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自縄自縛日記

モフセン・マフマルバフ『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』

2010-12-25 09:20:05 | 中東・アフリカ

イランの映画作家モフセン・マフマルバフ『カンダハール』(2001年)を発表した後の発言録、『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(現代企画室、2001年)。同年の「9・11」直前であり、タリバン政権下のアフガニスタンの姿を伝えている。外部からアフガニスタンに向けられる視線の不在を訴えているレポートでもある。

タリバンがバーミヤンの大仏を破壊したのは2月であった。そして北部同盟のマスードが暗殺されたのは「9・11」の2日前であった。

「もし、アフガニスタンが山岳地帯でなかったら、ソ連はアフガニスタンを容易に征服していただろう。あるいは、アメリカがその野望を、実行に移していただろう。しかし、峻険な地形は、軍事費を増大させるばかりか、戦後の再建と平和に必要な費用も莫大なものにする。アフガニスタンの山岳が険しい地形でなければ、間違いなく、その経済的・軍事的・政治的・文化的な未来は違っただろう。これは、アフガンの民の歴史的運命に書き込まれた、地理的な不運というものなのだろうか?」

ここでマフマルバフは、その後の泥沼の拡大再生産を予見している。岩山と部族社会という側面は現代の支配方策を持ってしても突き崩すことが難しいものであり、アフガンはもとより、同じ側面を持つイエメンでも、「アラビア半島のアルカイダ」が拠点にしている。シンポジウム『中東の今と日本 私たちに何ができるか』(2010/11/23)においても、「アフガンの治安悪化についての誤算は地域性や民族性であり、全国横断的な政治団体はできないということ」との指摘があった(田中浩一郎氏)。

重要な指摘は、タリバンが「政治的にはパキスタンに庇護された傀儡政府」であり、「個々の人間としては、ムジャーヒディーンを育てるパキスタンの神学校(マドラサ)で教育された、飢えた若者たち」であったということ。また、世界の麻薬市場で得られる利益の800分の1しか生産国アフガンが得ていないこと(まるでコーヒー市場のように!)。

一方では、アフガンに対する世界の無関心を嘆くあまり、まるで帝国が介入すればまだましな方向に向かうかのように書いているようにも感じられる。女性が顔を隠すことへの西側的な批判の視線も気になるところではある。米国介入後のアフガンについて、2001年時点でもやもやしていたマフマルバフの考えに、どのような発展、あるいは、変化があっただろう。

「アフガニスタンには、クウェートとは違って、石油もそれによる余剰収入もない。仕事を待ち望むアメリカ軍に、その費用を払うことができない。しかし、他の答えも聞こえてくる。アメリカがあと何年かターリバーン政権の存続を許していれば、東洋のイデオロギーについて世界中で醜悪なイデオロギーが作られ、アフガニスタンでの近代主義と同様、それに対する拒否反応を起こすだろうからだ。世界のある地域では革命的で改革的だと思われているイスラームが、ターリバーンの逆行的なそれと一緒くたにされたら、世界はイスラームの拡大に対し常に反発を示すだろう。」

●参照
中東の今と日本 私たちに何ができるか(2010/11/23)
ソ連のアフガニスタン侵攻 30年の後(2009/6/6)
『復興資金はどこに消えた』 アフガンの闇
ヴィム・ヴェンダース『ランド・オブ・プレンティ』(「9・11」後の病んだ米国)
マイケル・ウインターボトム『マイティ・ハート 愛と絆』(病んだ米国の非対称な視線)
コーヒー(1) 『季刊at』11号 コーヒー産業の現在
コーヒー(4) 『おいしいコーヒーの真実』

●参照 イラン映画
カマル・タブリーズィー『テヘラン悪ガキ日記』『風の絨毯』、マジッド・マジディ『運動靴と赤い金魚』
サミラ・マフマルバフ『ブラックボード』(マフマルバフの娘)
バフマン・ゴバディ(1) 『酔っぱらった馬の時間』
バフマン・ゴバディ(2) 『ペルシャ猫を誰も知らない』
バフマン・ゴバディ(3) 『半月』
バフマン・ゴバディ(4) 『亀も空を飛ぶ』
ジャファール・パナヒ『白い風船』
アッバス・キアロスタミ『トラベラー』
アッバス・キアロスタミ『桜桃の味』


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