大晦日に見た映画、恐らく洋画の今年ベスト1。家でもめ事を抱えながら見た映画で、心は映像と自分の気持とがごっちゃになって混濁気味。でもそんな焦燥感が不治の病を抱えた主人公の心象と相重なり、この2時間映画は僕の彷徨い感をググッとえぐる。
主人公と兄、そして民宿の主の男と一人の女の物語。女は北京から理由あってロンドンに移住し、そして柳川にやって来た。柳川は北京語でリウ・チュアンと呼び、女と同じ名前である。その柳川に兄を誘って余命いくばくもないドンがやってくる、、。
もうそれだけで静かに人生が流れています。
喪失感を抱えたまま、人は生きてゆく。登場人物で主人公の明日がないのを知っているのは主人公を除いてはわれわれ観客のみ。主人公のもれいづる言葉は彼の絶望感を感じさせるが、だからこそ透き通っている。
登場人物たちは柳川で彼とともに最後の時を過ごしたが、1年後になって初めてその真実を知る。彼は死んだあとに何をも残そうとしなかった。無のまま彼は死ぬことを望んだ。
この映画の好きなところ。
①冒頭の、病気を告知され呆然となったところで、見知らぬ女に煙草をせがみ、自分の病気を告げる。すると女はそそくさと逃げる。そんな哀れな存在となったぼろぼろの自分を自覚するシーンがたまらない。
②女と3人の男。実はそれぞれセックスレスだ。偶然かもしれないが、透明感が高まり、作品を醸造している。
③何回か流れるヨーコとレノンの音楽。美しい旋律で、たゆとう時間が過ぎる。
④柳川は堀が市中をめぐる城下町だ。日本中でも珍しい時間の止まったかのような町です。映画では大林伸彦の「廃市」等映画で取り上げられるも、この作品が一番いい。あまりの美しさに僕も4,5度行きました。
素晴らしい映画でした。2022年の最後の日にこんないい映画を見られて僕は幸せなのかもしれない。
家のもめごとはドアを開けようとする時まで実は尾を引いていたが、「お帰りなさい」とドアの向こうから小さな声がした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます