Sightsong

自縄自縛日記

豊里友行『沖縄1999-2010 改訂増版』

2011-04-13 03:55:47 | 沖縄

豊里友行『沖縄1999-2010 ―戦世・普天間・辺野古― 改訂増版』(沖縄書房、2010年)をじっくり観る。同名の写真集を半年程度でリニューアルしたものである。A4横になり、改訂前より面積比が3倍程度になっている。表紙の写真は若干右にずらしたようだが、意図的かどうかわからない。

この写真サイズの大型化が、写真集として大きな違いをもたらしている。基本的に印刷のクオリティは同じだが、大きい分、以前は白飛びしていたような箇所でもトーンが出ている。また、視野の占領野が広いこともあり、作品に集中できる。

こうして比較してみると、改訂前のものは<カタログ>的であった。沖縄における社会問題・社会運動のカタログというわけだ。それを否定するわけではないし、糸満、辺野古、渡嘉敷島、普天間、米兵のたまり場など、この写真家が地道に被写体たちと一体化していることは、写真作品として素晴らしいと思う。その一方、過度な認知的情報、そして北井一夫氏のいうような政治への過度の依存といった側面が目立っていたのだろう。もちろん、改訂増版になってもその側面は変わらない。しかし、<ビジュアル>が<カタログ>を押し戻すことにより、より良い作品になっているのではないか。キャンプ・シュワブの鉄条網(フェンス化されてしまった!)の写真を観るとその想いを強くする。

アートと社会との併存と依存については、昔からの論点でもある。しかし、アートを手段として社会を語るのは邪道だというような単純な見解には賛成できない。人間は<ことば>であり、アートでさえ<ことば>を超える意図があっても<ことば>であるからだ。

今回、写真の数も増えている。特に航空自衛隊那覇基地で愉しそうに戦車で遊ぶ子どもたちをとらえた「エアーフェスティバル」や、普天間基地で大きな星条旗をバックにガスマスク姿でポーズをとる米兵をとらえた「毒ガス武装した米兵」、バタくさい飲み屋の前で自転車で遊ぶ子どもたちをとらえた「金武町の飲み屋街」、曇天の月夜のエイサー景「旧盆のエイサー」など、なぜこれまで収めなかったのだろうという作品である。

これで1,050円と相変わらず廉価である。商売にならないでしょう、豊里さん。

ところで、巻末に収録されている大城立裕の小文は支離滅裂である。多良間島の組踊に下痢で参加できなかった若者のエピソードは、『沖縄 「風土とこころ」への旅』(1973年)(>> リンク)でも紹介されているが、ここでは何が言いたいのか、意味不明だ。何だろう、これは。

●参照
豊里友行『沖縄1999-2010』、比嘉康雄、東松照明
豊里友行『彫刻家 金城実の世界』、『ちゃーすが!? 沖縄』
比嘉豊光『光るナナムイの神々』『骨の戦世』
仲里効『フォトネシア』
『LP』の「写真家 平敷兼七 追悼」特集
「岡本太郎・東松照明 まなざしの向こう側」(沖縄県立博物館・美術館)
平敷兼七、東松照明+比嘉康雄、大友真志
沖縄・プリズム1872-2008
東松照明『長崎曼荼羅』
東松照明『南島ハテルマ』
石川真生『Laugh it off !』、山本英夫『沖縄・辺野古”この海と生きる”』


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (豊里友行)
2011-04-13 18:15:48
こんばんは。
毎度ご紹介いただきありがとうございます。
初版の売れ行きが良くて調子にのって改訂増版も千部刷ったので大量の在庫を抱えて四苦八苦しております。
初版のように全国の書店に並べる手続きをしてないので豊里友行の行商に全部圧し掛かってきたため無理がありました。
やはり私の立ち上げた出版社沖縄書房では1~3年くらいで売り切らないと在庫を置いたり次の写真集の印刷代などを工面できませんので・・・。
いちおう改訂増版は、『東京ベクトル』豊里友行写真集500部在庫切れマジカ、『彫刻家金城実の世界』豊里友行写真録と『沖縄1999-2010』の初版の黒字分に私の写真業の蓄えのおかげでなんとか綱渡りをしています。
来年発売予定の写真集の資金が今回の改訂増版の行商にかかっています。
印刷の半分である600部売れば印刷代をペイできるのでやはり行商の売れ行きにかかっています。
新年そうそうから行商しているけど今回は初版を売っている分売れ行きが鈍い・・・。
定価1050円では初版のように売れない限り大赤字かもしれません。
今回の失敗を肝に銘じたいものです。
とはいえ地道に行商あるのみです。
Sightsongさん今後ともどうかよろしくお願い致します。
 
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Unknown (Sightsong)
2011-04-14 01:44:15
豊里さん
ナマのお話をありがとうございます。改訂だときついということなのですね。ただあのサイズで1050円はやはり廉価、全国の書店に並べれば売れると思うのですが。
来年の写真集とはどのようなものでしょうか、楽しみにしています。
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Unknown (豊里)
2011-06-04 18:58:15
『彫刻家金城実の世界』に続き、この『沖縄1999-2010』改定増版もさがみはらの写真賞にご推薦を受ける。
その推薦人は北井一夫先生だということに驚く。
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Unknown (Sightsong)
2011-06-05 00:08:37
豊里さん
北井さんのご推薦とのこと、喜ばしいことです。それにしても、前版についてはさほど評価されていなかった北井さんが、新版についてどうお考えなのか、非常に興味があります。
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Unknown (なお)
2011-08-17 12:34:38
『沖縄1999-2010』は豊里友行先生の現在進行形の写真の仕事です。
沖縄の写真同人誌的な写真雑誌「LP」で今年4回の「沖縄2011」を豊里先生は連載しています。
第一弾「高江」、第二弾「読谷 チビチリガマの慰霊祭」、九月発売の第三弾では「コザ」を採り上げるようです。
この伏線を持って来年の沖縄・本土復帰40周年企画として「画廊沖縄」で5・15を挟んで写真展を開催する予定のようです。
沖縄に照準を定めた新進気鋭の写真家・豊里友行にご注目ください。
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Unknown (Sightsong)
2011-08-17 22:34:19
なおさん、
もちろん注目してのことです。「LP」は最近見ていませんでしたが、連載しているのですね。
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