降版時間だ!原稿を早goo!

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★「ネタ元」新聞社を読む⑨

2015年04月18日 | 新聞

(4月14日付の続きです。写真は、本文と関係ありません )

横山秀夫さん(58)の短編ミステリーの舞台となった地方新聞社に注目してみた。
短編「ネタ元」( 2000年9月「オール讀物」発表。文春文庫『動機』収録 )に登場する新聞社は、とある地方の「県民新聞社」。
主人公は、横山さん作品としては珍しく、女性の社会部記者・水島真知子(29)。
ある日、彼女に発行部数800万部の全国紙・東洋新聞から引き抜きの誘いが来たが………=太字部分は、本文から引用しました。


紙面は不審車両の続報でいくことに決まった。新たに三件の目撃情報が出た。今朝の県民新聞を見て、慌てて警察に通報したらしい。
(中略)
ちょっと話がある。電話で紙面建てのやりとりをしたあと進藤(僕注=県民新聞社会部デスク)にそう言われ、夕方、真知子は本社に上がった。
編集局は本社ビルの二階だが、一階には巨大な輪転機が鎮座しているから、普通のビルの三階辺りの高さまで階段を上ることになる。
足も気も重かった。やはり、うしろめたい。
進藤の顔をまともに見られるだろうか。
そう思いながら、真知子は編集局のドアを押し開いた。
わーん。五十人からの人間の声が一緒くたになると、そんなふうに聞こえる。

(後略)=本文226~227ページから。


【よけいな解説】
▽紙面建てのやりとり
「電話で」とあるから、口頭で
進藤「えーとぉ、社会面は不審車両続報アタマ、カタにA記事、ヘソにB記事、あとはベタものブン流し、それに訃報で埋まるかぁ」
「2社面はC記事アタマにD記事、あと企画連載かかえて、と。
うーん、あとは季節P(写真)出せば、整理がなんとかしてくれるなぁ……」
ぐらいか。
フロント面(1面)展開も言及したかもしれないけど、不審車両の続報だけでは(カタ扱いでも)弱い気がする。
ちなみに、県民新聞は共同通信加盟社ではないようだ。

▽編集局は本社ビル………輪転機が鎮座
1階に輪転機がドーンとあるので、輸送センターも併設しているのだろう。
この短編が書かれた時代(2000年ごろ)には、縦長の高速オフセット輪転機が主流だから、1~2階ぶち抜き設計か。
「県民新聞社」本社は、
1階=総合受付、輪転・印刷センター、輸送センター
3階=編集局(たぶん、編集組み版端末もこのフロアの隅にある)
まで読み取れる。
4、5階には会議室、販売・営業・事業・総務部、社長室………そこそこの敷地をもつ社屋のよーだぞ。

▽編集局のドアを押し開いた。
1フロアすべてが編集局ではなく、他局と仕切っているよーだ。
〝ピーポ~、ピーポ~。共同通信から編集参考で~す〟
という、新聞社おなじみの、真っ先に耳に飛び込んでくる共同アナウンスが書かれていないので、共同加盟社ではないのが分かる。
(共同、すっげー高いもんね。時事配信かな。
ちなみに、名作『クライマーズ・ハイ』の北関東新聞社は、共同加盟社だった)。