11月17日=東京外為1㌦121円52銭の戦後最高値更新
▽12月5日=天皇の最大血圧が40台まで落ち「極めて危険なご容体」に

▼1989=昭和64=平成元年参考データ
▽1月2日=天皇は体内出血があり、計1,400ccの輸血を受けた。
前年9月吐血以来の輸血総量は30,865ccに

▽1月4日=大発会で東証平均が 30,243円66銭の最高値更新。
米海軍機が地中海上空でリビア軍機2機撃墜。
▽1月5日=天皇、最大血圧が60に降下。
輸血を受けるも回復遅く、尿毒症の症状
▽1月7日=午前6時33分、十二指腸部の腺がんのため、昭和天皇87歳で崩御。
皇太子明仁親王が即位。
翌8日施行の新元号を「平成」と発表
▽1月8日=竹下首相を委員長に大喪の礼委員会設置
▽2月24日=大喪の礼。
164カ国の代表・使節参列

▽4月1日=消費税3%スタート
▽4月26日=民主化を求めて天安門広場に集結していた学生市民を、中国戒厳部隊が武力制圧
▽6月3日=歌手・美空ひばりさん死去。52歳
▽11月4日=横浜の坂本堤弁護士一家3人が行方不明に
▽11月9日=「ベルリンの壁」崩壊
▽12月29日=東証平均株価 38,915円の史上最高値

★ヒヤヒヤの別刷り=『平成紀』を読む(19)

2016年09月29日 | 新聞/小説

(9月27日付の続きです。写真は本文と関係ありません)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第19回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。
青山さんの等身大キャラ、35歳
▽常石功(つねいし・いさお)=別の通信社の政治部記者
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ。岩手県花巻生まれ
▽赤錆(あかさび)さん=崩御に関して政府が動くマニュアルを司る実務責任者と評される高官
▽中曽根康弘(なかそね・やすひろ、1918〜)=第73代総理大臣。この小説では第3次内閣(1986年7月〜87年11月)


【幻冬舎文庫『平成紀』104〜105ページから】
西暦一九八八年、昭和六十三年の元旦❶を楠は赤錆の官舎で迎えた。
大晦日の夕刻六時すぎに玄関先に立ち「ことしは九月二十八日から、ほんとうに毎日のようにお訪ねして、ご迷惑をおかけしました」と頭を深く下げた。そのまま辞去するつもりだった。
赤錆はポロシャツの長袖をまくり、額に汗を浮かべていた。「ええ、ええ」と言った。
楠は、それを合図のように思って後ろに下がった。もう一度頭を下げ、体を回してドアに手を掛けたとき、赤錆は「いや、ほんとにあなたは」と言った。
振り向くと、「あの長い政局のあいだもほぼ毎晩、それも約束通り十二時十五分に来ました❷ね」と言って「まぁ、あがんなさい。ちょうど大掃除も終わったところですよ。どうせ、あなたのことだ、時間をいろいろ考えて、いま来たんでしょう」と微笑した。
いつもの応接間ではなく、初めて台所へ案内された。
応接間に比べてキッチンはおかしいほど狭い。これが昔の造りなのかなと楠は思った。
そこに置かれた小さなテーブルに、赤錆は丸く大きなワイングラスを二つ置いた。
「私の故郷の鹿児島から送ってきたんですよ」と焼酎を無造作に注ぎながら「黒麹菌❸を使っているからねぇ、甘口なんだよ」と言った。



❶西暦一九八八年、昭和六十三年の元旦
新聞社編集局出稿部、整理部、広告局、印刷局ともヒヤヒヤの、年明け元日。
前年1987(昭和62)年後半からの、一連のご病気報道で、
「不測の事態、元日付別刷りは……」
「不測に備え、紙面がメデタイメデタイでいいのか……」
各社ともいろいろ探りを入れあった(さらに、1989年元日号も……)。
*正月別刷り(べつずり)
元日付の新聞に挟み込まれる第2〜6部ぐらいまでの〝付録〟。
本紙32ページと合わせると、元日号総ページ数は100ページを超えることも。
(紙の無駄じゃ! ラテ以外不要じゃ!
正月から誰が100ページも読むのじゃ!
という声が無きにしもあらずだけど)
組みは外注に出すことが多くなったが、整理部では正月版チームをつくり12月初旬から対応していく。

*元旦(がんたん)
おっとぉ〜と、新聞社校閲部がチェックする語。
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」(株式会社共同通信社発行)では、
▽がんたん
元旦は元日の朝のこと。元旦の朝・昼・夜としない
——としている。
新聞社校閲部の、初歩の初歩的チェック語。


❷あの長い政局のあいだ……十二時十五分に来ました
中曽根政権から後継・竹下登総理(1924〜2000)が決まるまでの期間、深夜0時15分に赤錆高官の官舎に通った楠記者。
この几帳面さ(➡︎小説を読むと、時間にとても正確だったようだ)が、Xデーと天皇報道への信頼関係に繋がったのだろう。
………見習いたい。

❸黒麹菌
画数の多い漢字は、校閲部のアラームが鳴る(笑)。
あっ、麹(新聞表記で)つかえたっけ?
「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」では平仮名に、としている。
こうじ
(麹、糀=いずれも漢字表にない字)➡︎こうじ、こうじ菌、米こうじ
——地名「麹町」があるんだから漢字つかえそうな気がするんだけど。

というわけで、続く。
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▼1988=昭和63年参考データ
▽2月10日=「ドラゴンクエストⅢ」発売。初日で100万本完売
▽3月17日=東京ドーム落成
▽7月6日=リクルート江副浩正会長、未公開コスモス株譲渡で辞任
▽9月19日=天皇が吐血・下血し容体急変
▽9月24日=ソウル五輪でベン・ジョンソンの金メダル剥奪。
鈴木大地さんが100m背泳ぎで金メダル
▽11月17日=東京外為1㌦121円52銭の戦後最高値更新
▽12月5日=天皇の最大血圧が40台まで落ち「極めて危険なご容体」に

▼1989=昭和64=平成元年参考データ
▽1月2日=天皇は体内出血があり、計1,400ccの輸血を受けた。
前年9月吐血以来の輸血総量は30,865ccに

▽1月4日=大発会で東証平均が 30,243円66銭の最高値更新。
米海軍機が地中海上空でリビア軍機2機撃墜。
▽1月5日=天皇、最大血圧が60に降下。
輸血を受けるも回復遅く、尿毒症の症状
▽1月7日=午前6時33分、十二指腸部の腺がんのため、昭和天皇87歳で崩御。
皇太子明仁親王が即位。
翌8日施行の新元号を「平成」と発表
▽1月8日=竹下首相を委員長に大喪の礼委員会設置
▽2月24日=大喪の礼。
164カ国の代表・使節参列

▽4月1日=消費税3%スタート
▽4月26日=民主化を求めて天安門広場に集結していた学生市民を、中国戒厳部隊が武力制圧
▽6月3日=歌手・美空ひばりさん死去。52歳
▽11月4日=横浜の坂本堤弁護士一家3人が行方不明に
▽11月9日=「ベルリンの壁」崩壊
▽12月29日=東証平均株価 38,915円の史上最高値

★「天皇シフト」だ=『平成紀』を読む(18)

2016年09月27日 | 新聞/小説

(9月25日付の続きです。写真は本文と関係ありません)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第18回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。
青山さんの等身大キャラ、35歳
▽常石功(つねいし・いさお)=別の通信社の政治部記者
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ。岩手県花巻生まれ
▽赤錆(あかさび)さん=崩御に関して政府が動くマニュアルを司る実務責任者と評される高官
▽中曽根康弘(なかそね・やすひろ、1918〜)=第73代総理大臣。この小説では第3次内閣(1986年7月〜87年11月)


【幻冬舎文庫『平成紀』103〜104ページから】
新しい内閣❶を迎えて、楠の通信社は羽島次郎専務が編集担当副社長、通称ヘンタンに昇格した。
羽島は政治部出身であり、政局「勝利」の論功行賞であることは明らか❷だ。天皇報道が終われば、政治部長の本郷峻も昇任するだろうと噂されている。
本郷部長は記者のクラブ配置を一新したが、官邸の吉野キャップと楠記者は動かさなかった。
もう一人、衆院と参院の事務当局に食い込んでいるベテランの久我伸夫記者も留任させた。
天皇陛下の崩御があったとき国会にも連絡が来る。元寇デスクは本社九階に住み、久我記者は「オペラ座の怪人」のように国会議事堂のいずこかに住んでいるという噂が政治部員の酒の肴❸になっていた。
いずれも「天皇シフト」であると羽島ヘンタンは公言した。
羽島は、社長から「天皇報道の総括責任者」を命じられている。
西暦一九八八年、昭和六十三年の元旦を楠は赤錆の官舎で迎えた。


❶新しい内閣
1987(昭和62)年10月21日未明に決まった竹下登内閣。
共同通信は一貫して「次期総理=竹下」と報じてきたから面目躍如か。
ちなみに「竹下総理」を第一報したのは、楠(=青山さん)記者。

❷羽島は政治部出身……論功行賞であることは明らか
共同通信社トップ争いで、本郷部長率いる政治部が一歩リード!という感じ。
この後、天皇報道をめぐり、早くからチームを組んでいた政治部と、皇室担当の同社社会部は一触即発の関係になる。
派閥・社内抗争は、けっこういいネタを摑む場合もあるので、なんとも言えません。

❸酒の肴
「噂」も「肴」も、新聞記事表記ではつかえない漢字。
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」(株式会社共同通信社発行)では平仮名にしてね、としている。
▽うわさ
(噂=漢字表にない字)➡︎うわさ
▽さかな
➡︎魚
➡︎(肴=漢字表にない字)[つまみ、酒席の話題]彼をさかなにして飲む、酒のさかな

……なんだか味気ないというか、読みにくい気がする(共同ハンドブックとは別に、独自につかえる字としている新聞社もあります)。

というわけで、続く。
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▼1988=昭和63年参考データ
▽2月10日=「ドラゴンクエストⅢ」発売。初日で100万本完売
▽3月17日=東京ドーム落成
▽7月6日=リクルート江副浩正会長、未公開コスモス株譲渡で辞任
▽9月19日=天皇が吐血・下血し容体急変
▽9月24日=ソウル五輪でベン・ジョンソンの金メダル剥奪。
鈴木大地さんが100m背泳ぎで金メダル
▽11月17日=東京外為1㌦121円52銭の戦後最高値更新
▽12月5日=天皇の最大血圧が40台まで落ち「極めて危険なご容体」に

▼1989=昭和64=平成元年参考データ
▽1月2日=天皇は体内出血があり、計1,400ccの輸血を受けた。
前年9月吐血以来の輸血総量は30,865ccに

▽1月4日=大発会で東証平均が 30,243円66銭の最高値更新。
米海軍機が地中海上空でリビア軍機2機撃墜。
▽1月5日=天皇、最大血圧が60に降下。
輸血を受けるも回復遅く、尿毒症の症状
▽1月7日=午前6時33分、十二指腸部の腺がんのため、昭和天皇87歳で崩御。
皇太子明仁親王が即位。
翌8日施行の新元号を「平成」と発表
▽1月8日=竹下首相を委員長に大喪の礼委員会設置
▽2月24日=大喪の礼。
164カ国の代表・使節参列

▽4月1日=消費税3%スタート
▽4月26日=民主化を求めて天安門広場に集結していた学生市民を、中国戒厳部隊が武力制圧
▽6月3日=歌手・美空ひばりさん死去。52歳
▽11月4日=横浜の坂本堤弁護士一家3人が行方不明に
▽11月9日=「ベルリンの壁」崩壊
▽12月29日=東証平均株価 38,915円の史上最高値

★シン・ゴジラここを通過した=初秋の鎌倉編❸

2016年09月26日 | 新聞/小説
©️東宝

(9月24日付の続きです)
シリーズ第29作目の映画「シン・ゴジラ」(東宝、庵野秀明総監督)。
あの巨大な尾が振り回される映像には、息を飲んだ。

再び、鎌倉に来た。
北鎌倉に住む未亡人……ではなく知人は
「進化したシン・ゴジラは相模湾→稲村ケ崎沖で姿を見せ、由比ケ浜海岸から上陸、東京に向かったのよ」
「このJR鎌倉駅周辺を通って横須賀線に沿って北上したのよ」
「大仏さん(13㍍)より大きな、全長118.5㍍よ」
と言っていたので、ロケ地(と思われるところ)に連れていってもらった。
*紛らわしい地名
由比ケ浜だっけ?由比ガ浜だっけ?——新聞社校閲部の人は必ずチェックする。
「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」の【紛らわしい地名】項では、
🅰由比ケ浜=海岸名、私鉄の駅名
🅱由比ガ浜=住所表示、海水浴場名
さらに、
🅰七里ケ浜=海岸名、私鉄の駅名
🅱七里ガ浜=住所表示
使い分けが本当に紛らわしい……。


シン・ゴジラの長い尾を見上げる交差点は、JR鎌倉駅西口の御成通りあたりか=写真下
ロケ地と知られているのか、ポケGOなのか、大勢の人たちがスマホ片手にいた。
(映画では、ゴジラが進む方向に商店街の人たちが逃げていくけど、逆の海側に逃げるべきでは?笑)

巨大化したシン・ゴジラ上陸の街・鎌倉——新しい観光資源。
「シン・ゴジラ上陸@鎌倉マップ」をつくって、観光案内所に置いてくれませんか?

★その号外を見たいなぁ=『平成紀』を読む(17)

2016年09月25日 | 新聞/小説

(9月21日付の続きです。写真はイメージです)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第17回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。
青山さんの等身大キャラ、35歳
▽常石功(つねいし・いさお)=別の通信社の政治部記者
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ。岩手県花巻生まれ
▽赤錆(あかさび)さん=崩御に関して政府が動くマニュアルを司る実務責任者と評される高官
▽中曽根康弘(なかそね・やすひろ、1918〜)=第73代総理大臣。この小説では第3次内閣(1986年7月〜87年11月)


【幻冬舎文庫『平成紀』79〜80ページから】
新しい総理はいったい誰なのか、報道は分裂し始めた。
楠の通信社は「中曽根総理の意中は、竹下候補か」という記事を新聞社と放送局に配信した。推測にとどめた記事であったが、総理が自由裁量を握っているなかでは冒険だ。他社の記者は「会談時間が倍だからといって、そんな記事を出していいの」と皮肉った。
十月十九日の朝、他社から一斉に❶安倍元外相を最有力と見なす記事が、奔流のように流れ始めた。
中曽根総理と親しい東北の実業家が「白紙一任してくれればあんたを指名すると中曽根総理は言っている」と安倍さんに伝えた。安堵した安倍さんが記者団に「白紙一任するよ」と漏らした。
それだけが、この洪水の水源である。
常石の通信社は狂い水の先頭を突っ走って「新総理は安倍」とほぼ決め打ちする記事❷を流し、それを信じて号外を発行する新聞社まで現れた❸。
楠の通信社には「なぜ安倍晋太郎で打たないか」と怒気を発する問い合わせが新聞社、放送局から殺到した。政局担当デスクは頑として記事を変えなかった。
「竹下に決まる」という原稿もついに出せなかったが、「竹下元蔵相が依然、有力」という出稿を続けた。



❶十月十九日の朝、他社から一斉に
小説の時間は、1987(昭和62)年10月。
同7日、天皇は宮内庁病院を退院、吹上御所2階の静養室に戻られていた。
同19日、中曽根後継➡︎安倍最有力記事が「他社から」出たというが、この「他社」は後述から時事通信と読める。

❷常石の通信社は……決め打ちする記事
▽共同通信➡︎竹下氏有力
▽時事通信➡︎安倍氏有力
結局、後継は「竹下氏」に決まるのだけど、この1987年当時、共同通信と時事通信から配信を受けていた新聞社はどのくらいあったのだろう。
それぞれの新聞社政治部も独自に取材していたはずだから、安倍氏からの「白紙一任するよ」一言だけで、
〝新総理当確◎安倍晋太郎〟
と打つのはかなり危ない気がするが、観測気球、権謀術数、深慮遠謀、その他もろもろ思惑絡みだったのかもしれない。
「狂い水」とは、青山さんらしい表現。

❸それを信じて号外を発行する新聞社まで現れた
山陰地方の新聞だったのだろうか。
その号外を見たいなぁ……。
当時はCTS(コンピューター組み版・編集)に切り替わっていたかもしれないけど、組み・印刷(1000〜2000部)・配布を考えると、かなりの持ち出しになったのではないだろうか。
*CTS(コンピューター組み版・編集)
シー・ティー・エス。Computerised Type-setting System。
日本で初めて鉛活字を使わずコンピューターで新聞編集・印刷をしたのは、1978(昭和53)年にスタートした日経新聞東京本社のアネックス。
続いて、1980(同55)年の朝日新聞東京本社のネルソン(いずれも初期システム名)。
両社とも米IBM本社、日本IBMがソフトづくりや技術協力をしている。


というわけで、続く。
———————————————————————————
▼1988=昭和63年参考データ
▽2月10日=「ドラゴンクエストⅢ」発売。初日で100万本完売
▽3月17日=東京ドーム落成
▽7月6日=リクルート江副浩正会長、未公開コスモス株譲渡で辞任
▽9月19日=天皇が吐血・下血し容体急変
▽9月24日=ソウル五輪でベン・ジョンソンの金メダル剥奪。
鈴木大地さんが100m背泳ぎで金メダル
▽11月17日=東京外為1㌦121円52銭の戦後最高値更新
▽12月5日=天皇の最大血圧が40台まで落ち「極めて危険なご容体」に

▼1989=昭和64=平成元年参考データ
▽1月2日=天皇は体内出血があり、計1,400ccの輸血を受けた。
前年9月吐血以来の輸血総量は30,865ccに

▽1月4日=大発会で東証平均が 30,243円66銭の最高値更新。
米海軍機が地中海上空でリビア軍機2機撃墜。
▽1月5日=天皇、最大血圧が60に降下。
輸血を受けるも回復遅く、尿毒症の症状
▽1月7日=午前6時33分、十二指腸部の腺がんのため、昭和天皇87歳で崩御。
皇太子明仁親王が即位。
翌8日施行の新元号を「平成」と発表
▽1月8日=竹下首相を委員長に大喪の礼委員会設置
▽2月24日=大喪の礼。
164カ国の代表・使節参列

▽4月1日=消費税3%スタート
▽4月26日=民主化を求めて天安門広場に集結していた学生市民を、中国戒厳部隊が武力制圧
▽6月3日=歌手・美空ひばりさん死去。52歳
▽11月4日=横浜の坂本堤弁護士一家3人が行方不明に
▽11月9日=「ベルリンの壁」崩壊
▽12月29日=東証平均株価 38,915円の史上最高値

★神奈川新聞は 120円だった=初秋の鎌倉編❷止

2016年09月24日 | 新聞/小説

(9月23日付の続きです)

鎌倉に詳しい北鎌倉に住む未亡人……ではなく知人と、小川糸さんの最新小説『ツバキ文具店』(幻冬舎・税別1,400円)を訪ねたが見当たらなかった(⬅︎当たり前)。
残念だから、小説に登場している店を訪ねた。
「パラダイスアレイ」=写真

レンバイの中にあるパン屋さんに寄って、できたての餡パンをふたつ買う。レンバイの正式名称は、鎌倉市農協連即売所で、お正月の四日間以外、ほぼ年中無休で朝八時から、鎌倉近郊の農家で採れた野菜を売る市場が開かれている。
その一角にパラダイスアレイという小さいパン屋さんがあり、そこの餡パンが絶品なのだ。
丸いパンの表面に白い粉でスマイルマークが描いてあるのが、いつ見てもかわいらしい。

(『ツバキ文具店』58ページから)

未亡人……ではなく知人と買いに行ったが、
「すみませーん。本日は売り切れましたぁ」
がっくり。


「東京を離れたら地元紙を買え」——
整理部先輩(故人)の教えどおり、JR鎌倉駅東口で神奈川新聞を買った。
一部120円(月3,189円)。
朝刊紙、かなり安い。
紙面建ては、フロント1面はトップ最上段にインデックスを置き、題字下に広告→圏内天気欄→天声人語に当たるコラム「照明灯」。
このパターンはすっきりしていていいので、パクリましょうか。
1段12字組みの全12段編成で、この日はカラー6個面の全22ページだった。

中面。
スポーツ面は11字組み15段、ほかは12字12段編成。
企画特集面などホワイトスペースをとり、全体的にゆったりしたレイアウトで読みやすい感じ(朝日新聞の組み方に似ているけど、気のせい)。
スポーツ面だけ上部欄外(日付と面数が入るところ)が
「かながわスポーツ」
となっていた。ヘェ〜。
ただ、ほとんどの記事下広告が神奈川新聞社だった……。

★ツバキ文具店はなかった=初秋の鎌倉編❶

2016年09月23日 | 新聞/小説


北鎌倉に住む未亡人……ではなく知人と、初秋の鎌倉(神奈川県)を歩いた。
新宿から湘南新宿ラインで58分、古都・鎌倉って近いじゃん。

北鎌倉の未亡人……ではなく知人は鎌倉周辺に詳しいので、以前読んだ『ツバキ文具店』(小川糸さん、幻冬舎・税別1,400円)を案内してもらおうと思った。
*小川糸さん
1973年、山形県山形市生まれ。小説家、作詞家。
デビュー作『食堂かたつむり』で、2011(平成23)年イタリア・バンカレッラ賞、2013(同25)年にフランス・ウジェニーブラジエ小説賞を受賞。
その他に小説『蝶々喃々』『つるかめ助産院』『あつあつを召し上がれ』、エッセイ『ペンギンと暮らす』『たそがれビール』など多数。

*『ツバキ文具店』
2016年4月20日第1刷→同8月30日第6刷。売れている!
鎌倉で代書屋を営む雨宮鳩子の文字、手紙をめぐる四季折々のハートウォーミング物語。
「言いたかった、ありがとう。言えなかった、ごめんなさい」
「伝えられなかった大切な人への想い。あなたに代わって、お届けします」
「ラブレター、絶縁状、天国からの手紙……今日も鳩子のもとには風変わりな依頼が舞い込みます」
と同書オビコピー。
面白いのは、各編に挿し込まれた手書き文字の手紙図版(萱谷恵子さん筆)。
こんなにたくさんの美文字を操れる人がいるとは!とほれぼれした。


「ツバキ文具店」は、どこにある——。
小説内では、
▽鎌倉宮(写真)の北裏で、二階堂川沿い細い路地を入ったところ
▽歩いて数分のところに「小学校」(清泉小のことか)。
ツバキ文具店にやってくる客の多くが児童
▽上半分がガラスになっている両開きの古い扉の店。
扉左に「ツバキ」、右に「文具店」と書かれ、店舗入り口には大きな藪椿の木がある
▽同店前に、昔の赤い郵便ポスト
▽近所に「魚屋・魚福(うおふく)」
▽同店から材木座・光明寺まで徒歩約1時間ほど
*鶴岡八幡宮と鎌倉宮
「鎌倉幕府をひらいた源頼朝をまつる神社が鶴岡八幡宮なら、こちら鎌倉宮は、鎌倉幕府を終わらせた側をまつる神社である。神社の裏手には、ご神体である護良親王が幽閉されていたという土牢が今も残されており」(同書14ページから)
………へぇ、勉強になった。
地元情報がけっこう書かれているので、鎌倉ガイドブックとしても面白い一冊だった。


小説の記述をキーワードに、iPhone片手に「ツバキ文具店」を鶴岡八幡宮から鎌倉宮、二階堂川沿い、小高い山の麓を探した探した、歩いた歩いた、雨に打たれた犬に吠えられた。
…………だけど、ツバキ文具店は無かった(⬅︎当たり前、小説!)。

★毎日新聞記者だった=『平成紀』を読む(16)

2016年09月21日 | 新聞/小説

(9月20日付の続きです。写真は本文と関係ありません)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第16回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。
青山さんの等身大キャラ、35歳
▽常石功(つねいし・いさお)=別の通信社の政治部記者
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ。岩手県花巻生まれ
▽赤錆(あかさび)さん=崩御に関して政府が動くマニュアルを司る実務責任者と評される高官
▽中曽根康弘(なかそね・やすひろ、1918〜)=第73代総理大臣。この小説では第3次内閣(1986年7月〜87年11月)


【幻冬舎文庫『平成紀』70〜71ページから】
天皇陛下は十月七日、宮内庁病院を退院❶され吹上御所二階の静養室に入られた。
総理候補のうち、総理から軽井沢へゴルフに呼ばれたのは三人である。
安倍晋太郎、宮澤喜一、竹下登の三人は会談を重ね、「話し合い」で決めることができるかどうか延々と腹を探り合ったが、何の結論も出せない。
総理はこれを見て、竹下元大蔵大臣を首相官邸へ呼び四十分間、二人だけで過ごした。
竹下さんは最大派閥に属し、県議からのし上がった小柄な人である。内政には強いが「外交は浅学な私には分かりません」と公言する内向きの人とされている。
会談が終わったあと、竹下さんの顔は強張って❷青ざめていた。
翌日に総理は、残る二人をそれぞれ呼んで二十分間ずつ会談した。
安倍さんは毎日新聞の記者出身❸で外相を務めた大柄な好人物、宮澤さんは米国流の政治哲学を身につけ、額が怜悧に禿げあがった元大蔵官僚である。
総理はこの二日間の儀式で、「後継指名の全権は私にある」と最終確認させた。
新しい総理はいったい誰なのか、報道は分裂し始めた。



❶天皇陛下は十月七日、宮内庁病院を退院
小説の時間は、1987(昭和62)年10月7日。
【同時期@新聞社】編集局出稿部の「Xデー」班始動を受け、整理部も(デスクやら面担やら)同チームをつくった。
印刷局と整理部チームが具体的に作業しはじめるのは年明け(1988年)。

❷強張って
ん? この字つかえたかなぁ——新聞社校閲部の赤鉛筆がピタッと止まるところ。
こわばる
(強張る=漢字表にない音訓)➡︎こわばる
と、「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」は新聞記事での表記は平仮名表記にしてね、としている。

❸安倍さんは毎日新聞の記者出身
あまり固有名詞を表記していない小説で、なぜ「毎日新聞」と書いたのだろう。
安倍晋太郎氏が毎日新聞記者だったのは、1949(昭和24)〜1956(同31)年。
竹下登氏の孫であるDAIGO(内藤大湖)さんの父・内藤武宣氏も元毎日新聞記者。
さらに、小説作者・青山さんも大卒時、毎日新聞「内定」が出ていたという。

関係ないけど、小説を読んでいて「ん?」と感じたのは、意外に登場人物たちの分かりやすい外見記述が多いこと。
▽中曽根康弘氏➡︎長身、長い脚(37〜38ページ)
▽竹下登氏➡︎小柄な人
▽安倍晋太郎氏➡︎大柄な人
▽宮澤喜一氏➡︎額が禿げあがった人
宮澤さんだけ、なんだかなぁ……という感じ。

というわけで、続く。
———————————————————————————
▼1988=昭和63年参考データ
▽2月10日=「ドラゴンクエストⅢ」発売。初日で100万本完売
▽3月17日=東京ドーム落成
▽7月6日=リクルート江副浩正会長、未公開コスモス株譲渡で辞任
▽9月19日=天皇が吐血・下血し容体急変
▽9月24日=ソウル五輪でベン・ジョンソンの金メダル剥奪。
鈴木大地さんが100m背泳ぎで金メダル
▽11月17日=東京外為1㌦121円52銭の戦後最高値更新
▽12月5日=天皇の最大血圧が40台まで落ち「極めて危険なご容体」に

▼1989=昭和64=平成元年参考データ
▽1月2日=天皇は体内出血があり、計1,400ccの輸血を受けた。
前年9月吐血以来の輸血総量は30,865ccに

▽1月4日=大発会で東証平均が 30,243円66銭の最高値更新。
米海軍機が地中海上空でリビア軍機2機撃墜。
▽1月5日=天皇、最大血圧が60に降下。
輸血を受けるも回復遅く、尿毒症の症状
▽1月7日=午前6時33分、十二指腸部の腺がんのため、昭和天皇87歳で崩御。
皇太子明仁親王が即位。
翌8日施行の新元号を「平成」と発表
▽1月8日=竹下首相を委員長に大喪の礼委員会設置
▽2月24日=大喪の礼。
164カ国の代表・使節参列

▽4月1日=消費税3%スタート
▽4月26日=民主化を求めて天安門広場に集結していた学生市民を、中国戒厳部隊が武力制圧
▽6月3日=歌手・美空ひばりさん死去。52歳
▽11月4日=横浜の坂本堤弁護士一家3人が行方不明に
▽11月9日=「ベルリンの壁」崩壊
▽12月29日=東証平均株価 38,915円の史上最高値

★政府マニュアルを入手せよ!=『平成紀』を読む(15)

2016年09月20日 | 新聞/小説

(9月19日付の続きです。写真は本文と関係ありません)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第15回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。
青山さんの等身大キャラ、35歳
▽常石功(つねいし・いさお)=別の通信社の政治部記者
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ。岩手県花巻生まれ
▽赤錆(あかさび)さん=崩御に関して政府が動くマニュアルを司る実務責任者と評される高官
▽中曽根康弘(なかそね・やすひろ、1918〜)=第73代総理大臣。この小説では第3次内閣(1986年7月〜87年11月)


【幻冬舎文庫『平成紀』70〜71ページから】
元寇デスクから要求された取材は、大きく分けて四つある。
第一に、天皇陛下のご容態を正確に摑み❶、発表では隠される部分を全て通信社が知っているようにすること。
第二に、天皇崩御の瞬間を発表の前に、しかもどの社よりも世界へ打電、速報すること。
第三に、昭和に代わる元号は何か、考案者は誰かを新元号発表の前に「抜く」❷こと。
第四に、内閣が用意しつつあるマニュアルの全容を入手することであった。
元寇デスクがマニュアルを欲しているのは、楠が赤錆に話した理由からではない。
元寇は九階別室で鉛筆を舐め舐め「Xデイ予定稿」を毎日、書いては積み上げ、積み上げては破って捨てている。
崩御をめぐる政府の動きを事前に予測して原稿をつくり置きし、それを事前に通信社に加盟する新聞や放送局に送り、「ニュースの問屋」と自らを呼ぶ通信社として良い仕事をしていると言われたい。それが本音❸であった。
(中略)
元寇は、楠に天皇班入りを命じた翌日、「あんたにばっかり負担をかけたくないんだけどさ」て言いながら大きな三枚の紙を手渡した。右肩がひどく上がった文字で「四つのこと」の細部が、びっしりと書き込まれていた。

❶摑み
新聞社校閲部の赤鉛筆がぴたっと止まるところ。
「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」では〈漢字表にない字〉なので平仮名表記にしましょう、としている。
つかむ(摑む)
➡︎つかむ。つかみどころがない、手づかみ、わしづかみ

——平仮名にすると1文字増えちゃうから、もうそろそろ使えるようにして欲しいな、と思う整理部であった。

❷新元号発表の前に「抜く」
うーん、これは怖い。
「昭和」元号のときもそうだった(らしい)けど、一歩間違うと通信社が吹っ飛びかねない。
共同通信社から配信を受ける新聞社側も独自に取材するし、たとえ「新元号」が分かっても果たして……どうなんだろう。

❸崩御をめぐる政府の動きを……それが本音
「通信社として良い仕事をしていると思われたい」
——共同通信の意外な本音に、拍子抜け&びっくりしたところ。

なぜ「マニュアル」が必要なのか。
赤錆高官に夜討ち朝駆けした楠記者(➡︎つまり、青山さん)が直撃している。
【69〜70ページから】
赤錆の眉を寄せた厳しい表情に、微かな変化があった。何を物語る変化なのかは分からない。
「それを政府に任せきりにするわけにはいきません。国民の側のチェックが必要です」
「つまり、何ですか」
「マニュアルです」
「マニュアル。そんな便利なものはないよ」
「はい。マニュアルはないと思います。
憲法も皇室典範も、敗戦後につくった法律はすべて、天皇陛下の御代の代替わりへの準備ができていないとわたしは思います。
だから政府はたった今、法律にない具体的な手続きを補うためにマニュアルを作っているはずです」
「私は何も言えませんね」
「はい。しかし国民の意見を聴く耳はお持ちだと思います。取材でなくて結構です。
わたしがひとりの国民として考えていることを聞いてください」
半分は嘘だと、冷やりとする思いで赤錆の反応を待った。


取材対象者と記者の信頼関係を構築するシーン。

というわけで、続く。
———————————————————————————
▼1988=昭和63年参考データ
▽2月10日=「ドラゴンクエストⅢ」発売。初日で100万本完売
▽3月17日=東京ドーム落成
▽7月6日=リクルート江副浩正会長、未公開コスモス株譲渡で辞任
▽9月19日=天皇が吐血・下血し容体急変
▽9月24日=ソウル五輪でベン・ジョンソンの金メダル剥奪。
鈴木大地さんが100m背泳ぎで金メダル
▽11月17日=東京外為1㌦121円52銭の戦後最高値更新
▽12月5日=天皇の最大血圧が40台まで落ち「極めて危険なご容体」に

▼1989=昭和64=平成元年参考データ
▽1月2日=天皇は体内出血があり、計1,400ccの輸血を受けた。
前年9月吐血以来の輸血総量は30,865ccに

▽1月4日=大発会で東証平均が 30,243円66銭の最高値更新。
米海軍機が地中海上空でリビア軍機2機撃墜。
▽1月5日=天皇、最大血圧が60に降下。
輸血を受けるも回復遅く、尿毒症の症状
▽1月7日=午前6時33分、十二指腸部の腺がんのため、昭和天皇87歳で崩御。
皇太子明仁親王が即位。
翌8日施行の新元号を「平成」と発表
▽1月8日=竹下首相を委員長に大喪の礼委員会設置
▽2月24日=大喪の礼。
164カ国の代表・使節参列

▽4月1日=消費税3%スタート
▽4月26日=民主化を求めて天安門広場に集結していた学生市民を、中国戒厳部隊が武力制圧
▽6月3日=歌手・美空ひばりさん死去。52歳
▽11月4日=横浜の坂本堤弁護士一家3人が行方不明に
▽11月9日=「ベルリンの壁」崩壊
▽12月29日=東証平均株価 38,915円の史上最高値

★政治部vs社会部=『平成紀』を読む(14)

2016年09月19日 | 新聞/小説

(9月18日付の続きです。写真は本文と関係ありません)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第14回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。
青山さんの等身大キャラ、35歳
▽常石功(つねいし・いさお)=別の通信社の政治部記者
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ
▽中曽根康弘(なかそね・やすひろ、1918〜)=第73代総理大臣。この小説では第3次内閣(1986年7月〜87年11月)


【幻冬舎文庫『平成紀』58〜59ページから】
「元寇さんは下着まで洗濯屋❶に出して九階に住んでる」と吉野キャップが言った言葉は、この人らしく誇張がなかったんだと吉野の顔を見た。吉野はいつもの穏やかな表情でいる。
元寇は、前歯が二本ばかし消えている隙間に煙草を刺し❷、火をつけないまま「楠ちゃんね、あんた、総理番は今日から外れる。天皇班に入ってもらう」と、いきなり言った。腫れた歯茎が見える。
「あんたは馬力がある。社会部が腸のご病気、抜かれたの、読んだろ❸。あんたは官邸の大事な高官に食い下がってる」
そう続けてから煙草に火をつけた。
あぁ赤錆さんのことか、しかし俺は食い込んでなんかいないぞと楠は思った。
この高官は、天皇崩御、皇后崩御のとき政府はどう動くかのマニュアルをつくる実務責任者かもしれないと言われている。
現総理が官邸に入って一年ほど経ったとき「口の堅い男だ。口を鉄の蓋で塞いで赤錆が浮いてるんじゃないか」と感嘆したことが、通称の由来になっている。


❶洗濯屋
あっ、やべぇ!——新聞社校閲部は「◯◯屋」に敏感に反応する(反応しない人もいる)。
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」(株式会社共同通信社発行)の【差別語、不快用語】項の「職業」欄では、
特定の職業(職種)を見下したような表現は使わない。生活に苦労したことを「◯◯までして」と書くのは当該職業の軽視だ。
として、具体的職業・職種を挙げながら言い換え例を出している。

▽人夫➡︎作業員
▽土方・土工➡︎建設作業員、作業員
▽床屋➡︎理髪業・店、理容師
▽バーテン➡︎バーテンダー
▽サラ金➡︎消費者金融
▽町医者➡︎開業医
▽労務者➡︎◯◯作業員
▽浮浪者➡︎ホームレス、路上生活者
*「◯◯屋」の形で職業・肩書を示すのは避ける。店舗を示す「駅前のパン屋」、愛称的な「八百屋さん、魚屋さん」などは構わない。

記者ハンドブック中、この【差別語、不快用語】項は、かなり重要なので暇なときは読んでおきましょうね(⬅︎誰に言っている?)

❷元寇は、前歯が二本ばかし消えている隙間に煙草を刺し
小説の時間は、1987(昭和62)年。
共同通信社の社内で喫煙可だったことが読み取れる。
新聞社が社内禁煙にしていくのは1990年代以降。
パソコンをはじめCTS(コンピューター編集)端末が編集局内に設置されていくのにともない、全面禁煙に変わっていった。
(どっこい、ヘビースモーカー部長の部署はローカルルールで「午後8時以降は喫煙可」になることも)

❸社会部が、腸のご病気、抜かれたの、読んだろ
「、」のつかいかたがリズミカル。
「抜かれた」は、
『天皇陛下、腸のご病気/手術の可能性も』
と報じた朝日新聞1987(昭和62)年9月19日付のこと。
〝皇室取材担当の社会部が、よりによって朝日に抜かれやがった〟
と、政治部デスクが同社社会部の特オチを指摘している。
これ以降、共同通信社内で政治部vs社会部抗争がけっこう激しく始まるのである。

というわけで、続く。
———————————————————————————
▼1988=昭和63年参考データ
▽2月10日=「ドラゴンクエストⅢ」発売。初日で100万本完売
▽3月17日=東京ドーム落成
▽7月6日=リクルート江副浩正会長、未公開コスモス株譲渡で辞任
▽9月19日=天皇が吐血・下血し容体急変
▽9月24日=ソウル五輪でベン・ジョンソンの金メダル剥奪。
鈴木大地さんが100m背泳ぎで金メダル
▽11月17日=東京外為1㌦121円52銭の戦後最高値更新
▽12月5日=天皇の最大血圧が40台まで落ち「極めて危険なご容体」に

▼1989=昭和64=平成元年参考データ
▽1月2日=天皇は体内出血があり、計1,400ccの輸血を受けた。
前年9月吐血以来の輸血総量は30,865ccに

▽1月4日=大発会で東証平均が 30,243円66銭の最高値更新。
米海軍機が地中海上空でリビア軍機2機撃墜。
▽1月5日=天皇、最大血圧が60に降下。
輸血を受けるも回復遅く、尿毒症の症状
▽1月7日=午前6時33分、十二指腸部の腺がんのため、昭和天皇87歳で崩御。
皇太子明仁親王が即位。
翌8日施行の新元号を「平成」と発表
▽1月8日=竹下首相を委員長に大喪の礼委員会設置
▽2月24日=大喪の礼。
164カ国の代表・使節参列

▽4月1日=消費税3%スタート
▽4月26日=民主化を求めて天安門広場に集結していた学生市民を、中国戒厳部隊が武力制圧
▽6月3日=歌手・美空ひばりさん死去。52歳
▽11月4日=横浜の坂本堤弁護士一家3人が行方不明に
▽11月9日=「ベルリンの壁」崩壊
▽12月29日=東証平均株価 38,915円の史上最高値