興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

『BORDER』と なでしこJAPAN(ネタバレあり)

2014-05-23 | 戯言(たわごと、ざれごと)

 普段私はテレビをあまり見ないのですが、昨夜は女子アジアカップのなでしこJapanと中国の準決勝の中継を見ていました。一度見始めたら目が離せない内容の試合で、他にやりたいことがあったのですが、あまりに面白かったので、「これは最後までみよう」と決めました。正しい判断でした。それは「死闘」とも言えそうなすごい試合で、見ごたえたっぷりでした。

 ただ、私は昔から、弱い立場、不利な状況にいる人たちを応援する癖があり、もちろん基本的にはなでしこJapanを応援していたものの、延長戦で双方が体力の限界、というところで、ふたりメンバーが足りない中国のほうについつい同一視している自分がいました。とくに、中国のゴールキーパーの健闘ぶりは素晴らしく、しかしそのゴールキーパーも体力の限界、さらに、中国は二人足りないということで、その最後の最後という段階で追いやられ、なんだか多勢に無勢という感じで、このとき私は、どちらのチームというよりも、この中国のゴールキーパーを応援していました。それで、岩清水さんのヘディングで勝負がついたとき、私は非常にアンビバレントな気持ちでした。「なでしこ勝った。よかった。でもあんなヘディング、あそこまで疲れていて絶対取れるわけないじゃん」という妙な葛藤です。

 そんな感じでなんだか呆然と、試合後の様子や選手のインタビューなどを見ていると、いつの間にかドラマが始まりました。日本に帰国して思いましたが、今の日本の民放の番組から番組へのつなぎって非常に巧妙ですね。うっかりしているとチャンネルを回したりテレビを消すタイミングを逃します。境界線がありません。ほとんどBorderlessです。そうです、ほとんどBorderlessに始まったドラマはその名も『BORDER』でした。寒いですか。まあ、とにかく、このようにして呆然としている私の目の前で、刑事ものが始まったわけです。

 私はテレビそのものをあまり見ないぐらいなので、ドラマを見る機会というのはほとんど皆無です。でもこの夜は、なでしこJapanの勝利と中国のゴールキーパーの痛みというアンビバレンスの最中にいたので、「よし、たまには日本のドラマでも見てみよう。刑事ものだ。絶妙なタイミングじゃないか。この勧善懲悪、正義は勝つの、黒か白かがはっきりしているに違いない刑事ものを見て気分を切り替えよう」と、テレビの前に居座ることを、どこか消極的に決意したのでした。ただ、その『BORDER』というドラマの第7話は、『敗北』という不吉なタイトルがついていて、「これは今の俺にとって正しい番組なのかな」と、一瞬嫌な予感が脳裏を過りました。

 なかなか面白いストーリー展開で(脚注1)、また、主人公をはじめとするキャスト達の演技もよく、入り込みやすいものでした。プロットも、正義感の強い主人公の刑事が、どんどん窮地に追い込まれていくもので、また、犯人のひき逃げ犯がとにかく嫌らしく、その犯人を助ける「掃除屋」の悪党ぶりも徹底していて(つまりこのお二人の演技も良かったわけですね)、「これはアメリカの刑事モノ『Monk』のようなものかな。主人公がとことんまで追い込まれて、最後の最後で大どんでん返し、好きなパターンだ。こういうのが見たかった」、と思いながら見ておりましたが、途中から、「あれ・・・ここまで追い込まれてたら収集つかなくないか?」、と冒頭のタイトルで感じた嫌な予感が強くなっていき、それは的中しました。

 それでもエンディングは、なんとなく将来に希望の可能性を残すもので、暗澹たる気持ちにはならなかったものの、サッカーの試合から感じていたもやもやを晴らしてくれるような内容では到底なく、「これは一話完結なのかな。続きがあるのかな」、などと気になりだし、仕舞にはGoogleで検索までしている自分がいました。ところで、この『BORDER』第7話は、なでしこJapan効果で、実際にいつにない高視聴率だったようですね。その事実を知り、その夜、私と同じような方が結構たくさんいたのかもしれないと、なんだかほっとしたのでした。どうやら第8話は7話とはあまり関係なさそうですが、面白いドラマだったので、来週、この第8話を見たい気もするし、どうしようか今から考えています。

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(脚注1) 主人公が死者と会話できる能力がまたいいですね。これは、イニャリトゥの映画『Biutiful』の主人公と同じ能力ですね。刑事ものの主人公の刑事が死者である被害者と対話できるというのは、刑事と検死医が合体したようで心強いですね。でも、死者と対話できる故にでてくるこころの葛藤や、状況の複雑化など、良くできていて面白いと思いました。自分にははっきりとわかっている真実が、他者にどうしても伝えられないというのは、ものすごい苦痛を伴うものです。そういう、特殊能力を持つがゆえの主人公の孤独などが、良く表現されていて、良い作品だと思います。少なくとも第7話は。



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1 コメント

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Unknown (Taka Kurokawa)
2014-06-18 21:55:41
Yukoさん、

そういうことだと思います。

面白いですよね。違いが耐え切れなくなる。そうですね、これは、相手に対して過剰同一視が起きているときに出てくる問題です。だから、カウンセラーも、自分の経験をクライアントに重ね合わせて理解しようとすると、こういうことが起きてくるのです。それで無益なアドバイスや、批判、叱咤激励などでてきます。人はそれぞれみんな違う、という意味で、誰もが自分にしか分からない痛みを抱えて生きている、という意味で、みんな同じだと思うのです。逆説的な話ですが。この辺りの感覚を大切にしながら、その違いに弛まない好奇心があると、共感が深まっていくのだと思います。
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