70分程度の劇である。但し、通常の劇のように俳優が奏でるセリフを全部理解しようとすると、とてもしんどくなる。難解な劇に思えてくる。だから僕はしばらくして、この劇は死ぬことを意識した男の走馬灯のような意識の流れを描いた作品だとした。
そうすると、なんだかすごく俳優の感覚がこちらに流れてくる。ポエムだと思えばいい。美しい。時どき、下品な言葉も聞こえてくるが、気にもならない。卑猥な言葉にも詩情がある。
斬新だ。でも新しさはそう感じない。何か、演劇の原点を見ているような、演劇のエッセンスだけを見つめた作品のように思えてくる。
途中、小道具を影絵で表現する。インパクトのある演出である。ラスト、主人公の男がベッドで亡くなり、妻が頭を垂れる。その姿は、ムンクの「病める子」を思い起こさせる。
僕は俳優的には主役のはしぐちしんを注目していたのだが、彼はいつもより猛演出のせいか、いつもの自由な声の伸びやかさをあまり感じなかった。といって、けなしているわけではない。演出が全般的にはしぐちを抑えていたのだろうと思う。演技をしている感じであった。たまにこういうはしぐちもいい、と思う。
秀作である。演劇の基本がすべてここにある。そんな感じだ。
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