Sightsong

自縄自縛日記

バフマン・ゴバディ『サイの季節』

2015-08-02 22:00:09 | 中東・アフリカ

シネマート新宿にて、バフマン・ゴバディ『サイの季節』(2012年)を観る。

クルド系の詩人サヘルは、イラン・イスラム革命(1979年)において投獄される。すべては、妻ミナに横恋慕していた運転手アクバルの策謀であり、かれは新政権で権力を握っていた。ミナは獄中においてアクバルに卑劣にレイプされ、ふたりの子どもを産む。そして、出獄後、夫サヘルの死を知らされる。しかし、サヘルは生きていた。30年近い獄中生活のあと、サヘルはミナを追ってイスタンブールへと旅立つ。またも運命のように出逢うサヘルとアクバル。

「国境に生きる者だけが新たな祖国を作る」という言葉が、映画の中に挿入される。よく知られているように、ゴバディは反体制の咎でイランに戻ることができず、亡命生活を余儀なくされている。インタビューによると、かれは英語がろくに話せず、居場所を喪失し続けてきたようだ。同じようにイランで映画を撮ることを許可されないジャハール・パナヒが身をもって不条理を受け止めざるを得なかったことも思い出さざるを得ない(ジャファール・パナヒ『これは映画ではない』、ヴィジェイ・アイヤー『In What Language?』)。自己喪失の淵にあったというべきか。

映画においては、超現実的に、無数の亀が空から降ってきたり、サイが行く先を遮ったりする。正直言って、映画的かどうかという意味ではさしたる傑作ではないかもしれないと思う。しかし、このサイのどうしようもない重さこそが観る者の心を支配する。

●参照
バフマン・ゴバディ『ペルシャ猫を誰も知らない』(2009年)
バフマン・ゴバディ『半月』(2006年)
バフマン・ゴバディ『亀も空を飛ぶ』(2004年)
バフマン・ゴバディ『酔っぱらった馬の時間』(2000年)


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