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ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ (2009/日)(根岸吉太郎) 90点

2009-10-18 13:44:04 | 映画遍歴
予告編で見たラストのスティール写真が絶品で、その色彩感覚と構図の素晴らしさ、そしてやるせない男女の愛の在り方を一瞬のシルエットでとらえた映像は、冒頭から日本映画の伝統と技術、そして日本文学の心地よさまで包含し、最近の日本映画として集大成の域にまで達している出来だと思われる。

これほど素晴らしいショットが最近の日本映画にあったろうか、、。「人でもいいじゃない。生きてさえいれば、、」ラストのセリフである。もちろん原作通りでもある。この映画はほとんど原作からはセリフ的に逸脱していない。映画芸術を見ながら、ある程度、あの気恥ずかしい太宰文学の世界に入っていくことができる。あるいは、その片鱗をかじることができる。

【松たか子】が抜きん出て素晴らしく見える映画である。かといって、太宰役の【浅野忠信】がかすんでいるわけでもない。彼なりにあの、難しい太宰の役を体現することに成功している。

太宰はやはり無償の愛を問う人なのである。だから、恋人に裏切られようが無償の愛を貫く【松たか子】の、純粋でおおらかで大きな愛を受け止めるべく、結婚する。このエピソードは美しい。強い。大きい。後年それに気づき、元恋人は【松たか子】の亭主の弁護人になるのだ。

【伊武雅刀】と【室井滋】の夫婦ぶりもいい演技だ。酒場で酔い騒ぐ酔客たちの演技もみんないい。実にじっくりと描かれており、目を見張るほどだ。【広末涼子】も珍しくはっとする演技。驚く。

そして、【妻夫木聡】の横恋慕。原作では朝方に同衾しちゃうんだよね。それでも「生きてさえいればいいのよ」と言い放つところに「ヴィヨンの妻」の凄さがあるのだが、映画では無理やりの接吻で止まっている。ここがやはり物足りない気もするが、【根岸】流の太宰の解釈なのであろう。

でもやはりラストの映像である。取り立てて何の美しさも感じない終戦のどさくさを感じさせる普通の街角。べたべたランダムにチラシのような広告が貼られているむしろ汚いだけの壁。それを背景に、二人が寄り添い柔らかくそしてしっかりと手をつなぐ。「こんな時代でも私たちは生きてさえいればいいのよ。」その強さ。崩壊しかけているかのような現代に通じているものがあると僕は見た。

そして、色彩はモノクロに変わり、フェードアウトする。何と夢幻的な終わり方か、、。字幕が流れてても僕は震えていた。

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