高野孟『沖縄に海兵隊はいらない!』(モナド新書、2012年)を読む。
著者は民主党立ち上げ時のブレーンのひとりであり、旧来の日米安保の枠組から新時代の国際関係へと脱却しようとする思いが強く押し出されている。
これを読むと、民主党が無残にもヴィジョンを失い、鳩山元首相に象徴される基地撤去の方向性を自ら棄て去り、その結果存在価値さえ失っていることが、情けなくてならなくなる。
著者の分析と主張はきわめて鋭く明快である。もっとも、沖縄の基地問題をずっと見ている人にとっては、その多くは半ば常識であるに違いないものだ。
まさにその情報と認識が共有されていないことが問題なのであり、あるいは共有しようとしないことや、論理的・戦略的に詰めようとしない「東京」の政治や大メディアの知的退行にこそ問題の根っこがありそうに思われる。
いくつかの論点がある。
●戦争の方法や国際関係が大きく様変わりし、海兵隊そのものの存在意義が希薄になっている。
●沖縄に基地を置くことが地政学上重要だという、押し付けられた「常識」は根拠をもたない。オスプレイは航続距離が伸びたとはいえ輸送機に過ぎず、さらに長距離には、佐世保に停泊している空母によって移動することになる。そして司令部と本体のグアム移転がある。逆に分散していることで非効率になっている。
(あれだけもっともらしく沖縄の地政学的重要性を説いていた森本敏防衛大臣(>> リンク)が、ついに、それがウソであったと述べたばかりである。)
●北朝鮮や中国や台湾での有事を想定するというが、そのような事態が仮にあるとして、そのときに必要な機能は海兵隊ではない。
●もはや、米軍基地縮小に伴い日本の軍備増強が必要というトレードオフは成り立たない。
●辺野古の新基地を米海兵隊以上に欲しがっているのは陸上自衛隊である。
●グアム移転費用カットという米議会の動きは、日本で報道されているような「脅し」ではなく、その逆である。米議会では、すでに沖縄の海兵隊不要論などさまざまに現実的な案が出されている。
●今では、「沖縄+米議会」vs.「日米両政府」(米国の安保既得権益層、米国に出て行ってもらっては困る日本の既得権益層)と視ると状況が明快になる。
小沢一郎と著者の国連主義にはちょっと首を傾げてしまう点もあるが、それを含めて、良書である。ぜひご一読を。
●参照
○前泊博盛『沖縄と米軍基地』
○屋良朝博『砂上の同盟 米軍再編が明かすウソ』
○渡辺豪『「アメとムチ」の構図』
○渡辺豪『国策のまちおこし 嘉手納からの報告』
○エンリコ・パレンティ+トーマス・ファツィ『誰も知らない基地のこと』
○宮城康博・屋良朝博『普天間を封鎖した4日間』
○由井晶子『沖縄 アリは象に挑む』
○久江雅彦『日本の国防』
○久江雅彦『米軍再編』、森本敏『米軍再編と在日米軍』
○『現代思想』の「日米軍事同盟」特集
○終戦の日に、『基地815』
○『基地はいらない、どこにも』
○知念ウシ・與儀秀武・後田多敦・桃原一彦『闘争する境界』
○鎌田慧『沖縄 抵抗と希望の島』
○アラン・ネルソン『元米海兵隊員の語る戦争と平和』
○10万人沖縄県民大会に呼応する8・5首都圏集会(オスプレイ阻止)
○オスプレイの危険性(2)
○オスプレイの危険性
○6.15沖縄意見広告運動報告集会
○オスプレイの模型
○60年目の「沖縄デー」に植民地支配と日米安保を問う
○辺野古の似非アセスにおいて評価書強行提出
○2010年12月のシンポジウム「沖縄は、どこへ向かうのか」
○シンポジウム 普天間―いま日本の選択を考える(1)(2)(3)(4)(5)(6)
○『世界』の「普天間移設問題の真実」特集
○大田昌秀『こんな沖縄に誰がした 普天間移設問題―最善・最短の解決策』
○二度目の辺野古
○2010年8月、高江
○高江・辺野古訪問記(2) 辺野古、ジュゴンの見える丘
○高江・辺野古訪問記(1) 高江
○沖縄・高江へのヘリパッド建設反対!緊急集会
○ヘリパッドいらない東京集会
○今こそ沖縄の基地強化をとめよう!11・28集会(1)
○今こそ沖縄の基地強化をとめよう!11・28集会(2)
○「やんばるの森を守ろう!米軍ヘリパッド建設を止めよう!!」集会