降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★『トリダシ』の新聞社を読む (62)

2015年11月19日 | 新聞

( きのう11月18日付の続きです )

スポーツ新聞の舞台裏を活写した、本城雅人さん(49)の新刊小説『トリダシ』(文藝春秋、本体1,750円)=写真右
同小説は、
「四の五の言ってねぇで、とりあえずニュース出せ!」
を口癖にしている、東西スポーツ野球部デスク・鳥飼義伸(とりかい・よしのぶ=44歳)が主人公の連作集。
第4話「裏取り」から、新聞社編集局や同整理部に関係する描写に注目してみた。


( 192~193ページ )
「俺は事実を言っただけだ。自分で取ってきたネタなら部下の名前は出さない」
スポーツ紙のことを馬鹿にしている露崎の前だから、東西スポーツにも優秀な記者がいると言いたかった❶、あの瞬間はそう感じたが、そんな深い理由はなかった。
記者が必死になって取ってきたネタだから譲れない❷——鳥飼が言いたかったのは、そういうことなのだろう。

( 中略。僕注=露崎は、一般紙・東西新聞の編集局次長。社会部長時代、鳥飼と一戦交えて以来、敵視している )
「うちは、おまえに必ず連絡をすると協定を持ち掛けながら、裏切ってしまったしな」
「別に構わねえよ。こっちも端から約束を守るつもりはなかったからな」
今度は冗談で言ったのか本気で言ったのか見当がつかなかった。こっちが裏切って正解だったのかもしれない。
子会社にコケにされたら、露崎だけでなく、もっと上の重役までが怒り狂っていた❸だろう。
湯上は紙コップを握った。鳥飼の好みに合わせて自分のもブラックにした。見るからに苦そうな紙コップの中身を見つめて呟いた。
「しかし今回の誤報で露崎が飛ぶかと思ったら、まさか自分が飛ばされるとは思わなかったよ」
「聞いたよ。大阪だってな。だけど社会部で良かったじゃねえか。おまえに経済は似合わねえよ」
「ああ、また事件を追えるのが唯一の救いだ」



❶スポーツ紙のことを馬鹿にして……優秀な記者がいると言いたかった
湯上・経済部デスクはいったんは不遇をかこつが、おそらくラインに戻るはず(それも短期間のうちに。裏表のないデスクは自然と人望を集める)。
アウトローな鳥飼に対し、緻密派の湯上を立てたというキャラクター構成が光る。

❷記者が必死になって取ってきたネタだから譲れない
部下を信頼し、部下を護ろうとする男気あふれる熱血デスク鳥飼!
……なのだが、対整理部ではちょっと困る出稿デスクなのだ(→9月1日付29回みてね)。本城さん、整理部勤務はほんの短期間だったようだ。

❸子会社にコケ……怒り狂っていた
ほぉ~、そうなんですかねぇと感じたところ。
子会社のスポーツ紙に抜かれて、一般紙の局次長、局長、重役まで「怒り狂う」かなぁと思ったけど、そこは小説だから…………。

❹ブラックに……見つめて呟いた
ブラック——湯上の苦渋に満ちた内面に導く、この描写は効いているなぁ。じわっと来る。