降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★『トリダシ』の新聞社を読む (61)

2015年11月18日 | 新聞

(11月16日付の続きです。写真は本文と関係ありません)

スポーツ新聞の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の新刊小説『トリダシ』(文藝春秋、本体1,750円)。
同小説は、
「四の五の言ってねぇで、とりあえずニュース出せ!」
を口癖にしている、東西スポーツ野球部デスク・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=44歳)が主人公の連作集。
第4話「裏取り」から、新聞社編集局や同整理部に関係する描写に注目してみた。


( 190ページ )
東西スポーツの逆転スクープから一カ月が過ぎた。
湯上は昼の会議が終わると、三階の東西スポーツのフロアに降りた。
野球部デスクの席で、青いウインドブレーカーを着た❷鳥飼が部下に電話をかけていた。
湯上は一度喫煙室に行き、設置されている自販機から、紙コップのコーヒーを二つ買ってから、鳥飼の元に向かった。
ブラックのコーヒーを鳥飼の前に置き、隣の空いていた席に❸座った。電話を終えた鳥飼は「なんだよ、本紙様がこんなところに」と横目で見た。
「遅くなったが、ニュースを抜かれた分の奢りだ」
騙した詫びではなく、勝負に負けた奢りだと言った。そっちの方が鳥飼は喜ぶ。
「それでこのコーヒーか。俺たちより待遇がいいのに、まったく本紙様はケチ❹だな」



❶湯上は昼の会議が……フロアに降りた
「湯上」は一般紙・東西新聞経済部デスク。
昼のデスク会が終わった頃なので午後3時過ぎか。
20階建て東西新聞社ビルの6階にある東西新聞編集局から、3階にある東西スポーツ編集局に降りていった、ということ。
午後3時過ぎだから、鳥飼デスクは今夜(つまり翌日付)紙面のネタを仕込み中のようだ。

❷野球部デスクの席で、青いウインドブレーカーを着た
「ウインドブレーカー」に、鳥飼デスクの人となりが分かる。
東西新聞グループのコーポレート・カラーは、ブルーのようだ(販促用のペラペラなナイロン製ブレーカーかな)。
別なものなら、ゴルフ班か、競輪・競艇を担当しているギャンブル班から貰ったものかも。
( 出稿部は取材先からいろいろ頂くようだけど、整理部・編集センターには何も来ません何も頂けません→あ、別に欲しいわけじゃないんですよ、笑)

❸鳥飼の前に置き、隣の空いていた席に
ここの描写は細かい。
どうやらこの日、鳥飼デスクはメーンデスク(翌日付紙面編集責任者=編集長)で、机の上にはパソコンや電話、たばこ、赤ペンの入ったペン立てのほか、共同電や各部からのモニターだらけなので、横にしか座れなかったのだろう。
デスク席は本人しか分からない、モニターやゲラ配置なので、うかつに触れないのだ。

❹俺たちより待遇がいいのに、まったく本紙様はケチ
鳥飼デスクは、東西新聞の社会部に一度出向したことがあるので、各種手当があることを知っているようだ。
……確かに、出稿行数や勤務時間を比べるとスポーツ編集部門はムニャムニャかもしれない(ムニャムニャ=言えない、敢えて言及しないの意)。