降版時間だ!原稿を早goo!

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「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「北海タイムス物語」を読む ❻

2015年11月30日 | 新聞

( きのう11月29日付の続きです )

小説新潮10月号から、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されていた=写真
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスビルに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語社会人編ともいえる同小説に注目した——の第❻回。


( 小説新潮10月号 251ページから )
七階に着くと、廊下にまでマイクの大きな訓示の声が響いていた。
「うちに来るような優秀な新入社員のなかに、まさか今年が平成二年だと思ってる者はいないだろうか。昭和二十年のあの焼け跡から続く昭和六十五年、あるいは一九四五年の世界の瓦礫から続く一九九〇年だと認識してほしい。
連綿と続く歴史の只中にわれわれは生きている❶のだ。だからこそ、君たち新入社員の胸に問いたい。日本のジャーナリズムを引っ張っていく気概はあるのか!❷」
松田さんが「萬田さん、やってるなあ」と笑った。部屋に近づくにつれ、さらにその声は大きくなっていった。
松田さんがドアの前でにやにやして僕を見て、ノブを引いた。みんなが一斉に振り返って僕たちを見た。

( 中略 )
マイクの気障男は、また話を始めた。
「北の果て、この北海道で、この北海タイムスこそ、真のジャーナリズムを継承するのです。打倒道新、打倒読売、打倒朝日、打倒毎日!❸」



❶連綿と続く歴史の只中にわれわれは生きている
平成2年=1990年=昭和65年。
〝連綿と続く歴史〟ある北海タイムス紙は8年後の1998年倒産する。
廃刊カウントダウンが始まっていることになるが、多くの新入社員採用を続けている。まだ異変は感じられない。
慢性的な経営難だったとはいえ、一部の編集幹部たちは感知していたのだろーか。

❷君たち新入社員……気概はあるのか!
「日本のジャーナリズムを引っ張っていく気概」——高らかであるが、新入社員はドン引きだったはず。
入社式の場で、社員たちを鼓舞する意味合いもあるのかもしれない(僕も同じよーな訓示を聞いた覚えがあります、笑)。

❸打倒道新……毎日
北海タイムスにとって道内ライバル紙の順番は
⑴ 北海道新聞→まぁ、順当。
⑵ 読売新聞→ほぉ、そーですかぁ……。
⑶ 朝日新聞→意外だったのは当時、朝日グループのニッカンが朝日印刷工場で刷っていなかったこと。
⑷ 毎日新聞→まぁ、順当。
(日経新聞は経済専門紙だから「打倒」しなくてもいいようですね)
「打倒」が発行部数を意味するのか論調格調を意味するのか不明だけど(→たぶん部数でしょうねぇ)、
まだバブル期(1986年12月~91年2月)だから広告ガッポガッポのイケイケドンドンだったのではないだろうか。

——というわけで、続く。