降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★『トリダシ』の新聞社を読む (58)

2015年11月10日 | 新聞

( きのう11月9日付の続きです。写真は本文と関係ありません )

スポーツ新聞の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の新刊小説『トリダシ』(文藝春秋、本体1,750円)。
同小説は、
「四の五の言ってねぇで、とりあえずニュース出せ!」
を口癖にしている、東西スポーツ野球部・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=推定44歳)デスクが主人公の連作集。
第四話「裏取り」から、新聞社編集局や同整理部に関係する描写に注目してみた。


( 185~186ページから )
「だからといって、この手の取材を違う組織が一緒にやってもうまくいくわけがない❶」
「違う組織はないだろう。同じグループだ」
ならスポーツに指揮を執らせてくれるか❷」
目が光った。一瞬、唾を飲んだ湯上が答えるより先に、露崎が「おかしなことを言うな」と一喝した。
「どうしてうちがおまえたちの手下にならなきゃならないんだ」

「そう言うと思っていました」
鳥飼は憎らしいほど余裕の顔をしていた。露崎は歯軋りしているように見えた。仕方なく湯上が折衷案を出した。
「それならこうしよう。お互い書くまでは別行動でいい。ただし書く時は一報を入れる、場合によっては原稿も貰う。ただし降版直前は勘弁❹してくれよ。書くと決めた段階ですぐに連絡すること」
「そっちも連絡をくれるのか」
「与根から俺を通し、必ずおまえに電話をする。その代わり、おまえも俺に電話をくれ。いいですよね、局次長」
露崎に振ると、「ああ」と渋い返事が聞こえた。



❶この手の取材を違う組織が一緒にやってもうまくいくわけがない
新興IT企業による球団買収スクープを、同じ新聞グループなのに不仲な、一般紙の東西新聞と東西スポーツが同時に追ってもうまくいくはずがない——ということ。
おっしゃるとおりですね。

❷ならスポーツに指揮を執らせてくれるか
独自取材でリードしているスポーツ鳥飼デスクの、余裕の戦線布告か。
〈 それほど言うのなら、この球団買収取材は俺たち東西スポーツが中心になるから、一般紙の東西新聞取材チームはアシストしろ 〉
と言外に言っている。
プライド高い一般紙さまの東西新聞には飲めないはず、と鳥飼デスクは踏んでいる。

❸露崎が……手下にならなきゃならないんだ」
スポーツ紙を〝下〟に見ている露崎局次長としては、当然出てくる発言。
〈 ムカッ、俺たち東西新聞さまは親会社だぞ。一般紙の取材チームが、スポーツ新聞なんかの手下になれるかよ 〉
——鳥飼デスクは、この発言を待っていたようだ。うまいなぁ、本城さん。

❹お互い書くまでは……降版直前は勘弁
この場合「書く」は、確証が取れ紙面に掲載すること。
つまり、両紙ヨーイドンしようぜ、ということ(互いに疑心暗鬼だけどね)。
「原稿も貰う」は、記事データ(前文・本記・サイド・メモ・記者の目など)を互いのサーバーに流すこと。
ただし、スポーツ側が書いた記事スタイルは、一般紙ではなじまないので(基本データを残しつつ)リライトが必要。
スクープの場合、他社が気づきやすい早い版には敢えて載せず、最終版に突っ込むので、
「降版直前は勘弁してくれ」
につながるのだろう。