この何か俗っぽい題名からは何も浮かばない。ましてや、英国の暗い湿度の体感は微塵にも感じられない。まるでサスペンスの王道とでも言える娯楽作品なのだが、じわじわ追われるその閉塞感から【ポランスキー】の心情が推し量れる展開とも見える。
ポランスキーはアメリカから追われている。芸術家にして犯罪逃亡者でもある。その彼が堂々とヨーロッパ資本で作品を作っているということもすごいが、特にこの映画、アメリカ批判をしているわけでもない。(多少そう見える展開ではあるが、実はそうではない)
彼にとって、自分を追う何かじめじめしたもの、太陽が自分にかかり地面に影が発生し、一瞬怯えさせる何か恐ろしい存在不安的なもの。それらを映像化させれば、彼の右に出るものはいないだろう、と思われるぐらいすべての映像に開放感がない。しかして色彩は当然陰鬱な曇り空の鉛色となる。
当作品の、こういう巻き込まれ型サスペンスはいわば彼の人生そのものであり、彼がそれを知ってか知らずか、勢い、作品として異彩を放っているのは被害妄想的閉塞感であると思われる。
前置きが長くなりました。この作品も、巻き込まれ型の典型であり、わけのわからない背景(政治・権力)を感じていて、そこでとどまれば平穏な生活が待っているのに、逆に突き進んでいってしまうといったいわば不条理型破滅サスペンスとなっている。
的確な俳優陣(それにしても豪華。そしてピッタシはまる【ユアン・マクレガー】と 【オリビア・ウィリアムズ】の弱強のアンサンブル)と鉛色の空を題材に、現代のテーマをトッピングして華麗なサスペンスを生み出してゆく。そう、この映画はあくまで娯楽作品だ。内容を見ると言うより芸術家の華麗且つ流麗な映画タッチを見るべき作品だろうと思う。しかし、この映画には余裕があり過ぎる。ゴーストと言う意味に何か掛けているのだ。ゴーストをすべての登場人物に引っ掛けてあるような気がする。
主人公のライターは最後までゴーストであったり(エンドクレジットでも実名はない)、イギリスの元首相はアメリカのゴーストでもあり、妻のゴーストでもあった。それ以上掘り下げる必要はないかもしれないが、ポランスキー自体も自分の存在自体をゴーストとなぞらえているような気もしてくるから不思議である。
というわけでこの映画、とても面白かったです。ラスト、音響が発生した後、原稿が一枚ずつ道路に飛散した美しさ。ぞっこんでしたね。彼一流の映画の美学、流儀を感じ取りました。
でも、何でもかんでも謎の闇をCIAにしちゃうのはどうなのかしらね。こういう結末はちょっとある意味個人的には食傷気味です。
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