降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「ネタ元」新聞社を読む(10) 止

2015年04月24日 | 新聞

(4月18日付の続きです。「止」は分割原稿の最後を意味します。
写真は、本文と関係ありません )

横山秀夫さん(58)の短編ミステリーの舞台となった地方新聞社に注目してみた。
短編「ネタ元」( 2000年9月「オール讀物」発表。文春文庫『動機』収録 )に登場する新聞社は、とある地方の「県民新聞社」。
主人公は、横山さん作品としては珍しく、女性の社会部記者・水島真知子(29)。
ある日、彼女に発行部数800万部の全国紙・東洋新聞から引き抜きの誘いが来たが………=太字部分は、本文から引用しました。


県警本部ビル四階。記者室。県民新聞ブース。
矢崎
僕注=真知子の一つ下の県警詰め記者)がいた。母親の病状が好転し、昨日から仕事に復帰したという。
そんな話をしているところへ、加納ひろみ
(県民新聞1年生記者)が飛び込んできた。青い顔をしている。
「先輩、聞きました?」
「何を?」
「キャップですよ。東田さんが東洋新聞に行くって」
病み上がりにはきつすぎるジョークだと思った。
「嘘でしょ」
「ホントですってえ!引き抜かれちゃったんですよ!あたし、本人からちゃんと聞いたんだから」

(中略)
真知子は振り返って、矢崎の顔を見つめた。
「矢崎も………?」
「はい………えっ………それじゃあ水島さんにも………?」
真知子は慄然とした。

(中略)
原稿を書きはじめていた矢崎が振り向いた。
地方紙の記者はいろいろ事情を抱えている人間が多いから、誘っても何人かに一人しかこない。草壁さん
(東洋新聞記者)、そう言ってましたよ」(後略=439~432ページから引用)


【 勝手に、よけいな解説 】
▽東田さんが東洋新聞に行く
以下、僕の経験。
僕自身も転社したクチなのだけど、報道部の知人Aくんが「退社」のとき(「九州の実家に戻る」と言っていたけど誰も信用しませんよねwww )、
噂はアッという間に局内にひそひそ広まった。
ひそひそ「AくんはB紙に行くようだ」
ひそひそ「B紙のCさんの〝引き〟のようだ」
ひそひそ「いいなぁ………◯◯万かぁ」
かなり、具体的な〝噂〟だった。
なぜ、B紙での推定年収まで分かるのかと言うと………………
業界は狭い!
記者情報ネットワークは恐るべし!
としか言えない(爆笑)。

Aくんの送別会に出ようとしたのだけど、
デスク含め所属部5、6人でひっそりと行われたらしい。
Aくんの所属部長は
「うーん。朝刊編集で都合がつかないんだよなぁ」
だった。
夜の仕事・勤務が役立つこともあった例でございました。

▽地方紙の記者は………一人しかこない。
うーむ。
横山さんの小説は、組織の縄張り対立・激突、男たちの葛藤・意地・矜持を基調テーマにしているから、
この場合も地方紙・全国紙の関係を表しているのだろう。
名作『半落ち』(講談社文庫、2005年)では、同じ新聞社内の記者間の対立で、
正規兵(新卒入社組)
傭兵(中途入社組)
と表現していた。
………………言い得て妙なり。