降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★降版OK!=「北海タイムス物語」を読む (96)

2016年05月08日 | 新聞

(5月5日付の続きです。写真は、本文と直接関係ありません)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第96回。
(小説の時代設定や登場人物のほか、新聞編集でつかう「倍数」「CTS」などの用語は随時繰り返して説明します)

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=北大中退後、北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ報道部記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


【 小説新潮2015年12月号=連載③ 370~371ページから 】
「よし、野々村。この見出しも切れ❶。早く!」
権藤さんに渡された。僕は急いで切るが手が震える。
「鈍くせえ! 貸せ!」
権藤さんが奪い取り、自分で切って段ボールに貼っていく。社会面もどんどん空白がなくなっていく。
二面降版OK!」
「OK、二面降ろせ
❷!」
二社OK!」
「二社も降ろせ
❸!」
「一面もOK!」
「よし、一面降ろせ!」
「なんで今日はみんな遅いんだ!」
「整理、てめえらいい加減にしろ!」
「刷版がダンゴになっちまったろ!」
「社会面急げ! 共同輸送のぶんが間に合わない!」
「社会面なにやってんだ!」
「急げ! リミットだ!」
「よし、火事の原稿が来たぞ!」
「早くここに流せ!」
「社会面、早くしろ! もう七分遅れてるぞ!」



❶見出しも切れ
小説当時(1990年)の北海タイムス紙の組み版システムをおさらい——。
記事・見出し、写真・地紋、広告などの印画紙を、新聞1ページ大の台紙に貼り込む「切り貼りCTS」(貼り込んだ紙面を撮影、刷版をつくる)。
この記述の直前に
「分厚い紙に印字された見出し」
とあった。
〈分厚い紙〉は印画紙だろうか。
新聞社の製作システムによっては高精細ゲラを代用していたところもあった。
(ドット数 363のゲラ。印画紙はおカネがかかるもんね)
ハサミは時間がかかるから、整理はカッターをつかった方が早いよ、野々村くん。

*高精細ゲラ
ドット数 363で、白い普通紙に印字されたきれいなゲラ。
見出しサイズ周囲にトンボ「+」が自動的につき、貼り込むときの目安になる。
台紙に貼って撮影すると、印画紙とほとんど変わらない(見出しの明朝体フォントがやや太明朝になるぐらい)ので、緊急時やシステムダウンのときにつかうことがあった。
代用しても、読者から
「紙面の印刷が汚いじゃん!」
というクレーム……じゃなく、貴重なご意見・ご指摘はなかった。


❷二面降版……二面降ろせ
2面の面担(めんたん=紙面編集担当者)は、秋馬くん。
秋馬くん「校閲さーんっ、どう?」
校閲さん「赤字直ってる。行って!」
というやりとりがあり、秋馬くんは最終の大ゲラ(おおげら・新聞1ページ大のコピーゲラ)に赤マジックペンで
「降版OK!!!整理秋馬」
と大書したはず。
(この整理OK紙がないと降版できない)
その大ゲラを受け取り、制作デスクが再度面数・欄外日付などチェックし、
「おしっ、2面降ろせ!」
と指示した。

❸二社……二社も降ろせ
続いて2社(にしゃ・第2社会面=社会面の右ページ)面担も整理OK紙を出し、制作デスクが怒鳴った。
鉛活字をつかっていた活版時代は、組み上げた紙面をプレス機にかけて刷版をつくっていたけど、この小説の当時には組み上げた台紙に全面ガラスをかけて撮影し、刷版をつくる作業に移行していた。
(新聞社の制作システムによって異なります)
この撮影に30~40秒ほどかかるので、降版はかなり渋滞していたはず。
整理面担は降版OK紙を出せば一応(その版の責任は)終わりだけど、あとの印刷工程を考えるとそーもいかないよね。

————というわけで、続く。