降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「北海タイムス物語」を読む ❹

2015年11月26日 | 新聞

( きのう11月25日付の続きです。写真は本文と直接関係ありません )

小説新潮10月号から、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されていた。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスビルに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語社会人編ともいえる同小説に注目した——の第❹回。


( 小説新潮10月号 245ページから )
マイクの前に立つ総務局長の町村さんが腕時計を見ながら
「もう三分遅れてる。これ以上は無理だ。昨日、バケツの砂事件があって❶ばたばたしてるってのに、今日またこれだもんな。やってられんよ。だから俺は出世なんかしたくなかったんだ。現場の記者のままでいたかった❷んだ」
とぼやいた。
その瞬間、総務局の人たちが
「なにが事件ですか」「そうだそうだ」「何も起こってないのに組合問題にしてるのは会社のほうじゃないか」
と声を上げた。他の社員たちもざわつきはじめた。
「こんな場でそんなこと言うなよ」
町村総務局長が言うと、総務局の中年男が顔を赤らめた。
「こんな場で言ってるのは町村さんのほうじゃないですか!」
「わかったわかった。申し訳ない。また式が終わってから話そう」
ため息をついて、町村総務局長がこちらに向き直った。



❶バケツの砂事件があって
《 バケツの砂事件 》は、連載第1回では不明。
1960年代、とある新聞社の労使交渉が悪化し、地下の輪転機に《 砂 》がまかれた事件があったんだ、いやぁ凄えよなぁ!——と整理部大先輩から聞いたことが覚えがあるけど。

❷俺は出世なんかしたくなかったんだ。現場の記者のままでいたかった
不用意な発言だけど、町村総務局長は北海道出身の人らしく大らかで正直な人なようだ。
元記者なので〝管理側には向いていないょ俺は〟と自覚しているよう。
編集局長らがいる前でのボヤきは問題だけど、部下の「総務局の中年男」や部員らも食ってかかって詰問しているので、総務局内でもいろいろ軋轢があるのが読み取れる。局長らは、どんな顔をしていたのだろう。
大変だねぇ、町村さん…………続く。