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自縄自縛日記

石原豊一『ベースボール労働移民』、『Number』のWBC特集

2013-03-24 00:05:00 | スポーツ

第3回のWBCでは、日本は準決勝でプエルトリコに敗れ、そのプエルトリコを圧倒したドミニカが優勝した。

前回同様に、面白く、興奮させられた大会だった。ちょっとした驚きは、オランダ代表チームの主力が、カリブ海のオランダ領キュラソー島出身のバレンティン(スワローズ)やアンドリュー・ジョーンズ(今年からゴールデンイーグルス)であったことだ。つまり、強豪チームは、米国や日本・台湾・韓国(早々に敗退はしたが)などを除けば、ラティーノのチームなのだった。かつて世界一の称号を欲しいままにしたキューバに2回も土をつけたオランダは、欧州のチームであるというには無理がある。

以前から「やる気」を問われている米国は、今回も途中で姿を消した。ひょっとすると、MLBは間違いなく「世界最高の野球リーグ」ではあっても、もはや、それに対する貢献は米国人が中心だとは言いきれなくなっているのかもしれない。何しろ、WBCのMVPは、ヤンキースの4番を張るドミニカ人・カノーである。 

石原豊一『ベースボール労働移民 メジャーリーグから「野球不毛の地」まで』(河出ブックス、2013年)を読むと、時代は確実に変わっているのだという思いを強くする。

独自進化を遂げたキューバは別として、このルポと分析を通じて明らかに見えてくるものは、野球という装置による<帝国>の世界的ネットワークが着実に構築されてきていることだ。ドミニカも、プエルトリコも、はたまたコロンビアやパナマも、自国内で完結する野球産業はもはや持ちえず、MLBへの<労働力貯水池>として、MLBに包摂されている。メキシコリーグは独自性を持つという意味で少し異なるものの、もとよりMLBの一部と化している。それらの間では、競技レベルの差による労働移民の越境がなされているのである。

著者によれば、アジアの野球も、その構造に組み込まれてしまっている。明らかに、日本のNPBを頂点とするピラミッド構造があり、それはさらにMLBのピラミッドとリンクしているというわけだ。ひとつの曲がり角は、野茂英雄が海を渡った1995年だった。勿論、先にカリブ海地域がMLBのピラミッドにビルトインされたのは、そこが米国の政治的な裏庭だったからである。そして、最近では、中国にも、米国によって野球装置が据え付けられつつあるという。

成程ね、と、複雑なダイナミクスを垣間見たような気にさせられる。少なくとも、WBCで米国が敗れ、MLBを支えているドミニカや日本がナショナリズムを高揚させることは、MLBという資本システムにとって、悪い話ではないわけである。

ところで、『Number』誌(文藝春秋)のWBC特集号が発売されたので、いそいそと買って読んだ。

何だか、また、台湾戦での井端のヒットやオランダ戦での打線爆発など、興奮が蘇ってきてしまう。やはり采配批判がなされているが、4強となって日本野球の存在感を示すことができたのだから、良しとすべきである。

次はまた4年後か・・・。

●参照
WBCの不在に気付く来年の春
平出隆『ベースボールの詩学』、愛甲猛『球界の野良犬』(米国の野球ルーツ捏造)
パット・アダチ『Asahi: A Legend in Baseball』、テッド・Y・フルモト『バンクーバー朝日軍』(かつての移民による野球)
『Number』の「BASEBALL FINAL 2012」特集(事前のメンバー予想との違いが面白い) 
『Number』の「ホークス最強の証明。」特集
『Number』の「決選秘話。」特集
『Number』の清原特集、G+の清原特集番組、『番長日記』
『Number』の野茂特集


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