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自縄自縛日記

加々美光行『未完の中国』

2016-07-07 22:25:18 | 中国・台湾

加々美光行『未完の中国 課題としての民主化』(岩波書店、2016年)を読む。

たとえば、文化大革命をどう見るか。権力をふるうことにより、その過程に参加する者は、「自己を喪失」し、「何者でもない者」に容易に変貌し得た。この恐ろしさを肌で知った紅衛兵の経験や、下放された者たちの経験が、のちの民主化運動へとつながった。

それは文革そのものだけについて言えることではない。著者は、そもそも中国共産党の権力の網に「自己の喪失」が見られたからこそ、生起してくる政治を取り戻すべく、毛沢東が文革を仕掛けたのではないかと示唆している(ように読める)。何も劉少奇や林彪を打倒するだけであれば、組織全体の屋台骨を揺るがすようなことをする必要はなかった。

そしてまた、いまの日本にも「自己の喪失」=「何者でもない者」化を容易に見出すことができる。これは「政治」に関与する「市民」とは対極にあると言うこともできる。

もとより「天下」概念と近代国家とが、お互いに相容れない概念なのだった。その矛盾は、少数民族の置かれる場所において激しくあらわれた。(民族自決主義に対する考え方が、中国において如何に変貌していったかについては、加々美光行『中国の民族問題』に詳しい。)

本書において中国近現代史を振り返ってみると、「中国」というものが、タイトル通り未完の壮大なプロジェクトであったことがよくわかる。大躍進政策や文革は失敗だった、第二次天安門事件もおぞましい国家的暴力であった、それは否定しようのない事実なのだが、あとから善悪でのみ単純な結論に依りかかることは思考の放棄に他ならない。

●参照
加々美光行『裸の共和国』
加々美光行『現代中国の黎明』 天安門事件前後の胡耀邦、趙紫陽、鄧小平、劉暁波
加々美光行『中国の民族問題』
L・ヤーコブソン+D・ノックス『中国の新しい対外政策』
国分良成編『中国は、いま』
稲垣清『中南海』
ダイヤモンドと東洋経済の中国特集
白石隆、ハウ・カロライン『中国は東アジアをどう変えるか』
『世界』の特集「巨大な隣人・中国とともに生きる」
『情況』の、「現代中国論」特集
堀江則雄『ユーラシア胎動』
天児慧『中華人民共和国史 新版』
天児慧『中国・アジア・日本』
天児慧『巨龍の胎動』
汪暉『世界史のなかの中国』
汪暉『世界史のなかの中国』(2)
加藤千洋『胡同の記憶』
藤井省三『現代中国文化探検―四つの都市の物語―』


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