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曽田修司の備忘録&日々の発見報告集

「文化芸術活動への助成に係る新たな審査・評価等の仕組みのあり方について(報告書案)」に関する意見

2011-06-04 19:16:38 | アーツマネジメント
日本芸術文化振興会は、平成23年1月から、「文化芸術活動への助成に係る新たな審査・評価等に
関する調査研究会」を9回にわたって開催してきている。

このほど、同調査研究会の「報告書案」が公表され(6月1日)、
それに対する意見募集が行われている(6月8日まで)。

意見募集の期間が一週間ほどしかないのは異例の短さと言う他はないが、こういうものに対しては、
意見を言っておくのが筋なので、何を言おうか、考えてみた。

以下、私の意見。

すぐには提出しないで、少し寝かせておくつもりなので、最終的には少し変えるかもしれない。
(文中のPDとかPOとかの言葉は耳慣れないが、それぞれ、プログラムディレクター、プログラムオフィサーのこと)


〈意見〉

今後、日本版アーツカウンシルに相当するしくみが導入されることによって、
アートが日本社会において多くの人々に親しまれ、愛され、尊重されるようになることを期待します。
その意味で、今回の報告書案で、PDやPOを導入し、審査基準や評価手法や評価基準を
公表するとしていることは一定の評価に値すると思います。

しかしながら、今回の制度改革にあたっては、日本版アーツカウンシルを標榜して
改革が議論されてきたのですから、アート支援のあり方について、
もっと長期的かつ根本的な見直しが提案されることを期待していました。
そのため、今回の報告書案に記載されているプランには大きな違和感があります。

ここでは、一点に絞って意見を申し述べます。

報告書案のP. 10に、「PD及びPOは、審査及び事後評価の公正性を担保する観点から、
審査や事後評価に関する決定権を持たないこととする。」とあります。

この記述に端的に表れているように、報告書案では、PDやPOの果たすべき役割や機能が、
あくまでも運営委員会や専門委員会等の下請け業務に限定されています。

私は、このことには明確に反対します。

むしろ、専門知識を持ち、常勤で専一に業務に関わるPDやPOにこそ、政策決定の権限を与えるべきで、
非常勤の立場で年に数回しか会合に出席しない運営委員会や専門委員会の方が、
PDやPOに対して必要な助言を与えるアドバイザリー機関の役割を果たすべきだと考えます。

また、どのような人材がPDやPOになるのかが具体的に説明されていませんが、
アートの支援に関わる審査はピアレビューを基本とすべきです。
すなわち、PDやPO、さらに運営委員会や専門委員会の委員は、基本的に当該分野の制作業務に通暁している人が就任すべきです。
その上で、PDやPOとアドバイザリー機関の委員とは立場が交代可能であるように制度設計がなされるべきで、
それにより、数年ごとに行われる定期的な人事刷新によってバランスと公正性がゆるやかに保たれるようにすべきだと考えます。

この案では、当然、PDやPOにふさわしい人材について適材を配置することの困難さが各方面から指摘されると予想されます。
しかし、全体の方向付けが正しければ、数年乃至10年程度の運用期間を経ることで人材は育つものと確信します。

また、新しい支援制度の全体の方向付けは、「新たな価値を創造する」ことに最重点をおくべきだと考えます。
今の案では、既存の価値基準に沿って被助成団体が序列化されるような事態になることを恐れます。
価値規範はどうしても硬直的になってしまいがちですので、
それを打破するために、「挑戦する自由」、「失敗する自由」を積極的に奨励すべきです。
このことは、PDやPOが委員会の下請けをしている限り実現される可能性はありません。

総じて、具体的でテクニカルな組織フレームや審査スキームの議論の前段階として、
何のためのアート支援かについての広く意見募集があってしかるべきではなかったかと感じます。

平成23年度の試行的実施については、大きな変更は難しいと思いますので、
試行的実施の後に、上記の観点からの抜本的な見直しが行われることを期待致します。

以上

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