独断偏見妄言録 China's Threat

中国は人類の命運を左右する21世紀最大の不安定要因

「電磁パルス攻撃」の脅威(その3)

2017年08月27日 15時41分46秒 | 軍事
拙ブログではこれまでに2度電磁パルスEMPについて取り上げてきた。

(その1)EMP(電磁パルス)防護用導電性コンクリート(2016年11月17日)
http://blog.goo.ne.jp/stopchina/e/a2ae7880f77d1f6e751ede7d05026368

(その2)北朝鮮&中国による電磁パルス攻撃は「現実の脅威」(2017年05月24日)
http://blog.goo.ne.jp/stopchina/e/5fbc71179be239fc10f6f5f767275c4d

今回は3度めであり、以下に産経新聞の記事を丸ごと転載する。

しかし、いづれも警鐘を鳴らすだけのものであり、物足りない。新聞各社は今後はもう少し突っ込んだ記事を書いていただきたいと思う。
国家レベルでどういう取り組みが必要なのかということは当然だが、国民一人ひとりができる対処法についても解説していただければありがたい。



「電磁パルス攻撃」の脅威 上空の核爆発で日本全土が機能不全に
2017.8.27
http://www.sankei.com/premium/news/170827/prm1708270021-n1.html

 北朝鮮が核兵器や弾道ミサイルで挑発を続けるなか、もう一つの深刻な脅威として「電磁パルス攻撃」の可能性が指摘されている。上空で核爆発を起こし、広範囲で都市機能を破壊するものだ。北朝鮮は既に攻撃能力を持つとみられるが、日本の対策はほぼ手つかずで、専門家からは懸念の声が上がる。(小野晋史)

大規模停電の恐れ

 電磁パルス攻撃は、高度30~400キロの上空で核爆発を起こして行う。その際に生じたガンマ線が大気を構成する窒素や酸素などの分子に衝突。分子に含まれる電子がはじき飛ばされて雷のような巨大な電流が発生するなどした結果、強力な電波の一撃である電磁パルスが地上に襲いかかる。

 電磁パルスは送電線を伝ってコンピューターなどの電子機器に侵入。その電圧は5万ボルトに達するため、機器はIC(集積回路)の機能停止で損壊し、同時に大規模な停電も発生すると予測されている。核爆発に伴う熱線や衝撃波は、地上には届かない。

 影響範囲は爆発の高度や規模によるが、高度100キロで広島型原爆の3分の2に相当する10キロトン(TNT火薬換算)の場合、日本全土をほぼ覆う半径約1100キロにも達する。

 1962年に米国が北太平洋上空で行った高高度核実験「スターフィッシュ・プライム」では、高度400キロの宇宙空間での核爆発で電磁パルスが発生。爆心から1400キロも離れた米ハワイ・ホノルルなどで停電が引き起こされ、その威力が実証された。

空から襲う“津波”

 現代社会は電気なしでは成り立たない。電磁パルス攻撃によって大規模な停電が発生し、公共インフラを支える電子機器が損壊すれば、都市機能はまひする。

 電話やインターネットなどの通信やガス、水道の供給が停止。飛行中の航空機が操縦不能になったり、電力を絶たれた原子力発電所が制御不能に陥ったりする恐れも指摘されている。

 米国の専門家チームが今世紀に入ってまとめたシナリオでは、10キロトンの核爆弾がニューヨーク付近の上空135キロで爆発した場合、被害は首都ワシントンを含む米国東部の全域に及ぶ。

 損壊した機器を修理する人員や物資が大幅に不足し復旧には数年を要し、経済被害は最悪で数百兆円に達する。電磁パルスは健康に直接影響しないとされるが、食糧不足や病気などで死傷者は数百万人に上ると推定している。

 元陸上自衛隊化学学校長の鬼塚隆志氏は「電磁パルス攻撃は宇宙から襲う津波のようなものだ。被害を完全に防ぐことは難しくても、備えを固めるなどして減災に取り組む必要がある」と強調する。

「日本は無防備」

 電磁パルス攻撃は地上への核攻撃と違い、ミサイルの弾頭部分を大気圏再突入時の高熱から守る技術は必要ない。小型の核弾頭を搭載したミサイルを発射し、目標上空で起爆するだけだ。

 米国防総省の内部では、北朝鮮が既に核弾頭の小型化に成功したとの見方もある。成功が事実なら、弾道ミサイルや人工衛星を搭載したロケットが上空を通過するとみせかけ、日本の真上の宇宙空間で核爆発を起こすことも可能だ。日本の領土や領海に着弾する恐れがない場合、迎撃ミサイル発射のタイミングを逃す可能性は十分にある。

 電磁パルス攻撃は米国やロシア、中国も能力を保有しているとされる。核爆発以外の方法でも可能だ。米露中のほか、北朝鮮や中国の脅威にさらされる韓国や台湾でも、インフラや軍などの防護対策が進んでいる。

 これに対し日本は取り組みが遅れている。電子戦に関わる研究開発を担う防衛省の電子装備研究所は、電磁パルス攻撃を受けた場合に「(自衛隊の)指揮・統制機能が無力化される恐れ」があるとして、今秋にも防護技術の動向調査を始める。

 だがその内容は攻撃の脅威に関する調査や、防護技術の実現に向けた課題の明確化など基礎的な検討にとどまる。

 電磁パルスが防衛装備品に与える影響に詳しい企業関係者は「日本には、電磁パルス攻撃への備えがまともに存在しない。社会全体が無防備な現状は非常に危険だ」と警鐘を鳴らす。


<2017年9月6日>

EMP: North Korea's Ultimate Weapon Against America?
電磁パルスEMP:アメリカに対する北朝鮮の究極の兵器か?

September 5, 2017 by Dave Majumdar
http://nationalinterest.org/blog/the-buzz/emp-north-koreas-ultimate-weapon-against-america-22182
戦術核兵器による比較的低高度での核爆発のEMPについては不明。
冷戦時代の古い兵器を除くと、大部分の兵器はEMP防護が弱い。
米国が金体制の打倒を図る場合、北朝鮮が自制的であることはあり得ない。




Millions of American lives could be at stake as North Korea threatens to attack power grid
By Hollie McKay September 05, 2017 Fox News
http://www.foxnews.com/world/2017/09/05/millions-american-lives-could-be-at-stake-as-north-korea-threatens-to-attack-power-grid.html
So how could North Korea pull off an EMP attack? A hydrogen bomb detonated at a high altitude would create an electromagnetic pulse that would knock out key infrastructure – namely prominent parts of the U.S. electrical grid.



<2017年9月21日>

Joint Hearing on “The EMP Threat: The State of Preparedness against the Threat of an Electromagnetic Pulse (EMP) Event”
「EMPの脅威:EMP対策の現状」に関する合同公聴会

May 13, 2015
https://oversight.house.gov/wp-content/uploads/2015/05/Baker-Statement-5-13-EMP.pdf
EMPについて専門家による詳細な解説がある。



<2017年9月29日>


電磁パルス(EMP)攻撃、脅威論を検証する
「電磁パルス攻撃」に電子機器はどう対応すべきか(前編)
2017/09/28 宇野 麻由子
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/092500129/092600002/?P=1
 「電磁パルス(EMP)攻撃」――2017年9月3日、核実験を実施した北朝鮮が国営メディアである朝鮮中央放送、労働新聞を通じて“できる”と主張したことで、耳慣れない兵器が一躍注目を集めた。北朝鮮が挙げたのは「高高度電磁パルス」(HEMP)と呼ばれる核兵器の応用例で、核爆弾の爆発(爆風や熱放射)により直接人・物を破壊するものではなく、電磁パルスにより各種電子機器を故障させるものだ。広範囲にわたり、電力・通信インフラ関連や自動車・列車などの輸送機関を含め、すべての電子機器が一瞬にして故障、機能停止に陥れば “もはや文明社会が崩壊する”。そんな脅威論がテレビやネットを賑わした。

 どんな対応があり得るのだろうか。電子機器やインフラ等の「EMP Hardening」(電磁パルス耐性の強化)の意義は小さくないとするのが、核軍縮に向けて核兵器の研究を行う防衛研究所主任研究官の一政祐行氏だ。「HEMPの目的は電子機器を無力化し、人工衛星や社会インフラなどを壊滅させること。HEMP脅威の本質を慎重に見極めた上で、様々な方法でEMP Hardeningを進め、“中核的なインフラは守れる”と言えるようになれば、ミサイル防衛に加えて、新たにHEMP攻撃をさせない拒否的抑止力(相手国に対して、攻撃を行っても期待した効果は得られないことを悟らせることで、その行動を思い留まらせる抑止力の論理)の1つとなる可能性がある」と話す。

 では、HEMP(高高度電磁パルス)とはどのようにして生まれるものなのか。高度40km~400kmといった高高度*において核爆発を起こすことで、γ(ガンマ)線が大気中の分子及び原子と相互作用し、コンプトン効果により強電界が発生、上空と地上の広い範囲に電磁パルスが降り注ぐとされる。爆風や熱線など直接の影響は及ばず人体には無害である一方、電線などの導体にエネルギーが集まり、電子機器を破壊するとみられる。

*気象庁が上げるラジオゾンデ(ゴム気球を使った観測装置)の高度は約30km、一般に「宇宙」と呼ばれるのは高度100km以上、スペースシャトルや国際宇宙ステーションの高度が400km程度、静止衛星の高度が3万6000km。

 電磁パルスは到達時間により3種類に分類されている。最初に到達するのが「E1」で、数n秒~数十n秒の間に電子部品などに過負荷を与え、一時的な断絶もしくは破壊をもたらす。高高度電磁パルスのもたらす被害は主にこのE1によるものとされる。次に数μ秒~数秒の間に到達する「E2」は、波長や持続時間などで落雷に似たような電磁パルスとされる。そのため、雷対策部品で対応できるとの説もあるが、先にE1により不具合などが生じた状態でE2に曝され破壊されてしまうという見方もある。最後の「E3」は秒単位の長い時間継続する大電流をもたらすもので、太陽フレアによる磁気嵐の電磁パルスに近いとされる。

かつては米ソが実験

 「高高度核爆発の研究は、米国と当時のソビエト連邦により1958年頃から活発化した」(一政氏)。特に、1963年発効の「部分的核実験禁止条約(大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験禁止条約)」を目前に控えた1962年には駆け込み的に核実験が急増、米国だけで50回を超え、その中でHEMPの実験も行われたという。

 こうした経緯もあり、以前からHEMP対策を掲げているのが米国だ。HEMP脅威論者として有名なのは、元CIA長官のジェームズ・ウールジー氏や共和党で元下院議長のニュート・ギングリッチ氏などで、長らく危険性を訴えている。米国国防授権法により議会に設置されたEMP Commissionは2004年と2008年に電磁パルス脅威に関する報告書を発表した。さらに、冷戦時に司令塔としてロッキー山脈地下に造り冷戦後には待機状態にしていた「シャイアンマウンテン空軍基地」を、EMP対策の一環として2015年に復活させた。同基地内では7億米ドルをかけてサーバーやセンサーなど設備の改修工事を行うと公表していた。

警戒する理由は2つ

 米国がHEMPを警戒する理由は主に2つ。1つは、被害の拡大が懸念されること。強い電磁パルスで高密度実装品をはじめとする電子機器が破壊されることで、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)などの産業制御システムネットワークが停止し、それに伴って送電や上下水道が停止して市民生活が破壊される。電子制御を利用する自動車や列車などが停止すれば、インフラの復旧作業にも支障が生じる。特に自動車の故障は避難も救援も、そして食糧の供給もできないといった直接的な被害を及ぼすと考えられている。各種インフラ復旧の遅れにより、米国ほぼ全体に被害を及ぼすようなHEMP攻撃を受けた場合「1年間で人口の90%が餓死・病死する」とする推測もある。

 もう1つの理由は、HEMP攻撃は比較的実施が容易であることだ。1945年に広島・長崎に原爆が投下されてから、核兵器は高出力化が進んだ。主に核分裂を利用するいわゆる原爆(原子爆弾)から、500kt(キロトン)以上へとより高出力化できる核分裂と核融合を利用する水爆(水素爆弾)へと進化した。広島・長崎に投下された原爆が13~21ktだったのに対して、実験された世界最大の水爆は50Mt(メガトン)で、「冷戦期の水爆実験では数Mtが普通」(一政氏)というような状況になっている。一方、HEMPは出力の低い原爆でも威力を発揮するとされている。北朝鮮は250kt程度の水爆を持つと推定されており、HEMP用核兵器としては十分な威力と考えられる。

 さらに、HEMP攻撃には通常の核ミサイルのような高性能なミサイルは必要ない。地上の広い範囲に影響を及ぼそうとすれば、高度40km以上で核爆弾を爆発させることができればよい。つまり、ミサイルの中でも技術的に困難とされている大気圏再突入の必要がない分、難易度が低く、高度100km程度に達するスカッドミサイルや気象調査用気球のようなものでも実現可能とされている。一政氏は「北朝鮮は再突入の技術がまだ不足しており、現時点でできるものがHEMPだったのではないかとの見方もある。また、米国はこれまでに北朝鮮などの国を名指しして“HEMPを実施する攻撃力を持っている”と公言しており、こうした米国側の議論を(北朝鮮も)見ているというアピールの可能性もある」と見る。



<2017年10月1日>

電磁パルス(EMP)攻撃、脅威論を検証する
「電磁パルス攻撃」に電子機器はどう対応すべきか(後編)
対策のヒントは55年前の実験とMIL規格に
宇野 麻由子 2017/09/29
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/092500129/092700003/?P=1
 北朝鮮が“できる”と主張したことで一躍注目を集めている「電磁パルス(EMP)攻撃」。高高度で核爆発を起こすことで生じる電磁パルスを利用し、広範囲にわたって一瞬にして各種電子機器を故障させ、電力・通信インフラや輸送機関などを機能停止に陥らせるというものだ。こうした脅威論を考慮し、菅義偉官房長官が防衛省、経済産業省、国土交通省などで検討を始めると発言するなど、国防だけでなく市民インフラを対象に含めた取り組みが始まろうとしている。

 実際のところ、HEMPではどのような被害が生じるのだろうか。実際に電子機器に影響を及ぼした例として有名なのは、米国とソビエト連邦による2つの実験だ。1つは、米国が1962年に太平洋のほぼ中央に浮かぶジョンストン島を核実験場として行った「スターフィッシュプライム(Starfish Prime)」実験だ。高度400kmで1.4Mtの水爆を爆発させた結果、爆心から約1400km離れたハワイに影響が及んだ。街灯が停電して、建物のブレーカーが飛び、侵入警報が誤作動で鳴り響き、詳細は不明だが電話交換所でも被害があったとされる。

 ただし、この例はHEMPによる被害を推測するには不十分とも言える。実験は太平洋のど真ん中にポツンと浮かぶ島で行っているため、人里は1400km離れたハワイしかない。確かに1400kmも離れたところで影響があったという点で影響範囲は広いと分かるが、「約1時間で復旧したとの説もあり、電子機器が破壊されたのではなく、ブレーカーが飛ぶなど、いわゆる機器の安全装置が働く範囲と、比較的軽微な被害だったのではないかとの推測もある」(防衛研究所主任研究官 一政祐行氏)。甚大な被害とはどんなものでどの範囲に及ぶのか、という点では疑問が残る。

 もう1つは、ソビエト連邦が同じく1962年に行ったとされる「テスト184」だ。現在のカザフスタンにある核実験場で高度180kmの高高度核爆発実験を行った。詳細は分かっていないが、地上で被害が生じたとされている。具体的には、発電所で火災が発生し、地下の電力ケーブルが熱で溶け、地上の電力ケーブルは絶縁器が焼失、長距離電話用の電話線はスパークギャップ装置(一過性強電流による破壊を防ぐ保護装置)が故障し、何らかの電子機器も破壊されたとされている。

 こちらは送電や通信といったインフラ、電子機器に具体的な影響が出た例と言えるが、当時の米ソの被害状況を詳細に検証することは難しい。加えて、1962年と現在では電子機器の状況が大幅に異なる。1962年といえば、昭和37年、東京オリンピックの2年前にあたる。米Texas Instruments(TI)社のJack Kilbyが半導体ICを発明したのが1958年で、1960年代といえばまさにICの時代が始まろうという段階だ。まだ機械式卓上計算機(手回し計算機)が出回り、トランジスタや一部で真空管も使われたであろう時代と、微細化が進んだLSIや各種センサー、無線通信を多用する現代とでは、電磁パルスの影響は大きく異なると推測されるが、具体的にどう異なるのかは推測するしかない。

専門家の間ですら「脅威論」と「懐疑論」が共存

 現状ではどうなるのか、実際に核爆発から実験をすることはできないため、HEMPを警戒し対策を進める米国の専門家の間ですら、HEMPの実効果に対して「脅威論」と「懐疑論」が“共存”している。比較的簡単に被害を防げるのではないかという見方もある。例えば、「Amazon.comで“Faraday Shield”と検索すれば、市販されている電磁パルス対策用バッグが表示される」(一政氏)。いわば鉄容器(金属導体容器)内に絶縁袋に入れておけば、電磁パルスが来ても中身の電子機器を守ることができる(ただし保管時のみ)、とするものだ。現在のビルは金属が多く、実質的にファラデーシールドになるのではないかとの見方もあるという。

Faraday Shield関連のバッグなどを扱う米Faraday Defense社のホームページ。会社紹介にもHEMP対策をビジョンの1つとして掲げている。

 核爆発からの実験はできないが、想定される電磁パルスを浴びさせたり、電磁パルスによって引き起こされるであろう大電流・大電圧を加えたりすることで、電子機器の電磁パルス耐性を確認することはできる。こうした方法を採用した一例が、米軍の調達物資用規格(Military Standard、MIL規格)のHEMP耐性に関する規格「MIL-STD-188-125」(HIGH-ALTITUDE ELECTROMAGNETIC PULSE(HEMP)PROTECTION FOR GROUND-BASED C4I FACILITIES PERFORMING CRITICAL, TIME-URGENT MISSIONS)だ。

C4I:Command Control Communication Computer Intelligence system

MIL規格の試験は2種類

MIL規格は米国防総省が提供するデータベースASSIST Quick Searchから検索、閲覧できる。

 こうした電磁パルス耐性(EMP Hardening)の結果の検証方法として、米国では主に2つの方法が実践されている。そのうちの1つは「フリーフィールドテスト」で、屋外で電磁波発生装置による電磁波に曝し、破壊されないかどうかを調べるというもの。例えば軍用車両であれば電磁波に曝したうえで再度エンジンがかかるか、通信が可能かといった項目を確認する。軍用車両のほか、レーダーアンテナやミサイル、飛行機などが対象となる。例えば、米国大統領専用機である「エアフォースワン」はこの試験を通過している。もう1つは「インジェクションテスト」で、Ethernetケーブルなどのケーブルに大電流・大電圧を加えるというテストだ。パソコンや蛍光灯など、あらゆる電子機器が対象となる。

 HEMP耐性の規格まで用意し対策を進める米国でも、「まだ懸念は残る」と一政氏は話す。主に(1)軍や政府機関のインフラでは対策がされていても、民間では対策が不十分な可能性がある点、そして(2)旧ソビエト連邦で開発されたとされるスーパーEMPウェポンは従来のEMPシールドの想定を超える200kV/mの電磁パルスを発生させることができるとされ、それが北朝鮮に流れた可能性が指摘されている点、の2点だ。

 民間では、HEMP攻撃により起こる最大の問題として、復旧が困難なレベルの大規模な停電「BlackOut」が起こると考えられる。しかも、こうした大規模停電は程度の差こそあれ、HEMPに限らず、サイバー攻撃や太陽フレアなどでも起こりうる。そのため、HEMP独自の対策もさることながら、BlackOut対策そのものを進めようという意見もある。米国では共和党がこうした政策を主張しており、2016年版のマニフェストではHEMP等の被害を受けた場合を想定し州レベルでの電力供給網を守るとしている。

 HEMP攻撃を防ぐためには、もちろん国や国際社会レベルでの対策が必要だ。一政氏は、「まずHEMPも核攻撃であるという国際社会の共通認識を醸成するとともに、核兵器使用の非人道性に関する論点で議論するべき」と話す。高高度核爆発は人体に直接の影響を及ぼさないことから、HEMP攻撃は非人道的な攻撃方法ではないと認識されることが懸念されるためだ。

 日本は米国の“核の傘”に入っている。一般に核抑止とは、仮に相手国から核攻撃が行われれば、それを上回る核による反撃を行うとの構造のもとに、相手国の行動を思い留まらせる懲罰的抑止の論理を基本とする。政治的にも機微な議論ではあるが、将来、HEMP攻撃も核による反撃の対象になりうると宣言し、懲罰的抑止を図ることになる可能性もあり得る。その上で、前回の記事冒頭に挙げたように「HEMP対策を早急に進め、被害を局所化し、実質的にその脅威を無力化せんとする姿勢が拒否的抑止力の構築の観点で重要だ」(一政氏)。MIL規格を参考にしたHEMP耐性の強化や、BlackOut対策を進めるべきとする。


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