ときどき、ドキドキ。ときどき、ふとどき。

曽田修司の備忘録&日々の発見報告集

大学のレポートは、教員だけでなく一般の読み手を想定して書くべきである

2006-07-18 20:19:44 | 大学
玉川大学「芸術経営論」の採点を終了。

履修登録者97名のうち、レポート提出者は93名。
成績の内訳は、S評価14名、A評価27名、B評価38名、C評価14名。
S評価の人数はこんなものとして、A評価とB評価の人数が入れ替わって、C評価がもう少し減るのが(私にとっては)理想的なあり方である。

今回のレポートの課題は、以下のとおりであった。

次の1~3の中からひとつを選び、あなたの意見を述べなさい。

1 オペラとミュージカルの興行システムの違いをわかりやすく説明しなさい。具体的な事実を踏まえて書くこと。

2 舞台公演のチケットが高騰するメカニズムと、ロングランが成立するメカニズムを、具体的な例を挙げて、それぞれわかりやすく説明しなさい。

3 一般的に、美術展のチケットが舞台公演のチケットよりも値段が低い理由を説明しなさい。

1、2の課題については、それぞれ、レパートリー・システムとロングラン・システムの違い、需要と供給の関係から説明してもらえばよいのだが、「具体的な事実を踏まえて」「具体的な例をあげて」という点に注意してほしい。

なお、1、2の課題については、私自身がこのブログの中で同様の内容について解説している文章があり、今回、安直にそれをそのまま引用してレポートを書いた学生がいる。そのレポートは、たとえ参考文献としてブログのURLをあげていようが、そのこととは関係なく、その姿勢の安直さの故に低評価である。
「丸写し」すればそれがそのままレポートの課題に使えるような文章を教員が公開している場合、それは「丸写し」を推奨しているのではない。逆に、それを使っているレポートを採点するときにはどのように原文を「料理」しているかを見ることになる。「料理」してなければ、たとえ出典が示してあっても盗作と大差ない。

3については、いくつか要因を指摘することができるが、基本的には美術展の財源構成の特徴を指摘してもらえばよい。つまり、一般に美術展においては全体財源に占める入場料(チケット)収入の割合が低いことを示す必要がある。
この根拠付けがしっかりしていないレポートが多かったのは、授業中に私が必ずしもそのデータの所在を明示的に強調しておかなかったせいもあるだろう。しかし、教員が授業の中でこと細かく説明してくれなかったからといって、それでレポートの内容が不十分になるのは仕方がないとか、当然そうなる、と考えるのは間違っている。その題材を選んでレポートを書く以上、その書き手は、一般の読み手に対してその内容を説得力のある形で伝える義務がある。
(教員が授業中にもう少しあの点を強調しておけばよかったという反省を後で持つことはよくあることだが、だからと言って、その部分について説得力のないレポートが出てきた場合に、意図的に目をつぶることはすべきではない。)

その点も含めてだが、総じて、今回低い評価になったレポートの評価が低い理由は、多くの場合、一般的な正解を記述することを求められる「記述試験」と「レポート」の違いを学生が理解していないか、あるいは、勘違いしているからである。

「記述試験」は、採点者(担当教員)の想定する解答(正答)を書けばそのことで評価される場合もあるが(ただし、いわゆる「小論文」の記述試験ではそうとも限らない)、「レポート」は、採点者のみを読み手と想定して書くものではない。自分の主張(意見)を、知的好奇心を持つ一般の読み手に対して伝えようとするものでなければならない。

このことについては、一年前の玉川大学「文化政策論」のレポート採点の講評として書いた記事を参照してもらいたい。

→ 「そうではない可能性」への想像力 (2005/07/21)

授業担当の教員のみが理解でき、他の人には何のことやらわからないようなレポートは、学生の甘えの産物だと言わざるをえない。通常の好奇心を持つ読み手(つまり、一般の学生を想定すればよい)になら誰にでも通用するものをレポートとして書いてほしいのである。

その意味で、レポートは一個の独立した作品である。それにふさわしいレベルのものを提出してほしい。S評価のレポートは確かにその名に値していた。このレベルのものがもっと増えてくれることを期待したい。

→(参考)「不出来なレポートは何故不出来なのか」(2005/08/04)





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