降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★活版では、こう組んだ❸

2014年06月04日 | 新聞

【 きのう6月3日付の続きです 】
新聞社で1990年代初頭まで行われていた、鉛活字を使った活版組み版( →いわゆるホット。対して、コンピューター組み版編集をコールド=CTS( *1)と呼んだ )。
上写真の紙面なら、僕たち整理部はこう組んだのだ忘れないうちに書いておこう、の第3回。
◆お断り=新聞社によって、名称やシステムが異なります。

❻降版時間まで17分@とある新聞社製作局大組み

整理・僕がアタマ用の凸台を管理棚に取りに行こうとしたら、小組み( *2 )から
「よぉ~、お待たせ。
6段23行のハコ( 上写真左カタの「先行投資、果実大きく」)できたよ……もう少し早く出稿できないかね、ほんと。コッチも人いねーんだし。
おっと、んなことはいーや。小刷り( *3 )は校閲に回していいな」
と組み版スタッフが持ってきてくれた。

同ハコは、全角( CTSでは8U )三柱ケイ二方巻きで、全体がタコ糸で巻かれ、少しだけ水がかけてあった( *4 )

❼降版時間まで16分@製作局大組み

大組み・池さん「おっ、ハコ出来たか。
んーと、入れていいな、◯◯ちゃん( ←僕のことね )」

この段階、既に同ハコ下の1段モノ( 上写真左下の「製造請負制度」)記事は二つに折られヤマケイで押さえられていた。
3段6行サブ見出し記事も、中段ケイありで上部から流れている。
組み進捗は40%ぐらいか。
急げっ急げっ製作局&整理、ハコもう一丁だぞ。

整理・僕「うほ~( 小組みハコを見て )記事あふれナシじゃん。今夜はツイているかもっ」
小組みスタッフ「だはははははは。ピッタリになるように、コッチで2行つくっておいたんだよ( *5 )
整理・僕「うはっ、助かるよぉ~。ありがとうねえ。
じ、実はハコもう一つあるんだ。それも急いでくれれば嬉しいなっと」
小組みスタッフ「おっ、そうかい。
おっ、いけねぇ( 製作局の吊るし大時計を見て )こんな時間だもんな……んじゃ、小組み見てくるよ」
整理・僕「んー、頼んますっ。手数かけるねぇ」

各面、降版時間が接近してきたので、製作局大組みデスクが吊るし大時計を見ながら
「各面っ、急げっ。時間だぞっ」
と声をあげた。
組みが間に合わなそうな時は、アシストするぞ、の意味なのだ。

長くなったので、続く。

( *1 )CTS=シー・ティー・エス
Computerized Type-setting System。
1960~80年代、朝日新聞社、日本経済新聞社の2社がそれぞれ研究、米IBMと日本IBMが技術協力して開発した。
日本経済新聞社東京本社は1978年にアネックスを、朝日新聞社東京本社は1980年にネルソンをそれぞれ全面稼動した。
その時つくられたソフトの一部は、パソコンの文字訂正などに転用された。

( *2 )小組み=こぐみ
大組みが新聞1ページ大を組むのに対し、タタミやハコ、段組み前文、ケイ巻きエトキなどをつくる班。
専属の小組み班があったわけではなく、大組みスタッフが時間を見て兼任していた。

( *3 )小刷り=こずり
新聞1ページ大を刷る大刷りに対し、タタミやハコ、段組み前文など小組みでつくったハンコをローラーで刷ったゲラ。
組み上がると、各面の校閲用に刷られ、編集局に運ばれた。

( *4 )少しだけ水がかけてあった=すこしだけみずがかけてあった
小組みでつくったハコには、ハケ状のもので軽く水をかけた。これは乾燥して鉛活字がこぼれやすくなるのを防ぐのと、ハコ四方をタコ糸で縛りやすくする意味があった。

( *5 )コッチで2行つくっておいたんだよ=こっちでにぎょうつくっておいたんだよ
整理部にとって実に嬉しい、製作局の粋なはからい。「職人だねぇ!」と僕は頭がさがった(笑)。
13字詰め記事で2行足りないとき、13字ピタピタの行にワリ( 三分・四分の金属片 )をわざと数本入れて、「。」を次行に移すとプラス1行になる。この禁則を利用して、ハコにアキをなくしてくれた。
逆に、2行あふれた時は、「。」「、」
など約物を二分して記事を過不足なく調整してくれた................製作局の、こういう粋な作業は本当に嬉しかった。