興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

修復していないこと、未解決なことは、繰り返されるという事

2018-11-02 | プチ精神分析学/精神力動学
“We repeat what we don’t repair”—Christine Langley

「我々は修復していない事を繰り返す」



私たちが生活の中で意識的、無意識的に繰り返している、良くない行動パターンや言動や習慣の多くは、自分の中でまだ未解決なこと、つまり、きちんと修復できていない事が軸となって起きています。

たとえば恋愛依存症の人は、傍から見ると驚くほど同じパターンのまずい恋愛関係を繰り返します。

次こそは良い恋愛を。

今回の人は今までの人とは違う。

そう思って新しい人と付き合えども付き合えども、遅かれ早かれ気がつくとまずい関係に陥っています。

しかしそれは新しい性質のものではなく、馴染みのあるものだと、やがて気づくようになります。

そこで恋愛心理学の本を買って熟読したり、メディアに出てくる恋愛のスペシャリストの番組を視聴したりブログを読み漁ります。

それで自己分析をして、自己理解が深まったと思っていたのに、気づくとやはり同じところにいます。

その人をよく知る家族や友達からみると、そのパターンは一目瞭然で、まるであたかもその人が意図して自分を不幸にしているように見えますが、もちろんそんな事はなく、本人は至って真剣です。

実際こうした状況に陥っている人たちの多くは、とても勉強熱心ですし、なんとかしようと頑張っています。

そんなに頑張っているのになぜ同じ事を繰り返すのでしょう?

こうした人たちは決まって「私って馬鹿だから」と言いますが、それも違います。

それどころか、基本的には聡明な方が多いです。ソーシャルスキルも高いですし、友達もたくさんいます。高学歴で、キャリアの面では成功している人も多いです。

それで本人にとっても周りの人達にとってもこうした人たちの恋愛事情は「謎」なわけです。

そして残念ながら巷に溢れる「恋愛のエキスパート」の恋愛指南書は、こうした事象の非常に表層的な部分を、言い回しこそ違うけれど、文字通り異口同音に描写しているに過ぎません。

意味深長に見える性格診断や性格分類も、フリーサイズのTシャツのように、誰にでもある程度マッチするけれど、ぴったり合う事はありません。

さらに困ったことに、自己啓発書の性格診断は、そこがゴールになってしまっていて、読者は「わあ、当たってる!」とスッキリして終わってしまいます。

本来、性格診断は、性格改善のためのものであるはずなのに、自分をカテゴリーに当てはめるのを好む日本文化や(たとえば血液型診断とか)「性格は変わらない」といった誤った前提などの影響で、目的であるはずの性格診断がゴールになりがちなのです。

もう一つ、性格診断にしても、民間心理学のものは、先ほどのフリーサイズのTシャツのメタファーのように、誰にでも多かれ少なかれ当てはまるものであり、粗雑であまり役に立ちません。

自己改善には、もっとずっと精密で洗練された、オーダーメイドの診断が必要かなのです。

というのも、私達の性格は、生まれ持った遺伝的な素材をベースに、通常、幼少期の生まれ育った家庭環境と主要な養育者との関係性によって形成されるわけですが、こうした要素の相互作用は非常に複雑で、一人一人ユニークに異なっているわけで、そのプロファイリングにも相当な時間が必要です。

こうした複雑な相互作用の中で、人は無意識的に、どうにか環境に適応しようとして生きていく中で、対人関係のテンプレートを含む、様々な行動パターンを身につけます。

今のあなたの人生の中で、特に問題になっている性質や行動様式は、この中でもトラウマになっているものに対して身につけた場合が多いです。

トラウマにも様々な種類と度合いがあり、PTSD (Post Traumatic Stress Disorder、心的外傷後ストレス障害)のように、その出来事や事物が本人にとってはっきりしている場合もあれば、そうでないものも多いです。

自分でも「あんな事が問題になっていたとは」と、意識化できた時に驚くような、より微妙で曖昧で分かりにくいトラウマも存在します。

特にこうした種類のトラウマは、本人も自覚がないままに実は傷口が開いたまま未解決になっていて、その人の現在の人生に、気づかれることもなく影響を与え続けています。

トラウマが明確なものであれ、曖昧なものであれ、それを修復しない限り、人はそのトラウマから影響を受け続け、問題行動を繰り返し続けます。

今回は恋愛依存症を例に挙げましたが、これはアルコール依存にも薬物依存にもゲーム依存にも買い物依存にも摂食障害にも言えることです。

それから、依存症の中でも特に分かりにくい、仕事依存症 (workaholic)の人にもよく見られる傾向です。

仕事依存症が、幼少期の愛着トラウマに対する防衛として作用している事が多いのは、臨床に携わっていてもよく感じる事です。

仕事から逃げる人は多いですが、仕事に逃げる人も多いです。

そして、仕事に逃げる事でその人の家族が犠牲になっていたり、本人の健康が蝕まれていたら、やはりそれは問題です。

過去に受けた修復していない未解決のトラウマを繰り返すのは、被害者として直接的に繰り返す事もあれば、大人になって自分が加害者となって繰り返す事もあります。

先述した仕事依存性の人にしても、その人は幼少期、親が自分たち自身の問題で頭がいっぱいで、子供だったその人に本来必要であった愛情や注意関心が足りないまま大人になったかもしれません。

するとその人は自分自身の気持ちにも相手の気持ちにもうまく向き合えないので、親密さが居心地悪く、パートナーと心理的・物理的に距離を置くために仕事に逃げることになります。

その結果、その人のパートナーは、本来配偶者から受ける愛情や注意関心がもらえずにとても寂しい思いをする事になります。

その人が幼少期に親から受けた愛着トラウマを、全く同じ形で、しかし今度は加害者として、パートナーに経験させてしまう事になります。

これは通常無意識的に繰り返されている事で、本人に相手を傷つけているという自覚はありません。

この時、この人が、自分自身の未解決の愛着トラウマを意識化して理解を深め、修復に取り組む事で、その無意識のトラウマの再現も意識化できて、そこから脱却して、パートナーの情緒的ニーズに応えることができるようになります。

このように、私達人間は、自分の中で未解決な心の傷を知らず知らずに今の人生の中で繰り返す傾向にあります。そこから脱却するための大きな第一歩は、その未解決なものを自覚して向き合うことです。

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