男は壁に書かれた落書きを消している。一戸建てのマイホーム。一見普通の家に見える。何故こうなったのだろう、彼は考える。
死刑囚を持つ家である。何が彼をそうさせたか。
結構普通の家庭の話なんですね。ただ父親が毒を持っている。そのガスが徐々にこの普通の家庭に充満してきて、みんな一人一人蝕まれてくる、、。
しかし、この父親はこのことにあまり気づいていない。マイホームを持つことを目標に一所懸命になって働いている。そしてその毒ガスは家族のみんなにじわじわと漏れ始めていた、、。
崩壊し始めた家庭では料理でさえ作ることはできなくなっている。妻までが即席めんを食べている。何気ないシーンだが家庭崩壊の匂いが放たれている。居心地の悪いホラーである。
けれども、この死刑囚を出してしまった家はある意味日本全国どこにでもいる一つの家族に過ぎないのかもしれない。みんな家庭の中でだれかがガスを出している(或いは出されている)ことに気づいていないだけなのかもしれない。
獄中結婚する女は夫の刑死後初めてこの家の崩壊の元凶に気づく。自分の有毒性の存在に気づいた父親は自死を図るが、もはや死さえも彼を見放した、、。未遂の後でもそばをすするのである。人の形をしたモンスターのごとくたくましい、、。
家庭という存在を真正面から描き出した赤堀の映像は強烈だ。家庭というものは多少なりともガスは発生するだろう。葛城家は全員倒れてしまったが、大半の家庭は通常の日常を過ごす。普通のおうちと死刑囚のいるおうちとは全く違うようで、ひょんなことから自己崩壊による変質はあり得る。
赤堀は普通のおうちが崩壊する地獄を描く。しかしそれは決して他人事ではない。その感覚がぞくぞくさせるのだ。
最後に、キーパーソンなる父親役の三浦友和ですが、彼はやはりかなり役への作り込みはしていますが、生来の清い部分を消せないでいると思います。
でもこの役を例えば寺島進が演じるとコワい部分が前面に立ち、恐らくこの作品のテーマである(と、僕が勝手に思っている)普遍性からは逸脱してしまうと思うのです。その意味では三浦の起用は成功していると思います。
秀作です。
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