降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★『トリダシ』の新聞社を読む (56)

2015年11月02日 | 新聞

( きのう11月1日付の続きです。写真は本文と関係ありません )

スポーツ新聞の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の新刊小説『トリダシ』(文藝春秋、本体1,750円)。
同小説は、
「四の五の言ってねぇで、とりあえずニュース出せ!」
を口癖にしている、東西スポーツ・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=推定44歳)野球部デスクが主人公の連作集。
第四話「裏取り」から、新聞社編集局や同整理部に関係する描写に注目してみた。


( 183~184ページから )
「申し訳ないが答えられません」
六階の会議室に呼ばれた鳥飼❶は表情一つ変えずに答えた。
ついにしびれを切らした露崎が、東西新聞のフロアに鳥飼を呼び出したのだった。会議室には露崎と湯上と与根、さらには社会部デスクも入った四対一。
取り調べのようにして鳥飼を囲ったが、鳥飼からは木で鼻をくくったような答えしか返ってこなかった。
「鳥飼、おまえ、記者を連日連夜、ゴーンバンクの元幹部宅に向かわせているそうじゃないか。中田が球団買収に興味があるか尋ねたんだろ」
露崎が飛ばした唾がテーブルに飛んだ。
与根たちの調べでは、今は袂を分かった起業メンバーが、中田が昔からプロ野球球団の保有に興味を示していたと証言した。
その一方で他の幹部は「買収額が五十億で収まらない限り無理」と疑問視していたらしい。
「鳥さん、同じグループじゃないですか。東西スポーツだけで独り占めは勘弁してくださいよ」
隣の与根が下手に出た
❷。
「与根、おまえだって部下を率いて仕事をしてんだろ? 部下が持ってきた話をよその人間に話すか? 話せねえだろ」

僕注=「露崎」は東西新聞編集局次長で、次期編集局長候補。社会部長時代に、鳥飼と一戦を交えて以来、鳥飼を敵視している。
「湯上」は東西新聞経済部デスク。鳥飼の記者としての力と独自の情報収集力を認めている。
「与根」は30代の東西新聞社会部記者で、子会社・東西スポーツを蔑視している)


❶六階の会議室に呼ばれた鳥飼
「一般紙が上、スポーツ紙は下」という東西新聞グループ内の歪んだ新聞ヒエラルキーが激突する、第四話「裏切り」クライマックス!
他の新聞出身作家は(ほとんど)一般紙出身だから、本城さんのような新聞グループ内の〝歪み〟は経験していないはず。
一般紙とスポーツ紙で記者活動をした本城さんならでは、の見聞が垣間見える。

「六階」は東西新聞の編集局フロア。
極秘取材で独走している鳥飼に対し、ネタ不足にあえぐ東西新聞が提携をもちかけるべく「上階」に呼びつけたようだ。
——闘え、鳥飼デスク!(←あ、興奮しちゃった www)

❷「鳥さん、同じグループ……与根が下手に出た
44歳の典型的中年として描かれている「鳥飼デスク」は、実在したSスポデスク2人の合体イメージ像という。
ここら辺の描写は、同じ社屋内で一般紙とスポーツ紙を発行している新聞社でないと、やや分かりにくいところがあるのでは。
(「上」に位置していると勘違いしている)一般紙記者は、子会社の情報を吸い上げるのは当たり前と思っているから、与根記者のような
「同じグループじゃないですか」
という発言が出てきてしまう。
さらに、30代ヒラの与根記者が目上の筆頭デスクに対して
「鳥さん」
は非礼ではないかねっ!ドンッ(←机を叩く音。あ、また興奮しちゃった www)
——さりげない記述に、本城さんの細かな表現力を感じる。